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年月をかけて育むもの

 もう随分と前のことです。ハワイ州オアフ島のホノルルに出張しました。常夏の島、ハワイとはいえ、スーツケースには書類や文献資料が鎮座し、水着などは入っていません。ハワイで海にも入れない・・・残念。空き時間にホノルル空港から5分ほどのところにあるモアナルア・ガーデン・パークに向かいました。
 そこは、24エーカー、東京ドームでいうとおよそ2個分の広さをもつ私有の一般公開庭園です。もともとはハワイ王国を建国したカメハメハ王家が保有していた土地ですが、今は財閥会社カイマナ・ベンチャーの所有地となっています。日本からの観光客も数多く訪れる観光名所です。その理由は、そう「この木なんの木、気になる木」のコマーシャル・ソングでお馴染みの「日立の樹」があるからです。おそらく、日本一有名な樹でしょう。といっても、この樹はハワイにあるので、世界中の樹の中で日本人にとって一番有名な樹ということになるでしょうか。
 「日立の樹」は、モンキーポッドと呼ばれる中南米を原産とする豆科の樹で、世界の熱帯各地に広く分布しています。樹齢約130年、高さ約25メートル、幅約40メートル、胴回り約7メートルとスケールも大きい「日立の樹」は、大地に根を伸ばし、大きな枝を広げ、色とりどりの花を咲かせて実を結ぶ大樹。そこに「日立グループの総合力と成長性、事業の幅広さ、力強さ」をたとえたようです(日立の樹オンライン)。
http://www.hitachinoki.net/
 さて、この広く美しい公園は、日本人にとっては観光スポットですが、ハワイの地元の人々にとっては憩いの場であり、こどもが駆けっこをしたり、家族ずれがピクニックをしたりしています。多くの人々に楽しんでもらおうと一般に無料公開されているわけですが、その維持費は年間約60万ドル。そこに貢献しているのが「日立の樹」のコマーシャルです。広告使用料としての年間40万ドルが、この美しい公園を維持するために使われているそうです。一本の大樹を通して、企業と自然とそこに集う人々が結ばれている。これも企業の社会貢献のひとつのあり方でしょう。

 話は変わりますが、2008月11月、伊勢に参りました。全国の神社を統括する神社本庁からの依頼で、指導神職研修において「思いやり格差」について講演をするためです。その時、神宮に参拝し、神職の方からいろいろと説明を受けました。ちなみに、通称の「伊勢神宮」は、正しくは単に「神宮」と言います。その神宮では、平成17年からすでに神宮式年遷宮の各行事が進められています。平成25年まで8年越しの行事です。
 神宮式年遷宮は、基本的には20年ごとに、内宮と外宮をはじめ別宮を含むすべての社殿を造りかえて神座をうつす行事です。七世紀に始まり、戦国時代に一時延期されましたが、今回は第62回目で、連綿と続く歴史あるものです。遷宮においては、1万3000本のヒノキ材が用いられます。細いものから樹齢200年以上の太いものまで必要です。そのような樹齢200年から300年の用材の安定提供が可能なように計画的に植林されています。木だけに気が長い話です。

 日立の樹の話に戻りましょう。あの大樹の映像、実は、両サイドにそれぞれ別のモンキーポッドの樹が寄り添っていて、それらをあわせて1本の樹に見えるアングルから撮影されたとのことです。
 今の世の中、自分だけで大きくなったと思っている人がいます。自己責任論や強者の論理が支配する世の中になってしまいました。しかし、人が育つには年月と手間ひまがかかります。樹木を育てる精神にもつながるでしょうか。企業文化も長い年月をかけて受け継がれてきたものです。いろいろな人の支えがあって今がある、世の中、人は寄り添って支え合って生きている、そんな当たり前のことも「日立の樹」は思い出させてくれます。
 ハワイでの仕事を終えての帰路の空の旅、レジャーや買い物を堪能して幸せそうな人たちを横目に、私は心に何か大切なものをお土産として頂いたような不思議な幸せに包まれていました。


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