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介護職のコミュニケーション技術③

この記事は介護の職場で働いているスタッフに向けて、私が地域密着型デイサービスセンターで管理職として働いていた頃の経験をもとに書かれています。


今回は前回の記事で紹介できなかった傾聴の二つの技術について紹介したいと思います。



感情の反映

感情の反映とは話の内容それ自体に注目するよりも、話をしている利用者様を五感で感じながら、利用者様の感情に沿った言葉を返すことです。

例えば介護職のコミュニケーション技術①でも例えとして使っていました、買い物の話です。

「昨日買い物行ったんだよね」と言った利用者様の顔が暗いです。繰り返しの技術を使い「買い物に行ったんですね」と返しても無言のままです。ここで感情の反映を使います。「何か嫌なことでもあったんですか?」

傾聴の技術の中で最も大事だと思うのが「感情の反映」です。もともと私は苦手だったのですが、ある女性介護スタッフが自然とこれをやっているのを見て、真似をしていたらできるようになりました。もしかすると女性の方が男性よりも、話の内容そのものではなく話をしている人の感情に注目しているのかもしれません。男性スタッフが女性スタッフから学ぶことは本当にたくさんあります。

なぜ最も大事だと思うかというと、「感情を理解される」ということが人間にとって一番気持ちの良いことだからです。大好きな人に好きだ!と言って思いが通じた時、一番嬉しいですよね。人間は感情の生き物なのです。だからこそ利用者様の感情は正確にとらえて、間違えないように反映しなければいけません。




言い換え

頭のいい方に多かったりするのですが、話が延々と続く人がいます。論理的に考える傾向が強い男性利用者様の方が多いかもしれません。

例えば「〜ので、その時した。〜だから、〜で、つまり〜ということは〜私も〜と考えた。〜そういうことがあって〜で〜だから〜etc」というような会話です。

普通は「つまり」の後に要点が来るはずですが、どうやらそこではないようです。話が終わったと思えば「そういうことがあって〜」とまだ続きます。(「終わりじゃないんかい!」と頭の中で突っ込むこともあります。笑)

このような時に延々と話を聞き続けるのも、傾聴という観点から考えれば「利用者様をありのままに受け入れる」ことですから間違いはありません。ですが、もっとスマートなやり方を使うべきです。利用者様も自分が何を言っているか分かっていないのに話しているかもしれません。介護スタッフも要点のぼんやりしている話を長時間聞くと疲れてきます。これは聴く側話す側、両者にとってよくありません。



こんな時に便利なのが言い換えです。



前回の記事「介護職のコミュニケーション技術②」から紹介している傾聴の最後の技術ということで、おそらく難易度は最も高いです。

まず結論から言って、言い換えの原則は「利用者様が言った以上のことを言い換えない」ことです。


「え、当然でしょ?言い換えなんだから、利用者様が言った言葉を別の言葉で言い換えるんでしょ?」と思っている方も、よく聞いてください。



私たちは自分の解釈や感じ方、考え方で人の言葉を都合よく解釈する生き物なんです。
いくらトレーニングをしたとしても、こればっかりは完全にコントロールできるものではありません。



だって私たちは20歳の人なら20年、50歳の人なら50年人生を生きているわけです。様々な経験をする中でその人固有の考え方というものが、必ず身につきます。だからこそ自分の価値観や考え方に引っ張られ過ぎないこと、利用者様の言葉に勝手な想像や解釈を加えずに言い換えることが大事なのです。



例えば「介護保険証を無くした」と言いたい方の話を言い換えする例を見てみましょう。


利用者様「あの役所からもらう紙なくしたわ!デイサービスに通う時に必要なんでしょ。なくしちゃった、アレ。」
私「介護保険証のことですね。介護保険証を無くしてしまったんですね。」
利用者様「そうそう、それ!困ったなぁ、無くしちゃった。」


はい、こんな感じです。この後に続く言葉としては、「一緒に探しましょうか」とか「無くしても再発行してもらえますよ」など私なら言うと思いますが、それはもう言い換えの技術ではないので割愛します。


では次は悪い例を見ていきます。


利用者様「あの役所からもらう紙なくしたわ!デイサービスに通う時に必要なんでしょ。なくしちゃった、アレ。」
私「介護保険証のことですね。デイサービスでは毎回必要なわけではなく、一度見せてもらえば大丈夫ですよ。気にしないでください。」
利用者様「でも、大事なものなんでしょ。無くしちゃったの。」




、、、何がダメなのか分かりましたか?



利用者様にとっては「無くした」という事実を伝えたかったのです。ただ「何を」無くしたのか、その「何を」の名前が出てきません。


だから「介護保険証を無くした」という言い換えが一番正しいことになります。



逆に言うと「デイサービスに通う時に必要」という部分を「毎回必要ではない」という事実があったにせよ、言い換える必要はありません。

スタッフ側も気を利かせて「この人は介護保険証がないことでデイサービスに通えなくなると思ってるのかな。そうだとしたら、かわいそうだ。誤解を解いて励ましてあげよう」などと考えての発言かもしれません。ですが、先ほどお伝えしたとおり、それはスタッフ側の勝手な思い込みや解釈が入っているのです。

たとえデイサービスで毎回介護保険証を提示する必要がないにせよ、介護保険証は大事なものに違いありません。

また、利用者様はそういう大事なものを無くしてしまった自分にショックを受けていたり、自分自身の認知機能の衰えを感じて悲しいのかもしれません。だから「無くした」ということを利用者様は最初のセリフから強調して二回も言っているのです。



言い換えのコツですが、大体会話の中で複数回出てくる言葉は利用者様にとって特に大事な言葉ですので、必ず言い換えの際に言いもらさないようにしましょう。そして何度も言いますが、スタッフ側の想像や解釈は必要ありませんので、利用者様の語ったこと以上のことは言わないようにしましょう。



ちなみに同じ会話を最初に紹介した「感情の反映」で行うと次のようになります。

利用者様「あの役所からもらう紙なくしたわ!デイサービスに通う時に必要なんでしょ。なくしちゃった、アレ。」
私「介護保険証のことですね。無くしちゃったので、困っていらっしゃるんですね。」
利用者様「そうなのよ、困ってるの。どうしようかしら。」


はい、こんな感じです。


利用者様は一言も困っているとは言っていませんが、私は利用者様の困っている表情や不安そうな声のトーンから察知して、「この方は困っているんだな」と判断しました。それで利用者様の感情を言葉に言い換えているのです。


とすると感情の反映は、「感情の言い換え」とも言えるかもしれませんね。





まとめ

「感情の反映」は傾聴の技術の中で最も大事です。感情を理解された時に人は一番気持ち良く感じます。
「言い換え」は傾聴の技術の中で最も難易度が高いです。原則は「利用者様が言った以上のことを言い換えない」で、コツは「利用者様が複数回使った言葉は大事なので、必ず言い換えの際に言いもらさないようにする」ことです。


介護職のコミュニケーション技術、全3回をこれで終わります。
①②をまだ読んでいない方はそちらも読んでくださいねー!


ありがとうございました!!!

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