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【無料】欧米の若者たちの出発点

欧米の若者たちの出発点

では次に、近代義務教育制度と学術研究の進展が生み出した「若者」は、いつからその線引きを、自分のこととしてはっきり自覚し始めたのだろうか。
著名な歴史家であるフィリップ・アリエスはかつて著書『〈子供〉の誕生:アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』の中で、「若者」の区分が内外で一般化していく、そのターニングポイントは第一次世界大戦(1914~1918)にあったと語っている。

「青年の意識は一九一四年の大戦のときに、前線の戦闘兵たちが一団となって後方の老人世代に対立したのを承けて、普通にどこにでも見られる現象になった」

(フィリップ・アリエス(杉山光信・杉山恵美子訳)『〈子供〉の誕生:アンシァン・レジーム期の子供と家族生活』みすず書房、1980年)

近世までの騎兵が戦場を颯爽と駆け抜けるイメージから一変、産業革命後の世界で始まった第一次世界大戦では飛躍的に進化した軍事技術から身を守るため、最前線の若い兵士たちは塹壕戦(穴・溝に身を隠しながら戦う戦術)を長期にわたって強いられることになった。
極限の緊張に加え、降雨などにさらされて日々劣悪になっていく塹壕内の環境は、やがて若い兵士たちの心身をどんどん蝕むようになるが、後方の指導者たちはこれといった突破口を見出せないまま、いたずらに戦地の死傷者数だけが積み上がっていく。
すると大戦の終盤には我慢の限界を超えた者たちが、ついに命令を拒否する事例が発生(例:フランス軍の反乱(Mutineries de 1917))。
そして行き場のない感情を抱えた彼らの一部は、終戦後もなお、青年期の戦争が切り抜いた感性の意味を世に広く問うようになるのだ。

第一次世界大戦終結の約2年後から始まる1920年代、従軍経験での疑念や虚無感から生まれる新しい価値観を描いたアメリカの若き作家たちは、その中心にいたアーネスト・ヘミングウェイの長編小説『日はまた昇る』の一文を引用する形で、やがて「ロストジェネレーション」と呼ばれるようになっていった。
またこのロストジェネレーションの登場とほぼ同じ時期、イギリスでは派手に着飾って遊び回る上流階級の若者グループ「ブライトヤングピープル」 が、やはり第一次世界大戦後の新しい価値観を持つ者たちとして、世の注目を集めている。

「ロストジェネレーション」に「ブライトヤングピープル」。
1920年代の欧米で最初期の“若者文化”を創生した彼らに共通しているのは、いずれも酒、煙草、奔放なファッション、ジャズ音楽やダンス、そしてパーティと、とにかく享楽的な消費を欲したことだった。
その渇望とは一体どこから生まれていたのか。

答えは第一次世界大戦の元戦闘兵(ロストジェネレーション)、そしてノブレス・オブリージュ=身分の高い者の社会的義務として積極的に戦場へ行かなければならなかったイギリス上流階級の子ども(ブライトヤングピープル) という、カルチャーの中心人物たちのバックボーンをなぞると、なんとなく見えてくる。

「無事に戦場から帰還した者も、戦争が終わってももとの生活に戻ることは難しかった。社会そのものが大きく変わったこともあった。彼らは教育を中断され、理想や大義を失い、目的を失ったまま刹那的に毎日を生きていた。戦争に行くには若すぎた世代の若者にも同様のことが起こっていた」

(新井潤美『ノブレス・オブリージュ イギリスの上流階級』白水社、2022年)

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