朝顔が揺れるベランダで
今年の6月から我が家では朝顔を育てています。
家族そろって初めての園芸という事もあり、はじめは不安もありましたが、朝顔はしっかりと花を咲かせて、私たち家族に笑顔をたくさん与えてくれました。
そして今日もまた、朝顔は私の心を笑顔にしてくれるのでした。
最近我が家では、娘が異様に早起きをします。
そして、一人でベッドを抜け出して、朝からテレビでYouTubeを見ているのです。お気に入りの動画を飽きもせずに何回も見返しては、「ワッハッハ」といつも同じところで笑っています。
私と妻からしてみれば、何が面白いのかさっぱりわからないので、ついに頭がおかしくなってしまったのではないかと心配でしかたありません。
今日も朝早く起きた娘は、やはり一人でベッドを抜け出して、テレビでYouTubeを見ようとしていました。しかし、リモコンが見つかりません。前日の夜、私が眠気に負けて、リモコンを所定の位置に戻さないまま眠ってしまったせいです。
「ねえ、大きいピッピがないんだけど!テレビ付けれないじゃん!」娘が癇癪をおこし怒鳴り始めました。
我が家ではリモコンの事をピッピと呼んでいるのです。
寝ていた妻は、しぶしぶ起き上がり、機嫌悪そうにピッピを探しに行きました。女の感というものは寝起きでも鋭いのですね、妻はすぐに私が犯人だと確信した様子で、
「ねえ、ピッピないんだけど、どこに置いたわけ!」と苛立ちをあらわにしながら私に詰め寄ります。
私は、まさに今起きましたというふりをして、「プリンターの上にあると思います」と伝え、再び布団を頭からかぶりました。
妻はプリンターの上からピッピを取り、娘に渡しました。ピッピを手に入れた娘は、早速テレビでYouTubeを見ようとテレビの電源を入れて、お気に入りの動画を探し始めました。
すると妻がイライラした様子で言い放ちます。
「朝からYouTubeばっかり見てんじゃないよ!他にやらなきゃいけないこといっぱいあるでしょ!」
妻は最近仕事に追われていて寝不足です。そのうえ、幼稚園が夏休みでずっと家にいる娘はまったく言うことを聞いてくれないし、私は私でマイペース極まりないので、妻は心が休まる間もなくかなり疲弊している様子です。
娘もすかさず言い返します。
「もう、うるっさい!ママは黙ってて!ママなんて大っ嫌い!」
このままいくと、次は私の方に怒りの矛先が向いてきます。それを回避しようと、私はベッドから起き上がり、洗面所に向かいました。起きてすぐは「口が臭いから近づかないで」と娘に言われるので、まずはうがいをして、トイレで用を足し、手を洗ってから娘が座っている横に腰掛けました。
娘は私を足蹴りしながら、「パパは近くに来ないで」と怒鳴ります。私は「すいませんね」と謝り、少し離れたところに座ります。
すると妻が間髪入れずに私を怒鳴ります。「こっちは仕事に追われながら子供の面倒見てんだから、あんたも座ってないでさっさと家事しなさいよ」
ほら来た、予想通りです。
イライラはイライラを生み、連鎖していきます。そしてどんどん大きくなって、全てを焼き尽くしてしまうのです。そうなる前にどこかで食い止めないと、取り返しのつかないことになってしまいます。
私もムッとしながら「すいませんね」と呟きましが、その言葉は誰に届くともなく、もやもやと宙を漂い、そして「パンッ」と弾けました。
「そうだ朝顔を見に行こう」
そう思いたった私は、ロマンスカーのCMソングでお馴染みの「ロマンスをもう一度」を、心の中で口ずさみながら、ベランダの朝顔を見に行きました。
「あなたは今 どの空を 見ているの〜♪」
ベランダには、家族で育てている朝顔の鉢植えが、三つ仲良く並んでいます。いつもならリレー方式に、どれか一つが咲いて、それが枯れたらまた別のどれかが咲いてと、一つずつしか花を咲かせなかった朝顔達が、今日に限っては三つとも花を咲かせていました。
紫、ピンク、紫。
並んで咲く朝顔はまるで仲の良い家族のように、気持ちよさそうにゆらゆらと風に揺られています。
「ねえねえ、朝顔が三つも咲いてるよー」
私はベランダから部屋の中に向かって、大きな声で言ってみましたが、娘は「朝顔なんて見たくない!」と返してきました。妻は聞こえなかったのか、聞かなかったのか、返事はありませんでした。
私は仲良く風に揺れる、朝顔の家族に癒されながら、頭の中で流れ続ける「ロマンスをもう一度」を口ずさんでみるのでした。
「水平線が ゆっくりと 一つに重なれば
また会えますか 新しい日のなか〜♪」
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