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絵本は、対話型書物である~その効果的な問いについて~

絵本は、ひとり黙読することを前提として作られてはいない。あくまで、誰かが誰かに(例えば親が子に)、読んであげることを前提に作られているという考え方がある。絵本の活動をやりはじめて、この話を聞いたとき、思わずうなるくらい合点がいった。なるほど、だからよみきかせし、実際に声に出し、相手に聞いてもらうことで、その絵本の世界が広がって感じられるのだと。

絵本を使って、場作りをしているドンハマ★にとっては、そこに複数の人間が存在するということは、相互の対話が成り立つと言ってもいいだろう。更にその場に、問いが投げかけられることによって、その関係性が共感的にも刺激的にもなり、活性化すると感じている。

あくまで個人的な意見ではあるが、ケース別にどのような問いが効果的なのか、考えてみたい。ここで何をもって効果的とするか?という大前提を論じる必要があるが、そこに集まった人たちが、自分の存在感を自覚し、積極的に関わったり、充足感を得る可能性が高まることを効果的と考えることとする。


ケース1:2~3人でよみきかせ

絵本のよみきかせの中では、一般的によくあるケースで、読み手と聞き手といった関係性である。たとえば「おおきなかぶ」を親子で読んでいるような場面を考えてみたい。この作品は、小学校の教科書にも採用されていたことがあるから、ご存知の方も多いと思うが、大きな株を抜くときの掛け声「うんとこしょ、どっこいしょ」が印象的な絵本でもある。

(トルストイ作、内田莉莎子訳、佐藤忠良画、福音館書店)

おそらく親子でこんな会話(問い掛け)をするのではないかと思う。

親:「おじいさんは、かぶをぬこうとしました。」
  〇〇ちゃん、いっしょに掛け声出そうね。せーの!
  『うんとこしょ。どっこいしょ。』ところが、かぶはぬけません。」
  ありゃりゃ、抜けないんだって、さあどうしたらいいと思う?
子:〇〇したらいい…(とかいろいろ)

聞き手である子どもがお話の世界観を楽しみながら、読み手(この場合は親)との信頼関係や包容感・安心感を結果的に高めていくような場でもある。


ケース2:大勢によみきかせ

次に、学校のクラスなどで、読み手が子どもたち全員によみきかせするようなケースを考えよう。基本的には、ケース1と同じような流れで進むと考えられるが、「うんとこしょ。どっこいしょの掛け声は、みんなで一緒にお願いしま~す」と呼びかけて、盛り上げたい。読み手が、株をひっぱるジェスチャーを行うなど、場作りを先導するのはとても効果的だと思う。

先日、大人ばかりの交流会(SSIR-Jコミュニティのミートアップイベント)に参加したのだが、会の冒頭に「おおきなかぶ」のよみきかせをやらせてもらったのだが、大いに盛り上がり、場の雰囲気が一気に和らいだことがあった。いきなり絵本とは、参加者にとっては、予想外の展開であったと思うが、絵本の力を体感できる良い機会となった。
※SSIR-Jとは、スタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビュー 日本版の略称。ドンハマ★もコミュニティに参加しています。

SSIR-JコミュニティMEET-UPイベントの冒頭シーン

ケース3:よみきかせ&感想シェア

絵本のよみきかせを大勢にする場合、お話を聞いてそのまま終わる場合と聞いた後、感想をシェアしあう場合がある。どういう場を作りたいか、主催者の意図によって対応が変わるが、物語を聞いた後、そのままその世界に浸っていたいと考えるときには、感想は極力求めない。脳の作用で言えば「右脳重視」な楽しみ方と言える。

一方、物語を聞くことで、自分の経験などと結び付けて、誰かに何かを語りたくなる場合もある。その場合は、感想をシェアしあう場などが有効になる。言語化や論理的な解釈がより必要となるので、「左脳重視」な楽しみ方と言えるだろう。

更にこの左脳重視の場合、投げ掛ける問いによって、世界観の広がりが大きく変わると言える。問いの活用例を次にいくつか見てみようと思う。


ケース4:絵本セラピー® 

よみきかせした絵本について簡単な問いかけを行い、それぞれの参加者が感じたことをワークシートに書き出し、参加者同士でシェアするスタイルのワークショップである。

絵本セラピスト協会代表の岡田達信氏が考案したプログラムで、絵本の力を借りて、ありのままの自分で交流できる安心安全な『場』を作る技術だと岡田氏は語る。

ドンハマ★もこの絵本セラピストの資格を保有しているが、大人同士が自分の気持ちや経験を共有しあうことで、自分らしくあることの大切さを気付くきっかけになると感じている。

仮に「おおきなかぶ」を用いて、私が絵本セラピー®の場で問いかけするとしたら、こんな感じだろう。一例として示してみる。

「この話の中では、おじいさん、おばあさんだけでなく、いぬやねこや最後はねずみまで総動員で、ようやく株が抜けましたね。みなさんもこれまでのご経験で、自分だけでなく、家族や仲間とかいろんな力を借りて、何かがようやくできた!うまく行った!みたいな経験はありませんか?もしあったら、このワークシートにどんなご経験があったのか?そして、それがうまく行ったポイントは何だったと思うか、書いてみてください。のちほど、グループごとで共有しましょう」

