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壁の外の陽だまり

 走る走る。ぼくらは疾走する。
 過去は後ろに置いて来た。視界には鬱蒼と茂る青々とした田園の稲、そこを貫く一本の農道。横に等間隔に並べられた照明、電柱。遠くには夕焼けを逆光にそびえ立つ鉄塔。暗雲。
 逃げ出してきたぼくらを圧倒するかのように、それらは迫ってくる。それでもぼくらは止まらない。風で湿臭い農道を、自転車のペダルを踏み込んで疾走する。荒れた農道の走行は、ぶれ続けるハンドルにしがみつくので精一杯だ。拳大の石ころがそこら中に散らばっているせいだ。
 ガシャン、と音がした。振り返ると仲間の一人が倒れていた。長時間の走行と極度の疲労、長年の風雪に晒され凹凸をつくりだした農道が転倒事故を引き起こしたのだ。ぼくはブレーキを引く。車輪とブレーキパッドが擦れて軋み、甲高い音を静寂の田んぼに打ち立てた。制動による慣性を打ち消し、他の仲間も同様に擦過音を上げながら止まる。ぼくは自転車を止めると倒れた仲間の元に駆け寄った。 仲間は泥だらけだった。ついさっきまで降り続けていた夕立のせいだ。彼の腕を引っ張り上げ、立たせようとする。
 その時、空に低い唸りが響いた。咆哮は徐々に大きさを増していき、ぼくの鼓膜にあらん限りの凶意を伝達する。この場にいる全員がその音を耳にして静止した。
「来やがった」
 誰かが呟き、ぼくは恐怖した。《《追いつかれたのだ》》。
 でもそれは軍警でも治安維持軍でもない。この世界の真実そのもの、ぼくらを囲繞し続けてきた脅威にほかならなかった。地響き。地面がうねり、ぼくの体を束の間浮遊させた。いくつかのスタンドで自立した自転車が倒れて音を立てる。地面に張った水たまりが音に合わせて振動しその表面に幾重にも波紋を描き出す。
 ぼくは知らない。この世界がなんでこんなにも閉鎖的で、ぼくらの生きる範囲が街一つしかないのか。その先は閉ざされ、外に出ることが許されないのか。
 でも多分、ぼくらはその答えを知ってしまった。

【続く】

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