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千人伝(二百七十一人目~二百七十五人目)

※添えた画像は全てAIによる生成物です。

二百七十一人目 書き続ける作家鮫村

鮫村は鮫に襲われながらも小説の執筆を続けたことで知られるようになった。書いていたのはパニック物でもホラーでもなかった。そもそも歩きながら書いている最中にいつの間にか海辺に来ていたので、海も鮫も目には入っていなかった。

鮫に原稿を食いちぎられたところでようやく我に返った鮫村は、即座に鮫を殴り倒して原稿を取り返した。濡れて滲んだ原稿を再生して出版されたその本は話題にはなったが、内容はいつもの鮫村の書く地味で目立たない話だったので多くは売れなかった。

鮫界隈から恨みを買った鮫村はその後商店街での買い物中や、出版パーティの最中や、自宅の風呂場などでたびたび鮫に襲われることになるが、常に執筆中であったので、そのたび原稿を噛みちぎられた恨みによって鮫を撃退し、天寿を全うした。


二百七十二人目 書き続ける作家泥村

泥村は泥棒であったのでよく警察に追われた。追われている時が一番集中できたので、その時間を小説執筆にあてた。彼の経験を生かした泥棒小説であった。

しかしあまりにリアルな犯罪描写が続くために、出版社からは相手にされなかった。しかし泥村は自分で電子書籍を販売し、そこそこの人気も出た。いつか逮捕された時は、獄中からでも小説を出すのだと夢見ていた。

しかし泥棒後に逃げている最中の泥村を捕らえることのできる警官は現れなかった。在野の泥棒作家として彼は生涯覆面作家で通し、シリーズは累計千を超えた。盗んだ富を活用して彼は天寿を全うした。

二百七十三人目 叩きながら書き続けるドラ村

ドラ村はドラマーでありながら小説家でもあったので、ドラムを叩きながら小説を書き続けた。執筆で塞がる手で減る手数をテクニックでカバーした。

バンドのメンバーはドラ村に一度だけ作詞を頼んだが、長編小説になってしまったので歌うことはできなかった。ドラ村の文字はよく跳ねた。ドラ村の文字はスイングした。ドラ村の文章のリズムは、穏やかな話ではゆったりとしたものであり、展開の早い話ではスピード感が溢れていた。

ドラ村はドラムを叩いていないと文章が書けなかったので、ドラ村の隣人はいつもドラ村のドラムを聞いていた。しかし隣人は一番の読者でもあったため苦情もなく、ある時期までドラ村の執筆量はいつも安定していた。しかし懐の深い隣人が亡くなってからは、ドラ村はスタジオでしかドラムを叩かなくなってしまったので、執筆量は大幅に減ってしまった。

晩年、ドラ村は自身の心臓がビートを刻み続けているのを発見して、ドラムなしでも小説を書けるようになった。ドラ村はそのビートが途切れるまで小説を書き続けた。


二百七十四人目 書き続ける恐竜ジュラ村

ジュラ村はジュラ紀に活動していた恐竜の小説家である。タイプライターと羽根ペンの化石とともに見つかったジュラ村の原稿には、「最近の恐竜ときたら……」といった、若い恐竜への愚痴が綴られていたので、ジュラ村自身は長生きしたのだろうと思われる。

その後続々と発見されたジュラ村の原稿化石では、「愛してしまった草食恐竜を食べてしまわなければいけない肉食恐竜の悲しみ」といったテーマが何度も繰り返されていた。これは同じテーマを何度も突き詰めたというより、以前書いた話の内容を忘れていたためだというのが、最新の研究結果である。


二百七十五人目 書き続ける男ウニ村

ウニ村は名作「老人とウニ」の作者である。ウニ村がかつて漁師として過ごしていた時期に起きた出来事を書き、ベストセラーとなった。

海で溺れていたウニを助けたウニ村は、海で生き残る術を小さなウニに教え込む。彼はウニが一人前に育ったのを見届けてウニを海に返した。漁師を引退して小説家として名を成していたウニ村は、ある噂を聞いて海に帰ってくる。人喰いウニと呼ばれる巨大なウニが海の王者として君臨しているというのだ。ウニ村は巨大ウニの正体が、かつて助けたウニだと悟り、自らの巻いた種を刈り取るために単身海に出て巨大ウニに戦いを挑んだ。

しかしかつて自分の子ども同様に育てたウニを目の前にした時、ウニ村は、ウニを倒したいという想いよりも、このことを書きたい、という想いを強く抱いてしまった。眼前に迫る巨大なウニの針を背に、彼は大海原で「老人とウニ」の執筆を始めてしまった。

その後の顛末は「老人とウニ」に書かれているので、皆様ご周知の通りである。ウニ村も巨大ウニも天寿を全うした。


当時出版された「老人とウニ」の表紙

※「老人とウニ」は架空書籍紹介34冊目から。

※今回は意図的に全て「書き続ける人」にしてみました。


入院費用にあてさせていただきます。