絵本セラピーのプログラムは、だいたい60分とか90分という時間の中で、数冊絵本を読みながら、いくつかの問いを投げかけながらワークを進めるので、同じ絵本であっても、プログラム全体のテーマ設定や読むタイミングによって、問いの内容は大きく変わると考えられる。

絵本セラピー®の詳しいメソッドなどは、岡田氏の著作を確認いただきたい。


ケース5:絵本で企業研修

絵本をマネジメント研修やチームビルディングに活かすこともできる。組織開発や人材育成のコンサルティングを行うウ―ヴル代表の三宅未穂子氏は、絵本を活用したマネジメント研修のメソッドを提供している。

企業研修で、前述の「おおきなかぶ」を用いているが、よみきかせ後に次のような問いを投げかけるそうである。

「この絵本を私たちの職場に置き換えて読むと、どんなヒントがありますか?」
「何を読むことができましたか?」

それに対して、「力を合わせることで、大きな株も抜くことができる」「協力する大切さ」といったチームワークに関する発言だけでなく、「なぜこんなに株が大きくなるまで放っておいたんだ!事前に手を打つべき」という生産管理や危機管理という視点での発言もあったりするそうだ。

絵本は、物事の本質をシンプルに捉えているからこそ、企業の今の姿を鏡のように写し出し、物語を通して、経営者や社員たちに何かを気付くきっかけを与えているように感じる。

詳しいメソッドは、三宅氏の著作を参照いただきたい。


ケース6:絵本で哲学対話

「正解のない時代」と言われて久しいが、であれば正解を自分で考えるしかない。小学生(場合によっては未就学児)から大人まで、哲学対話や哲学カフェと言われる対話の機会が日常に広がっていると感じる。

哲学というだけに「人はなぜ生きるか」のような深淵で根源的テーマを掲げるのもありだし、「友だちって何?」や「なぜ痩せたいと思うのか?」といった身近なテーマの対話もありだろう。時流に乗って「ジャニーズ問題が残したもの」というテーマでもありだと思う。

その場では、参加者がめいめいに感じたこと、意見を述べてよく、何か結論をひとつに収れんさせる必要もないので、結果としてもやもやが残ることもしばしばであるが、それがまた新たな問いとなり、自己対話し続けることにつながるだろう。

絵本は、物事の本質を具体的にかつシンプルに伝える機能があるので、物事を抽象化する哲学的な対話にもとても向いている素材だと思う。

私は、数年前に絵本を用いた哲学対話イベント「えほん哲学研究室」なるものを立ち上げ、計10回ほど開催したことがある。取り上げたテーマは、「生きるとは何か」「何かを得るとは」「穴とは何か」「時代が変わるということ」「〆を哲学する」などなど。絵本を数冊読みながら、1つのテーマを多角的に深掘りしていくような内容であった。

実は、思考を深める絵本の選書はなかなかに難しく、また主催者としての腕の見せ所でもある。どの本をどういう順番で読み、参加者の思考をいかに広げ、余白をいかに残すかを常に問われるのだ。

当時は、よみきかせの楽しさに力点を置いた「よみきかせナイト」と、哲学思考のゲーム性に重きを置いた「えほん哲学研究室」が私の絵本活動の二本柱となっていた。前者を好む人と後者を好む人で、大きく二分する傾向があるのはおもしろかったが、それぞれの場の必要性も同時に感じたものだ。

図書館演習での講義

先日、法政大学にゲスト講師として登壇した際、短時間ではあったが、学生さんたちに「えほん哲学研究室」を少し体験いただいた。「がまんは必要か、不必要か」というテーマで、絵本「がまんのケーキ」(かがくいひろし作、教育画劇)を用いて、哲学対話を行った。

最初は、よみきかせなしでテーマについて意見交換、絵本のよみきかせ後に、さらにテーマについて意見交換してもらった。
当初は、自分視点でがまんをすべきか、すべきでないか?という意見が多かったのに対して、絵本のよみきかせ後は、誰かのためのがまんという視点が入り、それはもはや「がまん」とは言えないのではないかという意見も出て、更に内容が深まったように感じた。


仮に「おおきなかぶ」を用いて、哲学対話をするなら、私なら、次のような問いを思いつくがどうだろうか?

・テーマは「抜くことの効用」。問いは、カブは抜けた方が良かったのだろうか?抜けない方が良かったのだろうか?
・テーマは「人類の未来」。問いは、カブはどんな人類の課題の象徴だろうか?課題解決のポイントは何だろうか?

共感資本社会の実現を希求する私ドンハマ★にとって、絵本を使った哲学対話は、とても興味関心のあるアプローチである。哲学対話の場が、社会実装する日を思うとワクワクしかない。


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