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英詩を読んでみよう① "The Daffodils" by William Wordsworth


はじめに

私は英文学が好きで、学生時代に英文学を学び、いつか英文学の魅力を気ままに発信してみたいなと考えていました。

そこで、英文学の中で数多ある詩の中でも興味深い詩を取り上げて、簡単に解説をさせていただく「英詩を読んでみよう」シリーズを始めてみることにしました。

第一回は現在の英国でも愛されているとても有名な詩、William WordsworthのThe Daffodils(ウィリアム・ワーズワス「水仙」)を取り上げます。

このThe Daffodilsは、今でも英国で広く愛され、学校で学んだり暗唱されたりもしており、いわば国民的な詩です。
日本でも、英文科の学生がイギリスの詩に関する入門編の授業をとると、ほぼ必ず触れることになる詩だと思います。

なるべく原文を自分なりに読んでみてほしいので、詩全体の日本語訳はしていませんが、読むときの補助輪となるように、難しい単語の意味や代名詞が何を指すかなどは説明するようにしています。

このnoteに綴っている解釈はあくまでも私の解釈です。詩を読んでご自身の感じたことをなによりも一番大切にしてください。

このnoteが英語学習のお役にたてたり、英詩の面白さを伝えたりできれば幸いです。

まずはThe Daffodils詩全文を載せ、詩人Wordsworthや英詩の形式について簡単に解説します。
その後、2行ずつ丁寧に詩を読み解いていきましょう。

"The Daffodils" by William Wordsworth

The Daffodils

I wandered lonely as a cloud
That floats on high o’er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host, of golden daffodils;
Beside the lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.

Continuous as the stars that shine
And twinkle on the milky way,
They stretched in never-ending line
Along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance,
Tossing their heads in sprightly dance.

The waves beside them danced, but they
Outdid the sparkling waves in glee:
A poet could not but be gay,
In such a jocund company:
I gazedー and gazedー but little thought
What wealth the show to me had brought.

For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the daffodils.

William Wordsworthについて

今回の詩を書いたWilliam Wordsworth(ウィリアム・ワーズワス、1770-1850)は、イギリスのロマン主義を代表する詩人として知られています。

ロマン主義は、ごく簡潔に紹介するなら、18世紀末から19世紀前半を中心にヨーロッパ各地で展開された芸術の思想で、個人の感受性や自由、想像力などを重視しています。

Wordsworthは、イングランド北西部にある自然豊かなLake District(湖水地方)を愛し、自然を題材にした詩を多く残しました。

Lake Districtにある川沿いの店と草原で過ごす羊たち
自然が豊かで風光明媚なLake Districtは、観光地としても人気
Wordsworthが暮らしたLake DistristのDove Cottage外観
Wordsworthが暮らしたLake DistristのDove Cottage

1843年には、桂冠詩人という英国王室が優れた詩人に与える称号を手にしています。

英語詩の形式について

たとえば日本の俳句なら「5・7・5」で、それぞれ初めから「初句(一句)」「二句」「三句(結句)」と言うように、形式があります。

形式があるのは英詩も同じです。
詩のまとまりやリズム、理論も楽しんでほしいので、都度この「英詩を読んでみよう」シリーズ記事で取り上げる詩に合わせて英詩の形式について軽く解説をします。

stanza(スタンザ)について

今回のThe Daffodilsの詩を見てみると、6行のまとまりが4つあることに気が付くと思います。

このように、詩を構成する数行のまとまり一つをstanza(スタンザ)と呼び、初めのまとまりを第一スタンザ、2番目のまとまりを第二スタンザというように言います。

The Daffodilの詩をスタンザごとに区切ると、以下のようになります。

【第一スタンザ】
I wandered lonely as a cloud
That floats on high o’er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host, of golden daffodils;
Beside the lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.

【第二スタンザ】
Continuous as the stars that shine
And twinkle on the milky way,
They stretched in never-ending line
Along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance,
Tossing their heads in sprightly dance.

【第三スタンザ】
The waves beside them danced, but they
Outdid the sparkling waves in glee:
A poet could not but be gay,
In such a jocund company:
I gazedー and gazedー but little thought
What wealth the show to me had brought.

【第四スタンザ】
For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the daffodils.

rhyme(脚韻)について

The Daffodilsの第一スタンザの各行終わりの音に注目してみましょう。

I wandered lonely as a cloud
That floats on high o’er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host, of golden daffodils;
Beside the lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.

