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真夏にコーヒーはダメ? 熱中症とカフェインの関係

先日不覚にも軽度の熱中症になってしまいました。曲がりなりにも人体のプロとして飯を食っている身としては不面目な失敗でした。

しかし、熱中症の治療は慣れているものの、予防に関してはそれほど知識が深くないと感じたので、改めて徹底的に学び直すことにしました。


カフェイン入り飲料は熱中症に良くない?


熱中症対策をネットで調べると、こんな文章を見かけませんか。

”カフェイン入りの飲み物は、利尿作用により熱中症が促進されてしまうので控えましょう"


確かにコーヒーやお茶を飲むとトイレが近くなるし、熱中症にはあんまりよくなさそうですよね。しかし、この意見には疑問点があります。

カフェインには確かに利尿作用はあります。しかしその作用は短時間かつ微小です。過去の研究でも、摂取した後に尿量が増えたり頻回になったりはしますが、その作用は弱いために、脱水に至る程ではないと報告されています。

となると、カフェインの利尿作用だけで熱中症になるとは正直考えにくいのです。本当にカフェインは熱中症の原因になるのか。調べてみました。


カフェインは多量に摂らない限りは脱水にならない


まず、National Athletic Trainers' Association Position Statement が発行しているアスリートへの教育向け資料の中で、運動時の飲料について述べられている項目:Fluid Replacement for the Physically Activeを調べてみました。その中ではカフェインの影響について以下の記載がありました。

Caffeine does not compromise rehydration or increase urine output when consumed in small quantities (up to 3 mg/kg) during or after exercise. Small amounts of caffeine in a rehydration beverage should not cause harm to the physically active post-exercise.

運動中または運動後に少量(最大3mg/kg)のカフェインを摂取しても、水分補給が損なわれたり、尿量が増加したりすることはありません。

この文章の中での少量とは、体重あたり3mgのカフェインなので、私の体重だと165mg, ブラックコーヒーを3-4杯飲んでも大丈夫そうです。

運動中はカフェインの利尿作用が打ち消される


続いてこちらの論文。
Caffeine vs Caffeine-Free Sports Drinks: Effects on Urine Production at Rest and During Prolonged Exercise

運動中に摂取したカフェイン入り飲料とカフェインなし飲料が、尿量や尿の濃度、血液の濃度などに及ぼす影響を調べた研究です。結果としては、尿の量や濃度はカフェインの影響を受けず、両群で有意差がありませんでした。

また、この論文ではカフェインの利尿作用は運動によって打ち消されている可能性が示唆されています。

運動中はカテコラミンと呼ばれる神経伝達物質が安静時よりも多く分泌されますが、これはカフェインの利尿作用を打ち消す方向に作用します。結果、安静時に見られたカフェインの軽度な利尿作用を、運動中のカテコラミン分泌が打ち消した可能性があります。

このように、中等度の持久力運動時にカフェインを摂取しても、身体の水分補給状態を損なうことはなさそうです。

運動前に飲んだカフェインも影響しない

最後はこちらの論文。
Rehydration with a caffeinated beverage during the non-exercise periods of 3 consecutive days of 2-a-day practices

非運動時のカフェイン入り飲料摂取が,炎天下での運動中脱水に及ぼす影響を評価した研究です。水分補給はカフェイン入りコカコーラとカフェインフリーコカコーラで行い、2時間の練習の前後に、尿検査と心理検査を行いました。結果、両群で差が見られませんでした。

以上のことから、運動をしていないときのカフェイン含有飲料摂取も、その後の運動中脱水を引き起こす可能性はほとんどないと考えられます。

夏場にカフェイン入り飲料を我慢しなくてもよい

結論としては、運動前、途中、そして運動後のカフェイン摂取が熱中症を引き起こす危険性は、ネットで指摘されているほど高くなさそうです。むしろ、熱中症に関与するのは、水分と塩分補給不足のほうが影響として大きいでしょう。

ただし、今回ご紹介した論文はすべてカフェイン入りドリンクでの検証です。カフェインタブレットの場合、ドリンクとは比較にならない量のカフェインが含有されているため、今回の研究結果が当てはまらい可能性はわずかですがあります。ご注意ください。

熱中症予防としては、カフェインを我慢することよりも、十分な量の水分+塩分の摂取を心がけて、安全な運動を。


引用文献:
uptodate:Benefits and risks of caffeine and caffeinated beverages
National Athletic Trainers' Association Position Statement
Fluid Replacement for the Physically Active
Caffeine vs Caffeine-Free Sports Drinks: Effects on Urine Production at Rest and During Prolonged ExerciseRehydration with a caffeinated beverage during the non-exercise periods of 3 consecutive days of 2-a-day practices

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