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経済・社会の仕組みを変えてゆくプレイヤーとして、 高度デザイン人材に求められるものとは?(後編)【Camp Interview】 vol.4

DXDキャンプ 特別講師
加藤 公敬 氏
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インタビュアー
DXDキャンプ デザインHR/コミュニケーター
湯浅 保有美 氏

》経済・社会の仕組みを変えてゆくプレイヤーとして、 高度デザイン人材に求められるものとは?(前編)【Camp Interview】 vol.4

デザインとは、現場をどう生きるかということ。

ーー湯浅:ここまで加藤さんのお話をお聞きしていて、「デザイン思考」というツールあるいはメソッドを学ぶことは必要かつ重要なことですが、それを超えて、人として向きあう態度であったり、眼差しあったり、自分の体の動かし方といいますか、これこそがより一層大切なんだということを、改めて認識しました。

加藤:先日、FCAJの「デザインラボ」の活動のなかで、会員メンバーの方々の想いをまとめて文章化したものがあります。

『デザインの思考はデザイン思考よりも広い。ロジカル思考ではなく、分断とは違う統合の思考である。もっとクリエイティブに自然に学んで、自然に自分たちの世界の実体化するということで、これは現場をどう生きるかということであって、学ぶものではない』

FCAJデザインシンポジウム(2022.3.3開催)資料より

ーー湯浅:わかります!まさにおっしゃる通りですね。そういった行為の一つとして、先ほどは「リビングラボ」という「場」を取り上げて、ラインで考えるのではなくて、対話しあいながら最適解を創っていくといった態度や行動様式を実践していくということが大切だということが確認できました。
そして、その先には、デザインマネジメント3.0や、次の4.0の世界があるということでしょうか。
加藤:そうしていきたいと考えています。
先日のシンポジウムでの議論は、4.0は未来ではなく、いま求められていることなのではないか、ということです。つまり、既に私たちの社会や経済そのものが、古い仕組みから新しい仕組みへの転換を喫緊に求められているじゃないですか。
ですので、どの道イノベーションを起こしていくならば、もっと組織や社会を横断する力、融合する力を持って大きく変えていく段階にきているということです。
湯浅:もうイノベーティブにプロジェクトを1つ2つ実現してということではなく、社会全体を変えるという前提で構想していかなくてはならない。いままでの流れのなかではなく、一歩大きく踏み出して、横とつながり、全体としてのシステムを創っていくという発想が必要ということですね。

「デザイン」を意識しないぐらい、自然に行っていることが理想。

ーー湯浅:では、DXDキャンプに参加する皆さんがめざす「高度デザイン人材」は、どのようにしていくと4.0へと進んでいくことができるのか、あるいは4.0を実践できるプレーヤーになっていけるのか、加藤さんご自身が想うヒントはありますか?

加藤:この前「Soup Stock TOKYO」経営者の遠山正道さんが、とあるセミナーで面白いことをおっしゃってました。「自社では、デザインということを意識したことがない」という趣旨の内容でした。

湯浅:本当ですか?意外な内容ですね。

加藤:「デザイン」とは、一人ひとりの思いを世界観として社会に提示していくこと。だから社員も、もちろん自分自身も、自分が面白いやってみたいと思ったことをできればいいんだと。要は、ビジネスのプロセスのなかに自然と「デザイン」が組み込まれている状態というのが、デザインと経営の融合の実践だということなのだ、と私は彼の発言を解釈しました。ことさら「デザイン」ということを意識していないけれど、頭のなかではしっかりと「デザイン」の思考が動いている。個人の価値観としてね。

湯浅:本当は、空気や水のように、経営者自身がその会社の空気感や社会との繋がりを作っていく中で、気がつくとそれってデザインの力なんだ、デザインの態度なんだっていうような、それが一番理想的じゃないかっていうことですよね。

ーー湯浅:今のお話を聞いて、思い浮かんだのが「DX」への取り組みです。最近ではどこの会社でもDX化が課題になっていますが、何をするのか、何がしたいのかがないまま、DX推進室やDX戦略室といった部署だけ先につくってしまって、結局上手くいかないという話もよく聞きます。まだ「デジタライゼーション」ではなく、「デジタイゼーション」の段階なのに。「×」の重要性も軽んじられがちです。