最初の行末の音にaという記号を当てはめ、これ以降の行末の音について、同じ音ならa、違う音ならbと新たな記号を割り振っていくと、次のようになります。

I wandered lonely as a cloud【a】
That floats on high o’er vales and hills,【b】
When all at once I saw a crowd,【a】
A host, of golden daffodils;【b】
Beside the lake, beneath the trees,【c】
Fluttering and dancing in the breeze.【c】

ababccという形で行末に韻が踏まれていることがわかります。

行末の韻のことをrhyme(脚韻)と呼びます。
The Daffodilsでは、第二~第四スタンザでもababccという形で脚韻が踏まれています。

英詩の脚韻の分析をする際には、上記のように記号を割り振って考えることが多いです。
脚韻のパターンのことをrhyme scheme(押韻構成)と呼び、その押韻構成によっては決まった名前を持っているものもあります。

詩を読んでみよう

スタンザごとに分けた上で、2行ずつ丁寧に詩The Daffodilsを読んでいきましょう。

自分なりに作品を英語で読んでみてほしいので、あえて全文の日本語訳は載せていません。
ですが、難しい単語や表現は解説しているので、参考にしてください。

繰り返しになりますが、このnoteの読みはあくまで参考程度に、なによりご自身の感じたことを大切に詩を読むのを楽しんでくださいね。

第一スタンザ

I wandered lonely as a cloud
That floats on high o’er vales and hills,
When all at once I saw a crowd,
A host, of golden daffodils;
Beside the lake, beneath the trees,
Fluttering and dancing in the breeze.

【1・2行目】
wander:歩き回る、さまよい歩く、ぶらつく。特に行く当てもなく歩くイメージ。
lonely:孤独な、一人ぼっちの。
float:浮かぶ、浮く。コーヒーの上にアイスが浮かんでいるコーヒーフロートのフロートにあたる単語です。
o'er:over。I'mがI amの略であるように、英語の'(アポストロフィ)の機能のひとつは省略です。overは2音節の単語ですがo'erは1音節なので、リズムを整えるために韻文の中で使われる省略形です。日常的には使用しません。
vale:谷。valley「谷」が一般的で科学的・地理的な用語で、valeは詩的な響きのある「谷」です。valeは固有の地名やvale of tears「涙の谷、悲しき浮世」のような比喩的表現で見かけます。

1行目ののasは「~のように」のasです。谷や岡の上にぽかんと浮かび、空を風任せに流れるcloud「雲」とひとりさまようI「私」を重ね合わせています。雲がcloudsと複数形でなく、冠詞aがついていてひとつであるというのもポイントですね。
2行目のThatはcloud「雲」を指しています。

【3・4行目】
all at ones:突然、こつぜんと。いっせいに、いっぺんに。ここでは前者の意味です。
host:大量、多数。ゲストに対してhost「主人」という意味でよく知られている単語ですが、a host of ~「多くの~、大量の~」でもしばしば用いられます。
daffodil:ラッパズイセン。黄色が目にもあざやかな水仙です。この詩のタイトルにもなっていますね。イギリスはイングランド(England)、ウェールズ(Wales)、スコットランド(Scotland)、北アイルランド(Northern Ireland)の4つの国から成る連合王国ですが、そのうちのひとつウェールズの国花でもあります。イギリスでは3月・4月になると各地で咲いているのが見られ、春を告げる花として愛されています。

イギリスで数多くのラッパズイセンが咲いている光景
3月にはイギリス各地でラッパズイセンが咲き誇る

ひとり孤独な「私」と対になるように群れをなすラッパズイセンが、眼前に立ち現れます。

【5・6行目】
flutter:はためく、ぱたぱたと揺れる。
breeze:そよ風。windが一般的な「風」を意味し、時には激しく不快な風を指すこともあるのに対して、breezeは穏やかで心地よい風に用いることが多いです。

第一スタンザはcloud「雲」と空から始まって、だんだんと地上に降りてきており、ラッパズイセンの大群が咲いている場の様子が具体的になっていきます。湖と木も登場し、空間的な広がりが感じられます。
また、そよ風にたくさんのラッパズイセンがはためいている様子を、dancing「踊っている」と擬人法を用いることで、生き生きと表現しており、動きが感じられるようになっています。
ぽつんと浮かぶひとつの雲のような「私」と、群れを成し生き生きと踊るラッパズイセンの対比が印象に残りますね。

第二スタンザ

Continuous as the stars that shine
And twinkle on the milky way,
They stretched in never-ending line
Along the margin of a bay:
Ten thousand saw I at a glance,
Tossing their heads in sprightly dance.

