初恋の人が結婚した。今度、君に会えた時、僕は素直になれるだろうか。
初恋の人が結婚した。お相手は、僕でした。
そんなセリフを言えたら、どんなに嬉しかったことだろうか。ネット記事に初恋の人と結婚した人の割合が書いてあった、たったの『0.2%』らしい。そして、どうやら僕は0.2%の人間ではなかったみたいだ。
結婚を知った経緯
突然だが、僕は記憶を断片的に失っている。少しずつ戻ってきてはいるが、今までの人生の中でどのくらいの記憶が戻っているのかは定かではない。記憶喪失した出来事は↓の記事にて。
記憶を飛ばしてからは、必要最低限の連絡しか取らないようにしていた。自分が誰とどんな関係性だったか知らないので、誰かと不用意にやり取りするのが怖い時期もあった。でも、少しずつ記憶が戻ってきたので、学生時代の同級生LINEグループを開いてみて、少しでも記憶が戻らないかメンバーの名前と顔を眺めていた。
そんな中、一人の名前を見つけた。
それが初恋の相手だった。
その瞬間、初恋の人との記憶が一気に蘇ってきた。そして、心の奥底に大切にしまっていた、『好き』という気持ちにも気づいた。
ただ、その『好き』という感情と同時に、初恋の人の苗字が変わっていることにも気づいた。初恋の人は結婚していた。アイコン写真の左手薬指のリングと笑顔が眩しかった。
ああ、幸せになったんだな。
おめでとう。
心の中で素直に言葉が出ていた。でも、どこか心にぽっかりと穴が空いた感覚があった。そして、初恋をしていた頃の気持ちや出来事で心の中が溢れていた。
初恋の人との出会い
まだ初恋の“は”の字も知らない小学校低学年の頃。彼女は、僕のクラスに転校してきた。小麦色に焼けた肌とぱっちりとしたタレ目、笑った時にくしゃっとする顔が印象的だった。
地元は、良くも悪くも男女とか全く関係無かった。ませてる女子もいたが、大体みんな男女関係なく遊んだり仲が良かった。
中学に上がり、僕は初恋の人と同じクラスになった事は一度も無かった。その頃からだんだん周りは、今までの仲良かった友達から、男女として、異性として、お互いを見始めるようになった。
もちろん、僕もその一人だった。
ただ、相手は初恋の人だけ。
そもそもこれが恋心かどうかも分からずにいた。でも、これが好きという気持ちだと気づいた出来事があった。
中学二年生のバレンタイン
周りが次々と初めての彼氏彼女を作っていく中で、僕は好きという気持ちも伝えられないまま、誰にも好きな人を言わないまま、いつも通り部活や遊びに全力の日々を送っていた。
そして、中学二年生も終わりに差し掛かろうとしていたバレンタインデー。ちょっとした出来事があった。
バレンタインデー当日。クラスの女子たちから義理チョコを恐る恐る渡された僕は、ありがとうときちんとお礼をした。ただ、その当時は色々とあって怖がられていたので、きちんと相手にお礼や感謝が伝わっていたのか怪しい。
そんな中、少し離れたクラスの友達から耳を疑うニュースが飛び込んだ。
『○○(僕の初恋の人)が、△△(僕の小学校からの友達)に本命チョコを渡したらしいぞ!』
これは、誰しもが驚いた。ニュースを持ってきた友達は、僕のクラスに入るなり、同じ小学校出身で固まって談笑していた僕たちの元へと駆け込み、息を切らして報告をした。
何でそんな事で驚くんだ、と思われるかもしれないが、初恋の人は恋愛に積極的なタイプではなかったし、受け取った友達も恋愛とかに興味無いようなタイプだった。でも、二人ともめちゃくちゃ性格が良くて、二人を嫌いな人は男女問わず一人もいないような人たちだった。
僕は、その速報ニュースを聞いても表情を一切変えることなく、「まじかよ。どうせ冗談だろう?」とわざと戯けてみせた。周りも「へえー、意外だねえ。」と言って、またいつものくだらない雑談に花を咲かせた。
でも、その速報を聞いてから内心気が気でなかった。そして、噂好きのクラスメイトの女子や周りもこの話題で少し盛り上がっていた。
ただ、その後に学年一の美男美女かつ学力も男女トップの二人が、本命チョコを渡して告白したという話題に掻っ攫われた。この二人も僕の友達で、才色兼備で性格も良いとなれば、周りも羨むビッグカップルだった。
そして、その話題で持ちきりだった数日間で、ひっそりと初恋の人と僕の友達が付き合い始めたという話を聞いた。
僕は、二人に祝福の言葉を送った。ひきつった顔を必死でほぐして精一杯の笑顔を添えて。誰にも好きな人を言っていなかったし、そういうキャラでも無かったので、誰にも気づかれることなくひっそりと失恋をした。
そんな感じで中学校生活はそのまま終わった。
一度目の再会
高校生になった。僕は、男子校に進学して、初恋の人は共学へと進学した。あの頃は、まだ携帯を持つのが当たり前ではなかったので、僕は連絡先も知らないまま、部活の忙しさで初恋の人への気持ちも忘れかけていた。
