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マネジメントで大切なのは「ウソをつかないこと」かもしれない

マネジメントをしていると、つい「ウソ」をつきたくなってしまうことがあります。

本当は問題があるのに、メンバーには「大丈夫だよ」と言ったり。逆に、過剰に危機感を煽ったり。クライアント先や社内で言われたことを、メンバーにはちょっと違うふうに伝えたり。採用のとき、実態以上に会社をよく見せようとしたり。

そういう、悪意をもってつくわけじゃないウソ。「ここでもうちょっとうまいこと言ったら、切り抜けられるんじゃないか……」と思うことってありますよね。

僕がマネジメントでいちばん大事にしているのは、そういうウソを一切つかないことです。

僕はこれまで13年ほどマネジメントをしてきました。

オプトに中途入社して、28歳のときに初めてチームを持って、その翌年に部長になりました。直近の8年は子会社の代表として、組織全体のマネジメントをしています。

ただ、昔の私は正直「優しくていい上司」ではありませんでした。

部下の目を見ずにキーボードをカタカタしながら対応していたこともあるし、部下の仕事に口を出しすぎてチームのメーリングリストから追い出されたこともあります。そのたびに反省して、伝え方や接し方を改善してきました。

巷にはいろんなマネジメントのテクニックがあって、もちろんそういった知識も大切です。でも、僕が実践したなかでいちばん効果的だったのは「ウソをつかないこと」でした。正直に、誠実でいること。これだけはずっと続けてきました。

すると、だんだんいいチームができるようになってきたんです。

当たり前だろと思われるかもしれませんが、今回は僕なりのマネジメントのやり方をシェアしてみたいと思います。

「優しさ」と「誠実さ」は違う

仕事でつい何かを隠したり、嘘をついてしまうとき、その背景には「優しさ」があることも多いです。

たとえば、本当は10個フィードバックしなきゃいけないのを、優しさの名のもとに6個しか指摘しない、みたいなこと。「厳しくしたら潰れちゃうんじゃないか」「やる気をそいでしまうんじゃないか」と思って、つい手加減してしまう。

その優しさは、やっぱりよくないです。

本人のためにもならないし、フィードバックする側もなにも得しません。指摘しなかった4個分は、もう絶対に返ってきませんから。

「誠実でいること」と「優しくすること」は、少し違うんですよね。

厳しめのフィードバックをするときは「意図」と「期待」をきちんと伝えるのが大切です。「なんで厳しいフィードバックをしてるかっていうと、あなたにはこれができると信じてるからだよ」と。

その上で厳しくするのと、ただ厳しくするのでは、吸収しやすさやモチベーションもまったく違ってきます。

「いま50点ぐらいで、まずは70点を目指すべき段階の人に、100点分フルでフィードバックすると、混乱させちゃうんじゃないか?」と心配になる人もいるかもしれません。それで、指摘事項を減らしてしまう。

もしキャパオーバーになりそうな相手なら、こんな伝え方をするといいかもしれません。

「今回は100点を求めるフィードバックにするね。ただ、たぶん30点分は、今はまだできないと思う」
「それはあなたが悪いんじゃなくて、経験とかスキルの問題。これからの学びでできる範囲だから、それを身につけてもらうために100戻すけど、今回はまず70点のところまで頑張ってみよう」

こんな感じで、もうぜんぶ言ってしまうんです。

それで「あ、そうなんだ。じゃあ頑張って、次は80点までやってみよう」と思ってもらえたらいい。

仕事を教えるときって、思ったよりも細かい取説が必要です。感覚としては、こちらが思っていることの10%ぐらいしか伝わらない。

でも一方で、意図さえきちんと伝われば、思ったよりずっと応えてくれる人が多いなあとも思うのです。

だから、下手に優しくして「言わないこと」を増やすよりも、意図を丁寧に伝えてあげるほうが誠実だし、成果も出やすいんじゃないかなと思います。

中間管理職のジレンマ

隠したりごまかしたりせず、オープンに伝える。

この考え方は、中間管理職になってからもかなり役に立ちました。

中間管理職は「上の方針と、現場の意見が異なっている」というシチュエーションに立たされることがけっこうあります。

施策AとBがあって、現場を見ている限りはBのほうがいいと思う。でも、上の方針がAに決まってしまい、現場にそれを伝えなきゃいけない……。

そういうとき、ついやってしまいがちなのが「ごめん!俺はBがいいって思うんだけど、上がAって言っててさ……。申し訳ないんだけど今回はAをやってくれない?」と、現場に伝えてしまうこと。

これだと「ああ、この人は上の意向で意見を変えるんだな」と思われて、部下からの信頼を失ってしまいます。現場のモチベーションも下がってしまうでしょう。

じゃあ、どう対応するのが誠実なのか?

僕の場合、いったんは「Aなんですね。わかりました」と言って持ち帰るんです。でも、現場には「ごめん、上からはAって言われたけど、たぶん違うと思うし、俺はBがやりたいからBをやっちゃおうよ。怒られたら俺が責任取るから、頼むね」と言って、最終的にBをやります。

「上はAと言ったけど、この数字、もう追わなくていいから、そこは未達でいいよ」「その代わり、Bで成果出そう。こっちのほうが絶対、お客さんのためになるし、僕らもうれしいよね」と。

こんな感じだったので、当時の上司からは「腹黒メガネ」って呼ばれていました。汗

誠実なフィードバックが信頼を生む

そうやってチームを動かすときも「フィードバック」がすごく大切です。

さっきの例でいうと「Bの施策を選んだ結果、上からどう見られているか?」ということも、ちゃんと把握してメンバーに伝えなきゃいけません。ネガティブな情報だとしても、隠さずに伝える。

