灰被りの魔女 ─ バトルプリンセス・シンデレラ ─
「出てこいババァ!」
深夜、爆音と共に屋敷の扉が破壊されたかと思うと、現れる人影/少女。
背後に大輪の月を頂く姿は一見、高貴な出自の魔女に見える。だが、先ほど発された粗野な言動や、殺意にギラつく瞳が、決してそのような上質な生を送ってはいないことを示していた。
少女は全身が地味な灰色の襤褸で覆われていたが、唯一その隙間から覗いた白く細い脚が突っかけた、ガラスで編まれた靴が月明かりに照らされて輝いていた。
右手に握られた指揮棒のように淡い青の色彩を持つ光る杖をふり、屋敷の家財を破壊していく少女。その怨念の深さは計り知れない。
「夜分遅くにご苦労様」
突如に響く声。境に差し掛かったものと見当がつくが、どこか人を蠱惑する艶があった。
なおも声は響く。
「見たところ、力を得て復讐に来た。そのようね?《《シンデレラ》》」
見れば屋敷を入って目の前にある階段を登った先、声の主と思しき老女が居た。上品な装衣を身に纏ってはいるが、その目の卑しさまでは覆い切れていない。この女こそ、彼女が最も憎んで止まない仇敵、ババァである。
「ババァ……」
シンデレラと呼ばれた少女は呻いた。
この女には散々苦汁を舐めさせられた。必ずや、父を殺し、少女の名を奪ったゴミ以下のゴミの誅伐を完遂させて見せる。だからこそ言語に絶する苦痛に満ちた修行を重ね、この忌まわしい思い出に満ちた生家に舞い戻って来たのだから。
裂帛に気合と共に少女は握った杖を振るった。その先端から放たれた雷が、老女に迫る。
だが、それは中空で何かに阻まれた。老女の手には少女のと同じような杖。しかしそれは禍々しく赫の色彩に輝いていた。
「そうか……」
少女の目が見開かれる。
「てめぇも魔女だったのか」
「うふふ……ええそうよ。魔女があなただけだと思ったら大間違い。所詮貴方はわたしの掌で転がされてたのよ。シンデレラ」
「ぶち殺してやるババァ」
少女と老女、二人の戦いの火蓋が切って落とされた。
【続く】
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