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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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2023年11月の記事一覧

存在すら知らなかった本を買う

存在すら知らなかった本を買う

先日、書店で本を買いました。仕事などで時間が見つけられず、久しぶりの来店、まとめ買い。SNSや新聞広告を通じて以前から「狙っていた」本を買うつもりが、ついつい違う本にも手を出してしまう。中には存在すら知らなかった本もありました。

たとえば、井奥陽子さんの『近代美学入門』(ちくま新書)。美術入門ではなく、美学入門というのに惹かれました。新書の新刊のようで、面陳列(表紙を前にする形での陳列)で店頭で

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リンゴはリンゴになればいいーミニ読書感想『777』(伊坂幸太郎さん)

リンゴはリンゴになればいいーミニ読書感想『777』(伊坂幸太郎さん)

伊坂幸太郎さんの最新長編『777』(KADOKAWA)が面白かったです。殺し屋が主人公で、他にも殺し屋がたくさん登場する「殺し屋シリーズ」の最新作。ぶっ飛んだ設定なのに、真面目で優しいメッセージが忍び込ませているのが心憎い。今回は「リンゴはリンゴになればいい」でした。

直接つながる作品は『マリアビートル』で、その作品で登場した「天道虫」というコードネームの殺し屋が主人公(マリアビートルは天道虫の

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システム化という強みーミニ読書感想『ザ・パターン・シーカー』(サイモン・バロン=コーエンさん)

システム化という強みーミニ読書感想『ザ・パターン・シーカー』(サイモン・バロン=コーエンさん)

ASD者(自閉症者)の支援に長らく取り組んできた心理学者サイモン・バロン=コーエンさんの『ザ・パターン・シーカー』(篠田里佐さん訳、2022年11月29日初版、化学同人社)が学びになりました。ASDに特有のパターンを好む思考を「システム化メカニズム」と定義し、人類のさまざまな発明に寄与したと説く。ASD者やその家族へのエールと、社会変革を求めるメッセージが込められていました。

システム化メカニズ

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私が去った後もどうか生きてーミニ読書感想『きのうのオレンジ』(藤岡陽子さん)

私が去った後もどうか生きてーミニ読書感想『きのうのオレンジ』(藤岡陽子さん)

藤岡陽子さんの小説『きのうのオレンジ』(集英社文庫、2023年8月30日初版)を読んで、目に涙が溢れました。電車内で読んではいけない。人目を憚らず、泣いてしまいそうになるからです。

本書がこれほど感動的なのは、逆説的に、「感動を誘わない」からです。30歳を過ぎたばかりの若さで、重い病を宣告される主人公。そこから物語は静かに展開して、期待するような救いはありません。かといって過酷な闘病記というわけ

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村上春樹流・物語を愛する方法ーミニ読書感想『若い読者のための短編小説案内』(村上春樹さん)

村上春樹流・物語を愛する方法ーミニ読書感想『若い読者のための短編小説案内』(村上春樹さん)

村上春樹さんの『若い読者のための短編小説案内』(文春文庫、2004年10月10日初版発行)が面白かったです。文字通り、村上さんが若い人におすすめする短編小説を取り上げ、その魅力の味わい方を語る本。いわばハルキ流読書術。村上さんがどのように物語を愛し、血肉にしているかを学べました。

著者の読書へのこだわりが端的に現れているのは、「あとがき」でした。

著者は「真剣に本を読み込むにあたって、常日頃心

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