【1・2行目】
continuous:つながった、とぎれない、連続した。動詞continue「続く」とセットで覚えましょう。
shine:輝く。太陽のように自ら光を発して輝いている場合にも、月のように光を反射して輝いている場合にも使える単語です。目が喜びで輝くといったような、比喩的な表現の「輝く」も表せます。
twinkle:(星や光などが)きらきら光る、きらめく。童謡「きらきら星」の英語タイトルはTwinkle Twinkle Little Star。
milky way:天の川。milky wayの由来は、ギリシャ神話で赤子のヘラクレスが女神ヘラの乳を強く吸って母乳がこぼれ、天の川になったという逸話だと言われています。

1行目ののasは「~のように」のasです。第一スタンザの1行目でも、このasを用いて「私」を雲にたとえていましたね。今回は、ラッパズイセンの大群をstars「星」にたとえています。
また、第一スタンザのはじまりと同じく、空のイメージから第二スタンザも始まります。

【3・4行目】
stretch:(手足、翼などを)伸ばす、伸びる、(ロープなどを)張る、(土地などが)伸びている、広がる。体を伸ばす運動のストレッチにあたる単語です。ここではラッパズイセンの花畑が広がっていることを表しています。
margin:余白、周辺、淵。
bay:湾、入り江。東京湾は英語でTokyo Bay。

第一スタンザと同様に1・2行目は空のイメージからはじまりましたが、地上に降りてきています。
ラッパズイセンが途切れることなく、どこまでも続くかのように入り江の淵に沿うようにして咲いていることがわかります。

【5・6行目】
at a glance:一目で。glanceは「一見、ちらっと見ること」という意味の名詞です。
toss:(ボールなどものを)投げる、(頭などを)振る。コイントスやバレーボールなどのトスです。今回のようにone's headを目的語にとって、「頭を振る」の意味で使われることもあります。
sprightly:元気な、活発な。

ラッパズイセンがはためく様子を、「頭を振って元気にダンスしている」と擬人法を用いて表現しています。
第二スタンザは、第一スタンザと呼応するように表現がされており、この二つのスタンザを比較して共通点・相違点を見つけながら読むのも面白いです。

第三スタンザ

The waves beside them danced, but they
Outdid the sparkling waves in glee:
A poet could not but be gay,
In such a jocund company:
I gazedー and gazedー but little thought
What wealth the show to me had brought.

【1・2行目】
outdid:outdo「勝る」の過去形。
sparkling:きらめく、きらきら光る。(飲み物が)発泡性の。いずれの意味でも形容詞で、ここでは前者の意味で使われています。スパークリングワインのスパークリングです。
glee:歓喜、大喜び。心からの大きな喜びを表す際に使われる単語です。

1行目のthemとTheyはいずれもラッパズイセンを指します。ラッパズイセンの側にある湖の波も踊り、きらめいていますが、ラッパズイセンのほうがよりglee「歓喜」に満ちていると表現しています。

【3・4行目】
poet:詩人。「ポエマー」は和製英語です。poemは「詩」。
can't but do:~せずにはいられない。
gay:ここでは「ゲイ、同性愛者」ではなく「陽気な、快活な」という意味で使われています。後者の意味での使用は現代ではあまりされません。
jocund:陽気な、明るい、愉快な。あまり現代では使われず、基本的に文語として使用される単語で、古典文学作品で見られます。
company:「会社」という意味のイメージが強いかもしれませんが、「人付き合い、仲間、一緒にいること、一団」といった意味でもよく使われる単語です。keep 人 company「~の相手をする、~と一緒にいる、~と同行する」などの表現があります。

such a jocund company「このような陽気な一団」はラッパズイセンのことを指しています。

【5・6行目】
gaze:見つめる。喜びや驚きなど、感情を伴ってじっと見ることを表す際によく使われる単語。
little:ほとんど~ない。文学作品では、think「思う」と組み合わせて、「~とは思いもよらない」という意味合いで使われていることが多いです。

gazedが繰り返され、I「私」はとても熱心にラッパズイセンの光景を見つめていたことがわかりますね。
6行目のthe showはこのラッパズイセンの光景を指します。little thought「思ってもみなかった」のは何かと言うと、6行目What wealth the show to me had brought「このラッパズイセンの光景がどんな富を私にもたらしてくれたか」ですね。6行目末がピリオドではなくコロン(:)で終わっていることから、次のスタンザはこのことについての説明が続くと予想できます。
第一・第二スタンザで続いたどこまでも広がってゆく開放感のあるような情景描写から、第三スタンザでは詩人の内なる心の世界へと視点が移り始めます。

