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経済・社会の仕組みを変えてゆくプレイヤーとして、 高度デザイン人材に求められるものとは?(前編)【Camp Interview】 vol.4

加藤 公敬 氏
DXDキャンプ 特別講師

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インタビュアー
湯浅 保有美 氏

DXDキャンプ デザインHR/コミュニケーター

オープンイノベーションの場を通じて新しい産業の創造や社会システムを構想する一般社団法人FCAJ※の理事をはじめ、「デザイン」を軸に経済・社会の未来構想に取り組んでいる、加藤氏。
昨年は「DXDキャンプ」のオータムキャンプでも、デザインとICT技術が、いかに連動してイノベーションを生みだしてきたか、というプレゼンテーションを行っていただきました。

今回は、さまざまな専門性を持つビジネスパーソンが、広義の「デザイン」を学び、活用していくために大切なことはなにか、というテーマでお話をお聞きしました。

プロフィール

加藤 公敬 氏
元 公益財団法人 日本デザイン振興会 常務理事
一般社団法人 フューチャーセンターアライアンスジャパン(FCAJ)理事
一般社団法人 日本デザインマネジメント協会 顧問
九州芸術工科大学(現 九州大学)卒業後、富士通株式会社に入社。総合デザインセンター長として様々な分野のデザインを担当。その後、富士通デザイン株式会社代表取締役社長に就任。「デザイン思考」によるイノベーションの実現や加速から経営や人材育成、地域でのデザイン振興にも取り組む。

一般社団法人Future Center Alliance Japan(FCAJ)は、イノベーションの実践に取り組む企業、自治体、官公庁、大学、NPO等が相互連携する一般社団法人組織。イノベーション加速支援環境である場の構築と、イノベーションの方法論の研究と普及、実践の推進を目的として活動している。代表理事は、紺野登氏(経営学者/多摩大学大学院教授)。イノベーションにおける「デザイン」の機能や期待が拡大するなか、FCAJの分化会の一つとして2022年、「デザイン」の機能と意味を社会、市民、産業が共に考えることをめざした「デザインラボ」がスタートした。

いま、なぜすべてのビジネスパーソンに「デザイン」が必要なのか。

ーー湯浅 保有美氏 (以下、湯浅):オープンイノベーションを牽引するFCAJの活動として、この春、加藤さんを中心に「デザインラボ」が立ち上がったと伺っております。これからの経済、社会を構想していくにあたり、「デザイン」の重要性がさらに高まっている証と理解しております。
加藤さんは、これまでさまざまなところで「デザイン」についてお話になられていると思いますが、改めて「いま、なぜデザインが求められるのか」、「デザイナーだけでなく、ビジネスに関わるすべての人が、なぜ広義のデザインの視点を持つべきなのか」、という点からお聞かせいただけますか?

加藤 公敬氏(以下、加藤):すでに言われているように、まずかつての1980年代90年代というのは、企業がそれぞれ掲げている市場に向けて淡々とモノを作っていれば、もっといえば生産さえすれば売れていた時代でした。当時は「課題」自体も、めざすべき「正解」も、個々の企業の“中”に存在していて、それをクリアしていけば売上も上がり、企業も社会も成長していくことができました。いまから思えば、僕たちデザイナーとしては、当時から「ユーザーを見ている」つもりでしたが、実際は企業の手の平の上で「デザイン思考」を行っていたと言えるかもしれません。

しかし、現在のようにモノが溢れ何でも手に入る時代に、だんだんとユーザーは本当は何が欲しいのか、ユーザー自身でさえも分からなくなり、企業として明確に見えていたはずの課題も見えなくなってしまった。結果、それまで企業の“中”にあったはずの課題を、自ら“外の世界”へ探しにいかなくてはならなくなったわけです。そのような状況のなかで出てきたのが「デザイン思考」。課題が見えない時代に、ユーザーのなかに課題を探しに行き、解決していくことの重要性を「デザイン思考」というキーワードで表したということです。

時々、「デザイン思考」は元々デザイナーの思考法であって、デザイナーはユーザーを見てきたし、昔からやってきたことなんだという人がいますが、単にユーザーを見るということと、誰も正解の分からないなかで「ユーザーのなかに課題を見つけてより良くしていくためにカタチにしていく」ことは意識のレイヤーが違う、と思っています。

僕は元々デザイナーですから、狭義の意味でも「デザイン」はこれからも重要だと思っていますが、やはり「ユーザーのなかに課題を見つけ解決していく」行為、つまり意匠だけではない、広い意味でのデザインというのは、これからの時代、ビジネスあるいは社会に関わっていく以上すべての人に欠かせない資質だといえると思います。