加藤:「DX」というビッグワードを先に持ってきてしまうんですよね。その状況は、企業だけでなく官公庁も同じで、DXを先に作ってしまって、何をするかというアイデアは後から考えようとしている。でも、本当はアイデアが先にあるべきなのです。なぜそれをやるのか。デジタル技術にどんな市民のニーズを掛け合わせていくのか。そうでないと、いつまでも「DX」の「X」の部分がでてこない。フレームや方法論よりも、アイデア、そして市民のインサイトをとらえる力があってこそ。まさに「デザイン」ですよ。

加藤:ですから、DXDキャンプの皆さんへアドバイスがあるとすれば、とにかく現場に降りて、アイデアを先に出すことです。

それともう一つ、「正しい問い」を立てられるようになってほしいということですね。

ーー湯浅:「正しい問い」とは?

加藤:以前、鎌倉の小学校の生徒さんたちとコラボレーションをしたことがありまして。生徒さんたちと近くの海岸に出かけて行くわけです。案の定たくさんのゴミが漂流していたのですが、その時子供たちに投げかけたのは、「どんなゴミが多いか分析を」ということではなく、「どうして、こうした多くのゴミがここにたどり着いてしまったのか」を考えてほしいということです。

そうすると、海岸にたどり着く前、海に漂流する前に、人が捨てなければよかったんじゃないか、家に持ち帰ればよかったんじゃないか、もっと遡ってそもそもゴミになるものを作らなきゃよかったんじゃないか、という自分事の視点にどんどん深まっていくのです。

湯浅:事象を分析するのではなく、「なぜ?」そうなったか。問いをきちんと正していくことは、確かに本当に重要ですね。「問い」を間違えると全く違うアウトプットになってしまいますから。

市民の視点でデザインを活用できる、“シチズンデザイナー”を増やしたい。

ーー湯浅:最後に、これから加藤さんがやっていきたいことを、ぜひ教えていただけますか?

加藤:そうですね。いま考えているのは、“シチズンデザイナー“を増やしたいということかな。

湯浅:シチズンデザイナーとはどんな存在ですか?

加藤:科学技術振興機構(JST)という団体と、あるプロジェクトを実施していまして。今まで科学者は、科学目線で市民に対してコミュニケーションを行っていたことを、自分たちが当たり前と思っていたことに気づきはじめ、科学がすべての人に役立つものになるためにも、科学がもっと発展していくためにも、これからは、市民の視点に立って、コミュニケーションをしていこうとしているわけです。

その考え方のもとではじまったのが「シチズンサイエンティスト」を育てましょうという活動。それは、科学者自身が科学というスキルを自分ごと化、市民ごと化し、市民の視点で科学を伝え、市民の課題を自分の持つ科学のスキルで解決していける人を目指す、ということです。

それと同じように、「デザイン」という考え方や振る舞いを自分のなかに取り込んで、一人の社会の一員として、それを使いこなし活躍できることが大切なんだと思います。

複雑に絡みあう課題や問題を市民のレベルで俯瞰し、本質的な「問い」を周りの人々に投げかけ、巻き込んでいくこと。解決のために必要なものはなにか、それは本当に解決につながるのかなどを既存にとらわれることなく、多様な人々とともに、スキルや才能を生かしあい、試行錯誤しながら新しいアイデアを実装していくこと。たくさんの人たちがこれができるようになるといい。これって「高度デザイン人材」であるわけですよね(笑)。

ーー湯浅:シチズンデザイナー。まさにデザインとは、みんなのものであり、世の中すべての人が携わっていくもの。一人ひとりが自分のなかに当たり前のものとして取り込んでいくことの大切さなど、加藤さんのお話から改めて気づかされました。

「DXDキャンプ」でデザインを志す皆さんへのエールにもなったと思います。
本日は、気づきがたくさん詰まったお話をいただきまして、ありがとうございました。


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