そんなある日、僕はテスト勉強で地元のコミュニティセンターみたいなところに行くと、見覚えのある後ろ姿が、勉強スペースの横長のカウンターにあった。席は予約制だったので、僕は自分の予約したスペースを探して近づくと、その見覚えのある後ろ姿の二席隣だった。
僕は、席に着いてスクールバックから勉強道具一式を取り出した。そして、後ろ姿に見覚えのあった二席隣の方をちらりと見た。
初恋の人だった。
僕は、勇気を振り絞って静かに立ち上がって、彼女の元へと近づき、椅子の背もたれをコンコンと軽く叩いて、小声で声を掛けた。
「久しぶり。」
緊張で声が震えていた。背中から声を掛けると驚くだろうと思い、斜め後ろから身体を寄せた。
声の方に向かって振り返った彼女と目が合った。一瞬、驚いた表情を見せた後に、昔から変わらないクシャッとした笑顔になった。
「久しぶりー!」
僕は、声を掛けたものの何を話していいか分からなかった。いや、正確に言うといつか会えたらあれを話したいこれを話したいと考えていたのに、いざ実際に会ってみると頭の中が真っ白になった。
当時、中学から付き合っていた僕の友達と初恋の人は既に別れていると噂で聞いていたが、そんな無粋な話題はしたくないと思い、咄嗟に彼女の通う学校の文化祭に行きたいから日程を教えてほしいとお願いしてみた。
というのも、僕は男子校で出会いも無かったので、それを口実にすれば違和感が無いだろうと思ったからだ。
彼女も快諾してくれて、日程が決まったら教えてくれると言ってくれた。
そして、連絡先をここでやっと交換した。一緒だった中学校までは携帯なんて持っていなかったので、高校生になってやっと交換することができた。
ガラケーの赤外線通信機能を使って、緊張で震える手をバレないように必死で抑えながら、お互いのメアドと電話番号を交換した。
お互いに勉強中だったので、一言二言会話をしてからそれぞれ勉強に戻った。
家に帰り、寝る準備を済ませて布団に寝転がった。携帯を開いてメールの返信やmixiを眺め終わった後、初恋の人へ初めてメールを送った。
今日はありがとう、から始まって、お互いの近況等を色々と話した。タイトルの「Re:」が増えるたびに、心の中で好きだった気持ちがまた溢れ出していた。
ただ、お互いに部活で忙しくやり取りも数日間しか続かなかった。今もそうだが、直接会ったり電話するのは好きだが、メールやLINEでやり取りするのは昔から苦手だった事もある。
それから数ヶ月後。僕の使っていた機種は着信ランプの色を自由に変えられるものだったので、それで誰から来たのかを見て、その場で内容を確認するか後回しにするかを決めていた。
その日、着信通知ランプが黄色に光っていた。部活関連は青、親は紫、彼女は緑、友達はピンクとざっくりと分けていたが、黄色を設定した覚えは無かった。
誰だろうと思い、部活終わりに携帯を開き受信フォルダを見ると、初恋の人からのメールだった。初恋の人が通っている文化祭の日程の連絡メールだった。
もう正直覚えてないだろうなあ、と半ば諦めていたのに、こうやってきちんと覚えていて教えてくれた優しさに、改めて好きになった。
喜んで行く旨を伝えようとメールを打ち始めたが、ふとある事に気づいた。文化祭の日程と部活の大会の日程がまるまる被っていた。
僕は、泣く泣く部活で行けない事を伝えると、彼女は分かった!部活ファイト!と返信をくれた。
それから部活も忙しかったり、彼女と過ごす時間が増えたりして、再び灯っていた好きだという気持ちも薄れていった。
二度目の再会
高校を卒業して、僕は大学生になった。今でも記憶が全て戻っていないが、大学時代は色々なボランティアに参加していた。大学のボランティアサークルにも参加していた。
その中で、県内の大学のボランティアサークルが集まって、持ち回りで主催をするイベントというか交流会を毎月やっており、僕はそのイベントの担当者になった。
ある日、県内でも他大学からのアクセスが少し悪い大学主催のイベントがあった。そこの大学のサークルは全員おっとりとしているけれど真面目で優しい人達だったので、僕は参加しているサークル達の中でも一番好きだった。
ボランティアサークルの交流会と言いつつも、イベント大好き人間が多かったので、アクセスの悪いそこでのイベントは他大学の参加人数も少なかった。僕は、家が近かった事もあり参加する事にしたが、通っていた大学からは遠かったので、主催する大学と家が近いサークルメンバーと少人数で参加することにした。
いざ、主催大学に着き顔見知りの担当者と挨拶を交わすと、その日の会場となる教室に案内された。
その日は、ディスカッション形式の他大学との交流会という事らしく、事前に割り振られたテーブルにそれぞれが案内された。
