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物語

26
小説集。
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#小説

星海を掃く者 ―ANYTHING < HUMAN―

星海を掃く者 ―ANYTHING < HUMAN―

 〈青耀〉がゴルディアス同調によってその指令を受け取ったのは、彼が零点振動リパルサーで恒星『全天星表番号69335688922687829160204592150189』系の第十二惑星に住む蒼生の頭上に、第二衛星を落とした時だった。奴婢共がダイソン球建設のための立ち退き要請に抵抗したためである。
 “帝国”こと〈大八巨大数洲〉は上古より蒼生の頂点に御して多元宇宙に照臨し、自らの御稜威でもって乾坤か

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貴族転生

貴族転生

 生意気な貴族を殺したら遺族に恨まれ司法局の執殺官に追われてネロウの都を散々に逃げ回った挙句密業者に依頼してドゥリムン川を渡って国境を抜けようと試みたところで裏切りに遭い遂に命運尽きて年貢の納め時と相成った。
「オレは悪くない。悪いのはあいつだ」
 逮捕時に愚痴ったのはそんな台詞である。当然聞く耳を持たない執殺官は紫苑を司法局の暗い石牢に鎖で縛りつけた。そして遺族の意向いかんによっては拷問をくわえ

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丁王覇記

丁王覇記

 シャンヨンと出会った時、殺してやると罵られたことをよく覚えている。
 いまとなっては考えにくいことだけど、当時のぼくと彼女は犬猿の仲だった。ぼくはそんなつもりはなかったけどもシャンヨンはどうにもぼくが憎くて仕方がなかったらしい。
 あれはそう、十二年ほど前のことだ。ぼくと彼女は互いの両親の面会の際に引き合わされた。ちょうどぼくの父ヒヴォンが近隣諸国を制圧し、盤州の一地方に覇権を敷いた頃だった。父

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斜陽虐殺王破伝

斜陽虐殺王破伝

 斜陽高校校内は物々しい雰囲気に包まれていた。
 校舎から錆鎖で吊るされた死骸を鴉共が啄み、血絵具で彩られた壁面に蠅がたかり、校庭に積み上げられた机椅子と死骸が燃やされ、大きな篝火を上げている。
 同様に、裸に剥かれて股から口までを鉄骨に貫かれた上に四肢を捥がれた死体が無数に燃やされて地に突き立っていた。
「手前らの中に俺の蛮器を盗んだ奴がいる。名乗り出ろ」
 裸のまま横一列に並ばされた十名の男女

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「水平線上の邂逅」

「水平線上の邂逅」

 Zuooooo!!!!!
 巨大な、巨大と形容するにはあまりにも巨大な水柱が、嵐の中の海上に打ち立てられる。
 DoWoooo!!!!!
 暴風の音は幾千もの楽器に風を吹きこんだ音色。水上の竜巻がうねり、くねり、幾重にも重なり合って混ざり合って打ち立てられ、かつて開闢した天壤を再び繋ぐ。
 Ghooooo!!!!!
 轟音と爆炎。放たれるタングステンの砲弾。放ったのは多数の海上砲撃艦隊。空母の如

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プリズナーズ

プリズナーズ

「死ねやおらぁ!」
 わたしことミキはゆっくんに殴りかかった。
 ゆっくんは悲鳴を上げながらも実に楽しそうに逃げ回る。それにわたしが追随し駆け回るため、わたし達ひまわり組の部屋は凄惨な有様だ。こうきくんが半年かけて組み上げたレゴの城を蹴飛ばし、ゆかりちゃんが大事に折った折り紙を踏み潰し、最後は結婚、妊娠が決まってまもなく産休をとる石原先生のお腹に激突した。
 どれもこれもゆっくんが悪いのだ。ゆっく

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Memory of the ghost.

Memory of the ghost.

 幼い頃、幽霊が怖かった。
 夜八時に入るベッドの下はいつも暗闇で、そこに何か恐ろしいものが潜んでいて、何か恐ろしいことをぼくにしようとしているのだとずっと思っていた。寝る前のひとときは常に恐怖と共にあった。
 ぼくがそれを克服できたのは兄の助言によるものだ。怖がるぼくに兄はこう言った。怖がることはない。ベッドの下には何もいない。お前が恐れているのはただの幻想で、そこを覗き込んでみれば恐怖は消えて

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サボる話

サボる話

 最後の大会をサボった。理由は特にない。
 二歳の時から人型機動骨格競技「RBT」を始めてはや十六年。中学二年生の時に全国大会の頂に登り詰め、次は世界大会制覇だと意気込んでみたは良いものの、古来から上には上がいると言われるように、世界の壁を目の当たりにして人生初の挫折を味わって帰国した頃には受験期に差し掛かっていた。足掛け二年のブランクを経て、高校をスポーツ推薦で入学し、再び再起を図ったところで人

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灰被りの魔女 ─ バトルプリンセス・シンデレラ ─

灰被りの魔女 ─ バトルプリンセス・シンデレラ ─

「出てこいババァ!」
 深夜、爆音と共に屋敷の扉が破壊されたかと思うと、現れる人影/少女。
 背後に大輪の月を頂く姿は一見、高貴な出自の魔女に見える。だが、先ほど発された粗野な言動や、殺意にギラつく瞳が、決してそのような上質な生を送ってはいないことを示していた。
 少女は全身が地味な灰色の襤褸で覆われていたが、唯一その隙間から覗いた白く細い脚が突っかけた、ガラスで編まれた靴が月明かりに照らされて輝

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葬夢

葬夢

 夢の中で死んだ君に会った。
 奇妙な夢だった。
 ぼくは海辺を歩いている。空に架かった星々は普段とは様相が異なり、真っ黒な背景に宝石箱をひっくり返して大小無数の宝石を塗したかのようで、木星みたく巨大なものもあれば、英文字のiの点ほど小さいものもある。まるで壮大なステンドグラスだ。荘厳な眺めだが、同時に深い海の底を覗き込んでしまった際に覚える心許なさに似たものを感じた。
 海の方も見慣れたものから

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壁の外の陽だまり

壁の外の陽だまり

 走る走る。ぼくらは疾走する。
 過去は後ろに置いて来た。視界には鬱蒼と茂る青々とした田園の稲、そこを貫く一本の農道。横に等間隔に並べられた照明、電柱。遠くには夕焼けを逆光にそびえ立つ鉄塔。暗雲。
 逃げ出してきたぼくらを圧倒するかのように、それらは迫ってくる。それでもぼくらは止まらない。風で湿臭い農道を、自転車のペダルを踏み込んで疾走する。荒れた農道の走行は、ぶれ続けるハンドルにしがみつくので精

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Ξ雨Ξ

Ξ雨Ξ

 雨が、降っている。
 しんしんと降り注ぐ雨は空気の抵抗を押し退け、夜の路地に張った水面に弾けて飛沫を振り撒き、大小様々な円を描いていく。
 雨は規則正しく、不変のまま景観を形作っていた。
 その時、一際大きな波紋が飛沫を上げ広がった。水面を長靴が踏み抜いたのだ。水柱が打ち立てられる。
 それは漆黒の装衣に身を包んだ男だった。硬質な輝きを帯びた防弾ベストの上からフードのついた琺瑯加工の外套を羽織り

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