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『存在と時間』を読む 全88本

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2021年9月の記事一覧

『存在と時間』を読む Part.8

 前回までの投稿で、『存在と時間』の序論のご紹介をさせていただきました。今回から第1部に入っていくことになり、本格的な現存在分析が始まります。

第1部 時間性に基づいた現存在の解釈と、存在への問いの超越論的な地平としての時間の解明 第1篇 現存在の予備的な基礎分析

 第1篇は全部で6つの章によって構成されています。第1章では、本書の考察が「現存在の実存論的な分析」という意味を持つことが明確に提

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『存在と時間』を読む Part.9

  第10節 人間学、心理学、生物学と異なる現存在の分析論の領域の確定

 現存在、すなわち人間に対する学問は哲学だけではありません。人間学、心理学、生物学といった学問もやはり、異なる問題設定や方法によって人間について探究する学問です。しかし、存在論としての哲学はこうした学問よりも"先に"あるものだと言われてきました(Part.2、Part.8参照)。存在論によって、哲学ではない学問の領域が確定さ

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『存在と時間』を読む Part.10

  第11節 実存論的な分析論と未開な段階にある現存在の解釈、「自然的な世界概念」を獲得することの難しさ

Die Interpretation des Daseins in seiner Alltäglichkeit ist aber nicht identisch mit der Beschreibung einer primitiven Daseinsstufe, deren Kenntni

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『存在と時間』を読む Part.11

 第2章 現存在の根本機構としての世界内存在一般

  第12節 内存在そのものに基づいた世界内存在の素描

Dasein ist Seiendes, das sich in seinem Sein verstehend zu diesem Sein verhält. Damit ist der formale Begriff von Existenz angezeigt. Dasein exis

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『存在と時間』を読む Part.12

 前の節では、世界内存在の素描が行われ、重要な概念がいくつか登場しました。そこで、ここまでに登場した概念をドキュメントで確認してみましょう。

 まずは >In-der-Welt-sein< で、これは「世界内存在」です。その下に >Das Wie des Daseins: phänomenologische Untersuchung.< と書かれていますが、これは「現存在が"どのように"あるかー

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『存在と時間』を読む Part.13

 第3章 世界の世界性
  第14節 世界一般の世界性という理念

 世界内存在の「世界」という構造契機に注目するのが、この節の課題です。しかし、「世界」という語は多義的であって、本書で考察すべき世界とは何のことなのかをまず確認しておく必要があります。

 基礎存在論は現象学的に遂行されますが、「世界」を現象として記述するとはどのようなことかと、ハイデガーは問い掛けます。世界内部的に存在する存在者

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『存在と時間』を読む Part.14

 A 環境世界性と世界性一般の分析

  第15節 環境世界において出会う存在者の存在

 前節までで確認されたことは、現存在が日常の生活のうちで生きている世界は、近代哲学で考察されてきた被造物の世界という意味での自然としての世界ではなく、環境世界です。環境世界と訳すドイツ語は >Umwelt< ですが、注目すべきは前綴りの >um< です。ウムというこの前置詞は大きく分けて4つの重要な意味をそな

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