湯浅 保有美 DXDキャンプ デザインHR/コミュニケーター

「デザイン思考」で大切なのは、
ユーザーにとっての価値が見えているかどうか。

ーー湯浅:いまのお話で、個々の企業の“中”に「課題」があったとおっしゃっていましたが、現在はたとえ課題が見えていたとしても、課題自体が複雑化しています。そういう状況にあって、そもそも課題意識自体が的外れだったりすることも。
VUCAとよくいわれるように、予測不能な時代を拓いていくためには、さまざまな場面で「デザイン」のアプローチを活用していくことにヒントがありそうですね。

加藤:そうですね。だから、DXDキャンプにもエントリーが多いエンジニアの方や新規事業開発に関わる方などにとって、「デザイン思考」をひとつの型として自分のなかにインストールすることは大きな意味があるはずです。ただその際、これまでの経験から特に重要な点が2つあると考えています。

湯浅:加藤さんの実体験からの2つとは、どんなことでしょうか?

加藤:1つが、本当に「ユーザーの視点で考えられているか」ということです。言い換えれば、企業活動を「お客さまにとってどんな価値があるのか」ということを貫いて考えられるか。
たとえば、スーパーコンピューターの『京』と『富岳』。この2つのアプローチの違いがわかりますか?

これはあくまで私の意見で、且つかなり乱暴な言い方になってしまうかもしれませんが、一世代前の『京』は、とにかく高い演算速度を実現するために、使用できるデータソースやアプリケーションを限定して作られました。車でいえば、ある特殊な燃料でしか走らず、なおかつ運転の仕方もものすごく複雑で専門知識がないと走らせることができない。

それに対して、後継の『富岳』はなんでも受け入れることができる。『富岳』が稼働してまもなく新型コロナ対策関連で、「飛沫」分析のニュースが出ました。

湯浅:はい、コロナ禍のかなり早い段階でさまざまな状況での飛沫分析シミュレーションがメディアで流れていましたよね。

加藤:あれは、実は『京』ではできなかったことだと思うのです。
『京』は、専用のデータであれば、高い処理能力を発揮することができるのですが、世の中に普通にある、まさに生活者、市民のところで起きているデータを、そのままインプットすることができなかったのだと。

一方『富岳』は、ある程度汎用的なデータを幅広く受け入れられるし、基本さえ理解していれば操作も簡単に行えるだろうと。というように、実は、開発の考え方そのものを転換させたのだと思っています。

湯浅:確かに、『京』が開発された頃は、まさに性能を競っていました。技術のための技術開発という言い方もできるのかもしれません。それに対して『富岳』は、どうしたらもっと活用できるようになるのか、どうしたらユーザーもしくはその先の市民にとって、より価値が提供できるかという視点で開発された、と。まさに、時代の転換を表していますね!

加藤:実際、『富岳』になってからは、いわゆるスパコンとユーザーの距離もかなり近づいたのではないでしょうか。さらにいえば、人々がその時求めているであろう情報が、シミュレーションという形でスピード感をもって提供される。つまりこれは、「デザイン思考」のラピッドプロトタイピングの考えともいえます。

多様性あるメンバーが共に問いを出しあい、
ユーザーとともに試しながら、考えてゆくこと。

ーー湯浅:そうして幅広い人々に情報が提供されれば、飛沫シミュレーションのように見える化され、一部の研究者だけでなく当事者であるさまざまな人々が意見やアイデアを出しあい、対策をとったり解決策を探していくことができますよね。

加藤:実は、そこが2つ目のポイントで「リビングラボ」の実践ということなのです。

たとえば昔、携帯電話の新製品を開発する際、長い開発期間をかけて、ほぼ製品に近いところまで作りこんだうえで、役員にプレゼンテーションし「市場に出すのはどちらがいいですか?」「じゃあ、こっちで」みたいなやりとりが行われていたわけです。

湯浅:懐かしい!確かにそういう時代がありましたね。

FCAJ Webサイトより

加藤:しかし、ここに「ユーザー視点」なんて挟む余地がないですよね。
いま、FCAJで推進している「リビングラボ」では、ユーザーと一緒に試しながら、スピーディに作りながら考えるという活動を行っています。少しでも何か気がついたら問題を確認しあって、粘土でも紙でもいいから作ってみる。それでは解決にならないからと、また別の方法で試してみて、という「ラピッドプロトタイピング」の実践です。後戻りを恐れずどんどん作りながら、いろんなメンバーが次々とよい問いを作り、ユーザーに試してもらう。手法としては「デザイン思考」そのものです。

湯浅:考える工程に、どんどんユーザー視点を取り入れていく。さらには一本のラインでモノをつくりあげていくのではなくデザイナーも、エンジニアも、マーケッターも、経営者もいろんな立場の人が一緒になって、試しながらいい「問い」をたて、対話を重ねながら「最適解」を創りあげていく。こういう態度あるいは活動様式が大切だということですね。

(後編へ続く)

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