アルパのマイクに聞いてみた


明智真理子さんの本、アルパのマイクに聞けばいい。という作品を買いまして。
もう一冊のプロレスの本もあるのですがコッチを先に読み終わって、とてもとても面白かった!のでご紹介&感想をば。

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明智真理子さんはプロレスに明るいライターさんであり、ディック東郷さんの
東郷見聞録
という本にもかかわった方だそうで。コレを読むまではプロレスに詳しい別嬪さんぐらいしか明智さんに関する情報が無く。そりゃ好きなわけだ!と思うような例えや描写も随所に見られます。
シベリア鉄道で窮地に陥った時に、コマンドサンボだのコピィロフだのいうフレーズは普通使わないだろwww
と思うものの、小学生の頃、アレキサンダー・カレリンとの引退試合からこっち前田フリークの私には笑えるようで笑えない描写でもありました(ご無事で何よりです)。

このアルパのマイクに聞けばいい、という本は、明智さんがアメリカとロシアを旅した日々の事を書き記したもので、それぞれ1つずつの作品として収録されています。
私も大好きな映画「世界最速のインディアン」のバート・マンロー(演:アンソニー・ホプキンス)よろしくボンネヴィルを目指す最中に出会ったのがマイクさん。
アメリカに勇躍降り立つも、なんとのっけからケータイを失くす善良な市民ことアケチさん。その後もハプニングが続き、クスクス笑ってる間に旅が進む。
危なっかしくて、人の優しさが身に染みて、それでいてちょっとうらやましい。

事あるごとに飛び出す「善良な~」の天丼が大好きです。

子供の頃、自分もいつか、こんな風に旅に出るんだと漠然と思っていた。
漠然としたままメキシコには行くだけ行ったけど、何にもなれずに帰ってきて、何にもなれずにココでまだ素人文章を書いている。
だからなのか、また最近、旅ものの話が好きになってきている。心に余裕がある証拠だ。
心に余裕が無いと、自分の好きなものを話している楽しそうな人を見るだけで辛くなるから。
明智さんも文中で書いていたように、人の優しさが回り巡って自分にもたらされている。国と人は別で、国とは個人の集まりなんだ、と。
だからきっと、嫌な思いをしている人は、その国の人ってだけで嫌な思いをしたり、嫌がらせをしたりされたり、してしまうんだと思うし、この旅の幸運さを改めて噛みしめる。
自分もそうだったなあ、あの短い経験の中でもそうだったのだから、もっとアチコチ移動してれば、色んな事があるし、色んな人に会うし……いいなあ。
終始うらやましく、面白おかしく拝見しました。
ドン・フライ似のシェフ、ハンセン似のオバサン、ウソツキー教授、ヒョードル似の係員などなど、なんとなく顔ぶれの想像がついちゃうのがいいですね。

ツイートでも出ていた尻ネタも健在で、テンションの高さが伺える。
アメリカもロシアも、とことん広い。
その広さを想像するのは難しいけれど、その国や町の片隅で確かに起きていた出来事や出会っていた人々の事を思っていくと、その集合体のデカさも掴みやすいかもしれない。
そしてアメリカもロシアも、とんでもなくデカいんだ。

メトロセンターのコバーンも、情熱的なミゲル君も、マジカルな空港職員さんも。そしてマイク市長(ハガーじゃないよ)に、その息子さんことケイシーと、愛車コルベット(改)。
アメリカの旅は明るいようで、最後にはエノラ・ゲイ記念館についてと、そこでの体験を通した言葉が記されていて。
楽しいばかりじゃないけれど、やはり改めて考えたり比べたりできる今は、とても恵まれた時代なのだと読んでいて思いました。

シベリア鉄道も、いつか乗ってみたいと思っている。
いつか、いつかばかりが出てくる文章だけれど、それだけキッドさんの精神状態が上向きつつある兆候なのでご勘弁願いたい。
それに乗り込んで旅をするアケチさん。基本的には列車の中に居るだけなのに、広大過ぎて地面に見えるほどの凍った海や、何処までも広がる雪景色が脳裏に浮かぶ見事な旅情記でもあります。
車内の様子もヴォルク・ハンに弟子入りしなかったことを悔やむような展開がありつつも、何処か牧歌的で、窓からは岩石が投げ込まれ、食事を堪能し(炭酸水、どんなキョーレツな代物なのか飲んでみたい)そしてモスクワからは飛行機で舞い戻る。
押し問答にも慣れ、この旅を通した自身の変化を綴ってこの本は終わっている。

本は書く人も読む人も変えてくれることがある。
とってもマジカルなものだ。
その魔法は何も格調高い文学であるとか、ホンモノの伝記や戦記などなどだけじゃない。
どんな人が書いた、どこのどんな本にだって、その魔法は宿っている。
小さなマジカルファイアーが、やがてミスター・ポーゴ様もビックリのビッグファイアー攻撃になるかもしれない。
ウジウジしてられないな、私も頑張ろう。そのためには、コツコツ仕事をしなくちゃならないな…それはダルいな。などと思いつつ、満足して本を閉じました。

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