「会社の都合」って一体なんなのか。役員レベルの人たちが実際なにをやっているのか。そういったことは、現場のメンバーには見えません。だから、部長会議や役員会議で言われたことは必ず現場にフィードバックをします。

そのうえで、次の方針を決めるべきだと思います。

フィードバックがないと、やっぱりみんな「ただ聞くだけで、けっきょく動いてくれてないのかな」「俺らの意見、スルーされてるな」と思ってしまいます。

まずはこちらが裸になってフィードバックしないと、なにを言っても伝わらないんです。

もちろん、上の人へのフォローも大切です。孤軍奮闘するだけだと、ただのうるさいやつで終わってしまいます。いかに八方美人にコミュニケーションをとり、道を作れるか。そのうえで、やりたいことを貫くべきだと思います。

「経営者視点」なんて持てるわけない

会社や上司の状況って、現場には思った以上に伝わりづらいものです。

僕は、社員に「経営者視点を持て」と言うのって、ほんとうに失礼で一方的なことだと思っています。ふつうは持てるわけがないんですよね。経営してないんだから。知らないことを求めたって、なにも返ってきません。

だからこそ「情報の開示」が必要です。

「この人にはここまで言わなくていいか」とか「これは会社ごとだから関係ないか」というのはなしです。不必要だとしても、できるだけオープンに伝える。「うちの会社はこうなっていきたいんだよ」「この事業はこういうゴールを目指してるんだよ」と。

それをせずに「経営者視点を持て」というのは、リーダーのエゴだと思います。

大きい会社だと、役員人事や資金調達など、すぐに開示が難しい情報もあると思います。それなら、他の情報の開示度合いを上げるといいんです。

役員会議で話したことや、外部のセミナーで言われたこと。メンバーの業務に直接は関係ないことでも、なるべく全部話しています。伝える場所はSlackだったり、週に一回の全体会議のときですね。

そうすると、不毛ないざこざもなくなります。「会社がそういう姿を目指してるんだったら、こういうことをしたらどうかな」と、自分から提案してくれるメンバーも出てくるのです。

会社のネガティブな面も正直に伝える

採用のときも「ウソをつかないこと」は大切にしています。

入社後のギャップでギクシャクしてしまうことって、組織ではけっこうありますよね。「面接ではキラキラした会社に見えたのに、現場はすごくハードだった」とか。会社側も「もっと活躍してくれると思ったのに、ぜんぜんダメだったな」と。

それで人が辞めてしまうのって、お互いにすごく悲しいです。

うちにも今、現場で苦労しているメンバーはいます。でも、そのことはお互い、あまりネガティブに捉えていません。

それは入社前に、すべてを正直に話したうえで入ってもらったからです。

彼はグループ内の別会社にいた人で「どうしてもこの会社で働きたいです!」と言って面接を受けてくれました。

僕らは「広告費の分割・後払い」ができるサービスをやっていて、いまは立ち上げ期のEC事業者さんを中心に支援しています。彼はアイドルやアーティストが大好きで「まだお金はないけど、才能がある人」の応援がしたいとずっと思っていたそうです。

それでうちの事業のコンセプトに共感して、入りたいと言ってくれて。

ただ、僕は彼の申し出を3回も断りました。

今、うちのメンバーは、社会人歴10年以上のミドル層が中心です。まだ新しい会社なので、即戦力になる人を集めていて。みんなプロとしてリスペクトしあっているからこそ、ときに厳しい言葉も飛び交います。

決して「優しい」環境ではありません。

一方で彼は、まだ社会人2年目だった。中途半端に受け入れてしまうのは、彼のためにもよくないと思ったんです。だから本当にぜんぶ正直に言いました。

「厳しいぶん、迷ったら相談してほしいし、みんな全力でカバーしにいく。言葉がきつかったとしても、それは人じゃなくて『こと』に対して言ってる。ただ、そういう環境だし、苦労すると思うよ」
「もしそれで自走できないなら、うちの会社には来ない方がいいと思う」と。

彼は「それでも飛び込みたい」と言ってくれて、いまは大切な仲間になっています。「最近どう?」と聞いてみたら「大変ですけど、最初に聞いてたこととまったく同じなんで、違和感ないっす」と言っていました。

ネガティブな情報も正直に伝えていたから、入社後もいい関係性になれたのかなと思っています。

マネジメントは思ったよりシンプルで、楽しいもの

いまの会社のメンバーは、手前味噌ではあるのですが、本当にいい人ばかりです。

僕は、もともとは部下の目を見ずに会話してしまうようなタイプで、いまも決してコミュニケーション力が高いわけではありません。

それでも、これだけいい仲間に恵まれたのは、やっぱり正直に、ウソをつかずに接してきたからなのかなと思います。

いまの若い人は「マネジメントなんて責任が増えるだけで楽しくなさそうだし、やりたくない」という人も多いですよね。

でも、僕はマネジメントが好きです。

ずっとプレイヤーとして、自分の力で突破していくのも、スペシャルな人ならいいと思うんです。でも、僕はどっかで疲れちゃうんじゃないかなと思って。

権限や責任が大きくなれば、煩わしさや面倒くささも確かにあります。でも、そんなに難しく考えたり、あれこれ社内政治に頭を回さなくても「正直でいること」を貫いていれば、意外とうまくいくものだと個人的には思っています。

それに、世の中には自分より優秀な人がたくさんいます。僕1人でできることなんか全然ない。

でもマネジメントをすれば、その人たちと一緒にアベンジャーズみたいなチームを作って、世界を変えられるかもしれないですよね。

いま、僕は自分たちのサービスで、金融のしくみを根底から変えたいと思っています。まだまだ足りないところはたくさんありますが、このチームなら必ずできる。正直にやってきた結果、そういう仲間を持てたことが、なにより幸せだなと思うんです。


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