ほろ苦い、娘とのハンバーグ作り
今日は妻が仕事に出ていたので、私が6才になる娘の面倒を見る日でした。
天気が良ければ近所の土手に行ってピクニックでもしたかったのですが、外はあいにくの雨模様です。
そこで私は「今日は外に遊びに行けないから、家で一緒にハンバーグでも作ろうか」と娘に提案してみました。
というのも、娘は偏食でハンバーグがあまり好きではないのですが、つい先日ファミリーレストランに行った際に少しだけ食べれるようになったので、ひょっとしたら自分で作ったハンバーグならもっと食べてくれるのではないかと思ったのです。
すると娘の口から「つくるー!」という元気な返事が返って来たので、私達はさっそく近所のスーパーに買い出しに行き、ハンバーグを作り始めました。
私はまず玉ねぎをみじん切りにして、じっくりと甘味を引き出すようにフライパンで炒めていきます。
その間に、YouTubeを夢中で見ている娘に
「それ見ながらでいいから、小さくちぎっといて」と言って食パンを手渡しました。
もともとはパン粉を使う予定だったのですが、買い忘れてしまったので食パンで代用する事にしたのです。
私は炒めた玉ねぎを冷ましている間に、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、それをグラスに注ぎグビグビっと胃に流し込みました。
「あー、旨い!」
休みの日に昼間からキッチンで飲むビールというのも、なかなか贅沢な味がするものです。
再びハンバーグ作りに戻ります。
大きめのボウルに炒めた玉ねぎと挽肉、さらに娘がちぎってくれた食パン、牛乳、卵、塩を加えていきます。
そこまでやってしまうと、いよいよ娘が待ちに待った挽肉を捏ねる時間です。
手を洗って戻ってきた娘に対し、私が「粘り気が出るまでしっかり混ぜるんだよ」と教えていると、娘はそれを聞き終わるや否や、さっそくボウルの中に手を入れて混ぜ始めました。
「あー、めっちゃ冷たい!でもスライムみたいでめっちゃ楽しいー!」
そう言いながら娘は挽肉を混ぜていきます。
冷蔵庫から出したばかりの挽肉は、子供の手には思いのほか冷たく感じるようでした。
その後も娘は混ぜ続けます。
もはや料理を作っていると言うよりも遊んでいるという感じだったのですが、これも食育だと思い私はそれを見守っていました。
すると、しばらくして娘が言いました。
「パパー、ずっと混ぜてたらお肉がだんだんあったかくなってきたよ」
いかん、肉が腐る。
私は慌てて混ぜるのをやめさせました。
どうやら娘の手の温度で挽肉が温まってしまったようです。
私は娘からボウルを取り上げると、肉を平らにならし、そこに8等分になるように跡をつけました。
そしてその内の1つを手に取って、こうやるんだよと言って手のひらでパンパンと空気を抜いてみせると、娘はそんなの分かってると言わんばかりに器用に肉を丸め、ペチペチと叩いて空気を抜いてみせました。
私が上手だねと言うと、娘は得意げに言います。
「お手のもんでしょ、砂団子を作る時もこうやるんだよ」と。
私はなるほどねと感心すると共に、やはり娘の中では料理を作っているというよりも、お肉で遊んでいるという感覚なんだなと改めて感じました。
肉を全部丸めてしまうと、温度が上がってデロデロになってしまっていたので、一旦冷蔵庫で冷やすことにします。
私はその間に洗い物を済ませてしまうと、冷蔵庫から2本目の缶ビールを取り出し、それを飲みながらハンバーグを焼き始めました。
熱したフライパンに油をひいて、4つずつ焼いていきます。
焦げないように注意しながら、娘がハンバーグを食べれるようになる姿を想像しながら、丁寧にふっくらと焼いていきます。
ハンバーグを一通り焼いてしまうと、次はソース作りです。
フライパンに残っていた油を捨てて、そこにケチャップ、ウスターソース、水を入れて、とろみがつくまで煮詰めていきます。
本来なら赤ワインも入れたいところなのですが、今回は娘が食べやすいように作ることが最優先事項だったので、赤ワインは入れずに作ることにしました。
最後にほんの少しだけ砂糖を入れて、酸味の角をとったら完成です。
私は出来上がったソースをハンバーグにかけると、さっそく娘が待つテーブルに運んでいきました。
すると娘は少し緊張した面持ちで、小さく切ったハンバーグを落とさないように注意しながら、ゆっくりと口に運びます。
娘が自分で作ったハンバーグを初めて食べる歴史的瞬間です。
私は固唾を飲んでその姿を見守りました。
すると…
「まっず、めっちゃまずいんだけど!」
そう言って娘はハンバーグをぺっと吐き出しました。
私は何がなんだか分からずに、とりあえず自分でもハンバーグを食べてみることにしました。
すると、挽肉が想像以上に臭かったのです。
その原因はいくつか考えられました。
何も考えずに外国産のお得用挽肉を買ってしまったこと。
娘が嫌がるかもと思い、胡椒やナツメグなどの香辛料を一切入れなかったこと。
氷を当てないで、肉が温かくなるまで練り続けてしまったこと。
考えるまでもなく、どれも私の判断ミスなのですが、やはりハンバーグのように肉の味が前面に出る料理を作る場合には、もう少しよい挽肉を使うべきだったのかもしれません。
私は自分を責めました。
これでは娘の偏食を治すどころか、ますますハンバーグが嫌いになってしまうではないかと。
父親としても、料理人としても失格ではないかと。
すると娘は、そんな私の心の内を見透かしたように言いました。
「ハンバーグはまずかったけど、作るのは楽しかったから、また一緒にやろうね」と。
私はその言葉に救われて、九死に一生を得た思いでビールの残りを一気に飲み干しました。
いつもよりも苦味の強いビールが胃に落ちていくと、体の奥の方がほんのりと温かくなるのを感じました。
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