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短編集 ~温~

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単発小説とかそういうのの置き場です。あたたかみのあるお話(作者による主観)が置いてあります。
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#ほのぼの

【短編小説】 異物

【短編小説】 異物

 その青年が私の医院にやって来たのは、12月25日の昼のことだった。
 彼は不自然な姿勢で、よちよちと歩いて診察室に入ってきた。
 私がどうぞ、と椅子を勧めると、いえ、椅子は、と言いよどんだ。丸眼鏡の奥の目が泳ぐ。 
「ちょっとあの、諸事情ありまして、座るのが」
 自宅からここへの電車も、ずっと立ったままでやって来たという。
 よく見れば下半身、それも前でなく後ろの方を、しきりに気にしている。
 

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【完全版】 青森の救世主 (上)

【完全版】 青森の救世主 (上)

☆はじめに☆

 本作は、カクヨムにて開催された個人設営のコンクール「草食信仰森小説賞」への応募作の完全版です。応募テーマは「信仰」でした。
 このような感じの内容にも関わらず、応募規定の最大値・1万字を軽く越えてしまったため、2000字ほどを削りました。
 今回、主催者の方に転載の許可をいただき、若干の手直しをしてここに掲載するのがその全長版=完全版となります。それではお楽しみください。

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【完全版】 青森の救世主 (下)

【完全版】 青森の救世主 (下)

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 会計の際に「……ワインを頼まれたんですか?」と店員と一悶着になったり、車に乗る前に彼を撮ろうとして「写真」の概念を伝えるのに苦労したり、幾つかの騒動はあったが俺たちは車に乗り込んだ。  
「えぇっと……狭い海と広い海とがあるんですが、どっちに行くんですか」
「広い方です。おっきぃ方さ行ってくだせぇ」
 俺は胸をなでおろした。もし狭い海、日本海へ行くと言い出したら

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