第四スタンザ

For oft, when on my couch I lie
In vacant or in pensive mood,
They flash upon that inward eye
Which is the bliss of solitude;
And then my heart with pleasure fills,
And dances with the daffodils.

【1・2行目】
oft:often「しばしば」の古風な形。現代英語ではまず使われず、こういった古典文学などで見られます。
couch:(背もたれやひじ掛けのついた複数人が座れる)ソファー、長椅子。ソファーでごろごろしている様子やそうしている人のことを、couch potatoと言います。
vacant:空っぽの。(家や部屋などが使用されず)空いている。(心や頭が)空っぽな、ぼんやりした。ここでは一番後ろの意味で使われています。「空き家」はvacant house、「空地」はvacant lot。
pensive:物思いに沈んだ、考え込んで。思索的な、哀愁を感じられるニュアンスを持つ単語です。

最初のForは説明や理由を述べる「というのも~だから」の意味でとりましょう。第四スタンザでは、第三スタンザの結びにあった、ラッパズイセンの光景が「私」にもたらしてくれたものについて説明がされています。
この1・2行目では、「私」がぼーっとしてたり物思いにふけったりして長椅子に横たわっているとき、という状況がわかります。

【3・4行目】
flash:ピカッと光る、ひらめく。フラッシュ撮影のフラッシュ。光り続けるというよりかは、稲妻などの一瞬の光を表します。
inward:内側の。「心の目」inward eyeに対し、「肉眼」をoutward eyeと表すこともあります。
bliss:至福、最上の喜び。無上の幸福感、とても強い喜びを表すときに使われる単語で、神が与えてくれる祝福や喜びを指す際にも用いられます。
solitude:孤独。寂しさや人恋しさを含むようなネガティブな意味で使われることは少なく、一人でいるという単なる状態や、自分で選んで一人静けさの中にいることを表すことが多いです。

長椅子に「私」が横たわっているときに、inward eye「心の目」で私はtheyを見ることになります。このtheyが指すのは、ラッパズイセンですね。そうやって心の中で光を放ち、よみがえってきたラッパズイセンの光景を、the bliss of solitude「孤独の中の至福」と表現しています。
この詩では光に関する単語が多用されています。ここではflashが使われていますが、前にはshineやtwinckleなどがありますね。単にすべて「光る」と同質のものとして読み取るのではなく、それぞれのニュアンスの違いを踏まえたうえで詩を読むと、表現の工夫や英語の光にまつわる語彙の豊かさを感じられます。

【5・6行目】
fill with ~:~で満たす、いっぱいにする。

「私」の心が喜びでいっぱいになり、ラッパズイセンと一緒に踊る様子でこの詩は締めくくられます。
この詩のポイントは、第一~第三スタンザで描かれた肉眼で見たどこまでも広がっていくようなラッパズイセンの光景に喜びを覚えつつも、第四スタンザで描かれた心の目に映るよみがえってきたラッパズイセンの光景をthe bliss of solitude「孤独の中の至福」とより強い、最上の喜びで表現していることのように思います。
第一スタンザでは「私」の孤独がlonelyで、群れを成しているラッパズイセンと対比されているのに対し、第4スタンザでは孤独はsolitudeになり、ラッパズイセンとともに私の心が躍っていることにも注目したいところです。

おわりに

いいことがあって、後にふと思い出して嬉しい気持ちになったり、励まされたりしたことのある人は多いのではないでしょうか。

心の中で好きな光景がよみがえってくることの喜びを、対比などを用いながら見事に描いたこの詩は、現代人にとっても共感しやすいと思います。

英国の春の象徴として愛されているラッパズイセンが咲き乱れる美しい光景を描くだけでなく、その光景が個人の心の中でよみがえってくる喜びを描く点には、「William Wordsworthについて」でご紹介したロマン主義の特徴も感じられますね。

では、次回も素敵な英文学の詩をご紹介しますので、気が向いたらぜひ記事を読みにきてください!

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