席に着くと、飲み物と軽くつまめるお菓子を差し出された。
「ありがとうございますー!」
といつもの調子で差し出してくれた人へお礼を言おうと、斜め後ろを振り返った。
初恋の人だった。
「「え?なんでいるの?」」
お互いに驚きながらも大笑いした。彼女はサークルにたまに顔を出す程度の参加頻度らしく、他のサークルの主催イベントには一切参加していなかったらしい。
もっと色々と話をしたかったが、イベント開始時間になってしまい、僕と初恋の人は別グループの席だったため、イベントが終わるまでは一言も会話することができなかった。
イベントが終わり、声を掛けようと思ったが、サークルの後輩だったか他大学のサークルの人だったかに飲みに行こうと強引に誘われて、初恋の人へ話しかけに行くことができなかった。彼女も後片付けで忙しそうだったので、僕は主催大学の担当者にお礼の挨拶を済ませると、腕と後ろ髪を引っ張られながら、会場を後にした。
その後の飲み会では、いつも通り周りに楽しんでもらえるようにワイワイと飲んでいたが、心の中では久しぶりの初恋の人との再会に胸が躍っていたし、半ば強引に連れてこられた事を恨もうとした。
そして、何よりも連絡先を交換していないことに気づいて心の中で大号泣した。
高校の時に連絡先を交換したけれど、何度も機種変更をしたりアドレスを変更をしていく中で、初恋の人の連絡先もいつの間にか消していた。
やっぱり好きだったなあ、と実感しつつもまた徐々に気持ちは薄れていった。
三度目の再会…ならず
今から三年くらい前?
久しぶりに小学校の同窓会を開くと連絡があった。招待されたグループLINEに入ってみると、初恋の人の名前もあった。
みんなが同窓会の参加表明をしていく中で、初恋の人からの参加表明のLINEは無かった。
僕は、勇気を振り絞って彼女に個別でLINEを送ってみた。すると、仕事が入っており仲良かった友達も参加しないこともあって、参加を見送るつもりだと返信が来た。
ショックを受けつつも、また機会があればご飯でも行こう、とありきたりな社交辞令をして連絡は途絶えた。
そして、今。
そして、今。
僕はここまでの記憶を無くしていた。思い出した時には、初恋の人は結婚していた。
大人になった今だからこそ、初恋の人と性格も考え方も何もかも違うと分かっているから、彼女と結ばれるわけがない、と恋心を抱いた時から感じていたが、改めて確信に変わっている。
ただ、好きだった事には変わりはない。思春期を通して、素直になれなかったからこそ、もしも次に会えたらきちんと「好き」だったと伝えたい。
これは、ただのエゴだ。
しかも、今の自分のためではない。あの頃の自分が少しでも報われるようにしたいだけだ。
初恋の人へ
いつかまた三度目の偶然の再会を果たした時、僕は20年以上誰にも言わず心の引き出しに大切にしまっているこの言葉を、面と向かって素直に伝えたい。
「好き」のカタチは変わったけれど、今でも貴女の事が好きだ、と。
LINEやSNSでのやり取りは苦手なので、いつか再会した時に、しっかりと自分の言葉で、面と向かって素直に言いたい。
そして、今の貴女の幸せがいつまでも続くようにひっそりと願っている。
貴女の人生の台本には、僕は名前も与えられない端役かもしれないけれど、それでもたった一つの台詞だけを言わせてほしい。
あの頃の自分へ
君(あの頃の自分)へ
最初は『好き』という気持ちも分からず、分かった途端に思春期で素直になれず、偶然の再会があったにも関わらず、そのチャンスも全て逃して彼女は結婚した。
僕も、素敵な女性と巡りあい、付き合って、別れて、を繰り返している。
君が今、初恋の人へ抱いている純粋な『好き』の気持ちは大切にした方がいい。できれば、今すぐにでも伝えてほしい。
あの頃よりも、僕にとって『好き』という気持ちや感情は神聖なものではなくなった。
好きな人には、『好き』と素直に言えるようになった。でも、心が躍るくらい好きな人はいない。それはきっと、あの頃の自分の方が色々と大切にしていたからだと思う。
もちろん、今でも大切にしている。
お金も人間関係も増えていく一方で、ずっとそばにあるモノやヒトは、ずっと昔からの古い付き合いのモノやヒトばかりだ。
僕は、記憶を無くした。
人は、いつ死ぬか分からない。
だから、今その大切にしている気持ちはいつでも伝えられる今にこそ伝えてほしい。
幼馴染やこれから会う友人も何人か夭折した。人生は何があるか分からない。伝えられる環境にいる時に、きちんと素直に気持ちを伝えてほしい。
最後に
初恋だけはどんなに恋愛をしても上書きできないものですよね。皆さんの初恋はどのようなものでしたか。
読んでくださり、ありがとうございました。
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