泥まみれの娘と、蒸しパンと…
今朝は妻が仕事に行っていたので、私が娘を幼稚園に連れて行く日でした。
幼稚園に向かっている途中、娘が言いました。「幼稚園から帰ってきたら蒸しをパン作りたい」と。
私は「それは別にいいけど、夕方まで友達と公園で遊ぶんじゃないの?そしたら時間ないから作れないよ」と伝えました。
すると娘は「もし公園に行かなかったらの話。ママが美味しいレシピ知ってるから教えてもらっておいてね」と言っしまうと、あっという間に園舎に吸い込まれて行きました。
私は家に戻るとまず、ゆっくりと朝食を食べ、その後、一通り家事を済ませました。
「さて、行きますかっ」
そう口に出した私は、水筒にドリップコーヒーを落とし、文庫本とスマートフォンを持って近所の土手に向かいました。
さっき娘を幼稚園に送りに行った時に、外がポカポカ陽気でとても気持ちよかったので、家のすぐ近所にある土手に行って読書をしようと心に決めていたのです。
私はさっそく土手のコンクリートブロックの段差に座り、読書を開始しました。
思っていた通り、日差しは暖かく、風は穏やかでとても心地よい陽気でした。
私は読書に疲れてくると本から目を離し、水筒のコーヒーを啜ったり、近くで走り回る子供達を眺めたりしながら過ごしていました。
スマートフォンに目をやると、あっという間に時刻は13時過ぎ。
そろそろ妻も帰ってきている頃だと思い、トイレも兼ねて一旦帰宅することにしました。
リビングで昼食を食べていた妻に蒸しパンの件を伝え、レシピ動画をラインで送ってもらいました。
私はその動画を一通り見て予習をします。
「オッケー、オッケー、これなら材料もあるし、作り方も簡単だから楽勝だな」と思い、妻が娘のお迎えに行くのと同時に、私は再び土手へ向かいました。
妻に「公園行くかどうかわかったらラインして」と伝えていたので、たまにスマートフォンを気にしながら、読書をしたり、ボーっとしたりしていました。
しばらくすると妻からラインが来ました。
「やっぱり公園に行くんだけど、蒸しパンは食べたいからパパが一人で作っといて」とのことでした。
私は昼下がりのポカポカ陽気にもっと包まれていたかったのですが、
「はい、はい、わかりましたよ。作っておけばいいんでしょ」と重い腰をあげて、夕飯の買い出しをしてから家に戻ることにしました。
私は家に戻るとさっそく、蒸しパン作りに取り掛かりました。
ちなみにレシピはこんな感じです。
卵 1個
砂糖 50g
牛乳 50cc
サラダ油 大さじ2
薄力粉 100g
ベーキングパウダー 4g
まずは全ての材料を計量するところから始めます。これはお菓子作りにおける基本の「き」です。
全ての材料を先に計量しておくことによって、その後の工程が滞ることなく、スムーズに進めることができるのです。
私はさっそくボウルに卵を割り入れ、砂糖、牛乳、サラダ油をそれぞれに計量しました。
そして薄力粉も先に振るっておこうと、ボウルの上に置いたザルに薄力粉を入れました。
すると、なんとその薄力粉はわざわざ振るわなくてもいいように、あらかじめサラサラ加工が施されていて、まるで砂時計をひっくり返した時のようにサラサラとザルの網目を抜けて、ボウルの中へ落ちて行きました。
私はなんて便利な粉なんだと驚くのと同時に、少しだけ寂しいような気持ちにもなりました。
それは、美味しい料理やお菓子を作るという行為は、一つ一つの準備や工程をしっかりとやるという行為の上に成り立っていて、
食べる人のことを想い一手間一手間かけることに意味があると、そう思っていた私にとっては、この薄力粉を振るう手間を省いてしまうということが、その愛情の密度をほんの少しだけ薄めてしまっているような気がしたからです。
まぁ、そんなことは誰も気にしないだろうし、とやかく考えていてもしょうがないので、私はさっそく卵が入っているボウルに砂糖を入れて、ホイッパーでカツカツカツと、リズム良く混ぜていきました。
そして、そこに牛乳を加え、卵としっかり馴染ませたら、さらにサラダ油を加え、再びしっかり混ぜ合わせます。
そこに先程の薄力粉とベーキングパウダーを加え、グルテンが出過ぎないように優しく、しかし、しっかりと混ぜ合わせて行きます。
そしてココットに型紙をセットして、生地を流し込み、フライパンで蒸し上げたら完成です。
仕上がりはなかなかでした。
しっかり膨らんでいて、指で押すとムチっとした弾力がありました。
しばらくすると、泥にまみれた娘が帰ってきました。
お腹が減ってすこぶる機嫌が悪い娘は、「早く蒸しパン食べたい!」と騒いでいましたが、
「そんな泥だらけの格好で食べられるわけないでしょ!」と妻に言われ、そのままお風呂へ連行されて行きました。
そして、綺麗さっぱりしてお風呂から出てきた娘は、脇目も振らず蒸しパンに食らいつきます。
「めっちゃ美味しい!これなら50個は食べれるよ!」という娘に対し、
私は、「当ったり前じゃないの、誰が作ったと思ってんのよ」と心で呟きながら、娘の濡れた髪にドライヤーを当てていました。
髪を乾かしてしまうと、私は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プシュッと蓋を開けてそのまま口に持って行きました。
「くぅ〜、旨い!」
ビールを持つその手からは、ほのかに娘のシャンプーの香りが漂っていました。
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