ドナ

双子と犬と夫と私。 13年暮らしたニューカレドニアから、南仏の小さな町へ。 やかましく…

ドナ

双子と犬と夫と私。 13年暮らしたニューカレドニアから、南仏の小さな町へ。 やかましくも愛しい日々の中、小さなキッチンカーで日本食をお出ししています。 https://www.instagram.com/kazuko_parfums.asie/

最近の記事

息子に書いたラブレター。

あなたが大好き。 素直で やかましくて とりあえず優等生で お人好しで ちょっとしつこくて 気まぐれで お調子者で 愛情深い。 寝顔がとことん尊くて 目覚めた瞬間から元気いっぱい。 あなたを叱り過ぎたり、こちらのイライラで優しくしてあげられないときもある。 でもそんなときは一旦気持ちを落ち着かせてからハグをする。 ふたりで一緒に深呼吸して、私から先に謝る。 それが正しい子育てなのかどうかは分からないし、不正解だったとしても。 そうやって、あなたの小さな心に歩み寄る。 そ

    • 我が家のテーブル。

      夫の両親宅にあった古い木のテーブル。 もう長いこと玄関脇の薪置場で雨風にさらされたまま放置されていた。 朽ちて廃棄を待っているだけのような、悲しみさえ漂うそれを、ある日夫が我が家に運んできた。 自分が子供だった頃には家のメインテーブルだったんだ。家族の想い出がたくさんあるんだよ。捨てるなんて考えられない。木材はしっかりしているし、傷んだ部分は削って、ニスを塗ればまた立派なテーブルとして使えるようになるよ。 そう話した割には、すぐに手を付けることもなく、ビニールシートを被せ

      • わたしのナツイチ。

        子供の頃、夏休みになるといつも祖父母の家に預けられた。 タライに水を張り、洗濯板でごしごしと洗濯をする祖母と、ビシッと髪を整え、麻の上下を着てパチンコに通う祖父が住む、トタン屋根の小さな家。 線路沿い。 蛇が出る小さな畑。 汲取式の暗いトイレ。 井戸水。 霊媒師のご近所さん。 庭で飼っている威勢のよい鶏に追いかけ回されて突かれて泣いたり、近くの公園で誘拐されそうになったり。 なんだかんだ、幼い私には刺激的な夏休み。 たまにひょっこりと現れる母はいつも私に図書

        • あなたが想い出すことのいくつかに。

          学校帰り。 夕焼けに染まりながら並んで歩くふたり。 私はその後ろを歩きながら、あっという間だなーと想う。 つい何年か前に産まれたばかりなのにな。 こんなにもすらっと手足が伸びて。 生意気で。 可愛いくて。 素直な気持ちで大人のエゴを訂する強さがあって。 我儘や甘えはどれだけ許されるのか、それは自分たちへの愛情なのか、クリスマスプレゼントの予算と比例するのか、という議題をひとつのベッドに持ち込んで、結局頭をくっつけ合って寝落ちして。 仕事ばかりの夫と私を励ましたり、労った

        息子に書いたラブレター。

          さよなら、人魚。

          ある日。 小学生になったばかりの私が学校から帰宅すると、保健所から来たという人が玄関前で私を待っていた。 「お母さんは病気で入院しました。きみも今すぐに病院に行かなくちゃいけないので着替えを用意してくれるかな。先に入院しているお母さんの分もね。」と言う。 その人はマスクをして、白衣を着ていた。 私はそんな話でだまされないぞ、と泣いて抗議した。 さらわれるもんか。だまされないぞ。 隣の家の人が窓から顔を出した。 あぁ、助けてもらえると思ったら。 「早くその子を連れてってください

          さよなら、人魚。

          海辺にて。

          じっと波を見つめていた娘。何を想っていたんだろう。 潮の風があなたの丸い鼻とふっくらとした頬を冷たくする。 髪も湿ってきたね。海はあなたに優しいかな。 時には厳しい顔を見せることもあるだろう。 はしゃいで駆け回る脚を濡らしては、あなたたちを楽しませたり、 驚かせたりもするだろう。 そばには誰がいる? ひとりのときも、誰かが寄り添うときも、誰かに寄り添うときも。 私がそこに居ても、居なくても。 あなたは私の大切な子。 海よ、この子をお守りください。 この子がここに来て、そっと

          海辺にて。

          ケンジくんの自転車。

          二年前、子供たちに自転車が届いた。 それはサンタクロースからのプレゼント。 そう、初めての自転車。 初めて乗ったのに、こんなにすぐ走れちゃうよ! 子供たちはそう言いながら笑顔で風を切る。 上手く乗りこなせるのは補助輪のおかげだということに、どうやらまだ気づいていないらしい。 「サンタクロースが来たんだね。」と、すれ違うご近所さんたちが子供たちに声をかける。 「僕たち双子だから、喧嘩しないように2台くれたんだ!」と息子が答え、「私たちの家には煙突がないから、煙突のあるおじい

          ケンジくんの自転車。

          ララは愛の言葉。

          17年と5か月を連れ添った、私の愛しい犬とお別れをしました。 「死」というものは、誰にでも訪れるのだけれど。 親の死よりも、悲しかったのだ。申し訳ないけれど。 母が最期を迎えた時の何倍も淋しくて、何倍も泣いた。 私と母はあまり良い関係ではなかったけれど。 それでも私を産み、女手一つで私を育てた人だ。 私のために、我慢したことも無理をしたこともあったと思う。 もちろん感謝している。 憎んだり、恨んだりもしたけれど、近所でも評判の美しい母のことを、心のどこかでは少し自慢にさ

          ララは愛の言葉。

          竜宮神曲。

          私の母は6人兄弟でした。 本当は7人兄弟だったのだけれど、ひとりは死んでしまったのよ、と母は私に言いました。 死んでしまった母の兄弟というのは長男で。 祖父母はその長男とともに、船で朝鮮から日本に渡ってきました。 船から降りて、自分たちを運んできたその船が母国に戻っていくのを見つめていたとき、それは起こったのです。 今まで聞いたことのないような大きな音が鳴り響きました。 それはその船の出航を合図する汽笛でした。 祖母の腕に抱かれていた赤ちゃんは、その汽笛の音とともに痙攣を起こ

          竜宮神曲。

          きときとのさかな。

          富山を訪ねたのはその一度だけだ。 もう20年前ものこと。 友達の女の子とふたり。 彼女の運転する車で。 「私たち、テルマ&ルイーズみたい!」 ロードムービーを気取って、咥え煙草でハンドルを切る。 缶珈琲は無糖、BGMはラヴァーズロック。 明るく染めた髪をなびかせて、高速道路をびゅんびゅん飛ばす彼女は最高に頼もしい。 富山に行ってみようと思ったのは、 「そこに佐伯さんが居る。」からだ。 当時、私は地元のレコードショップに勤めていた。 そういう仕事ってかっこいいなと思って

          きときとのさかな。

          今日の日はさようなら。

          名古屋の大曽根という小さな町に。 祖父母の家はありました。 一軒家とはいえ小さくて、半分はトタン屋根。 そばには小さな畑を持っていて。 自分たちが食べる野菜をいくつか育てていました。 そして、縁側には放し飼いで3羽のニワトリ。 まだお嫁に行く前の叔母も住んで居ました。 幼い私をそこに預けたままの母は、たまにひょっこりと現れてはすぐに居なくなる。 叔母から、「もう、お姉ちゃんたら。真面目になりなさいよ。」 なんて諭されながらも飄々として。 遠慮なく冷蔵庫から冷えたビールを出

          今日の日はさようなら。