津村記久子「この世にたやすい仕事はない」
前職を燃え尽き症候群のような状態で辞めた主人公が実家で療養中、失業保険も切れたので職を探し始め、職を遍歴していく話。
第1話「みはりのしごと」小説家の日常を観察し続ける仕事。
第2話「バスのアナウンスのしごと」バス内で流れるアナウンス広告の原稿を考える仕事。
第3話「おかきの袋のしごと」おかきの袋の裏にある、一言豆知識みたいな原稿を考える仕事。
第4話「路地を訪ねるしごと」家に貼るポスターを張り替えつつ住民の話を聞く仕事。
第5話「大きな森の小屋での簡単なしごと」巨大な公園の地図を少しずつ作る仕事。
もう今後の働き口をどうにかしないと危なくなってきている今だからこそ選んだ一冊だが、就職先として参考になりそうなお仕事はなかった。おかきの袋の裏の文章シリーズはついつい自分でもこれはどうだろうか、と考えて毎日Twitterで呟くとか考えたが、当然止めた。既に似たようなことをしているじゃないか。
当たり前だがどの仕事にも辛さがあり楽しさもあり、続けられるかどうかの相性もある。度々職を変えていた父が、長く続いた夜勤勤めを辞めて日勤に移った際に、幾つもの職場を転々としていたことを思い出す。
「薄暗い倉庫で陰気なおっさんと二人きりでな、トイレも寒くて」
ペットボトルのキャップがどうとかの仕事だったろうか。一日限りで行かなくなった。一つ一つの仕事について教えてくれたと思うが、ほとんど覚えてはいない。夜勤時代に悪質な客に暴力的な絡まれ方をされたのも一度や二度の話ではなかったと、後から聞いた。
この世にたやすい仕事はない。
この世にたやすい人生はない。
君は永遠にそいつらより若い。
君には永遠に仕事はない。
津村記久子の作品タイトルで遊ぶととんでもない結末になってしまった。
なかろうが合わなかろうが稼いでいかねば生きてはいけない。
夢の中で、父が部屋を掃除していた。隣の部屋と繋がる壁を粉々に砕いてしまい、大金がかかるため大変なことになった、と騒いでいた。父に仮託した自分の姿らしかった。そもそも隣との境はフスマでしかなく、その一部が破れただけだった。隣家の住人はまだ気付いておらず、早く戻せばいいのに、と私は思っていた。
前職に戻ればいいのに、などといったお告げかな、とか訝りつつ、それだけはない、と首を振りながら起きた。二度寝するとエアロスミスのドラマーになってステージでドラムを叩いていた。叩いている最中に居眠りをして夢の中で夢を見ていた。夢の中で目を覚ますと、エアロスミスの他のメンバーと観客が怒りの目でこちらを見ていた。
近頃本で読んだ内容を現実の思い出のように、ふとした瞬間思い出すことがある。「この世にたやすい仕事はない」に出てきた仕事も、かつて自分がしばらく働いていた職場のような気になっていた。危ない。ドラムを叩きながら眠るのは、よくない。
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