精神科病院に入院してみた話②

他科での入院と違って精神科での入院は、簡単に言って3つのパターンがある。任意入院、医療保護入院、措置入院だ。私の場合は「任意入院」だった。もはや自宅に居てもどうしようもない、家族も私の扱いに疲れてしまってどうしようもなかった。横になって死ぬ事ばかりを考えていた。ここまで行けば何処に居ようがドン詰まっている。追い詰められた私も家族も、切る最終カードは「入院治療」しかないと、入院出来る精神科病院を紹介して貰ったのだ。だから「自分の意思で入院した側」になるので、形式上は「任意入院」となった。しかし他の患者さんで多かったのは「医療保護入院」のパターン。「本人が入院したい」と考えるのではなく、自傷他傷の恐れがある場合に、精神科医の中でも「精神保健指定医」の資格を持った医者が診察し「要入院治療」と診断して、家族か行政の同意を得られた場合には、そうなるらしい。簡単に言えば「患者本人が望まなくても精神科医が入院が必要だ」と判断すれば、医療保護入院になるそうな。

病棟は「開放病棟」と「閉鎖病棟」があった。「開放病棟」は病棟の出入口が夜になったら締まるというもの。だから基本的に昼間は出入口が開いていて、売店などに行く事も出来るし面会者に会える。「閉鎖病棟」は大体の方が想像しているような病棟で、行く場所場所に鍵がしてある。病院スタッフは腰に鍵の束をジャラジャラさせている。専ら症状が軽い人は解放、重い方は閉鎖のようだった。「保護室」という部屋もあって、そこは独房と変わらないそうだが、症状によっては身体拘束も有り得るそうだ。だから精神科医は「他人様の人権の領域にどうしても立ち入る場合がある」ので、我々が思うよりも責任が重いのだ。私は「開放病棟」の個室に落ち着いた。

私の当面の入院目標が決まった。それは「休息に務める」、分かるようで分からない。やはり主治医へ訊いてみた。「先生、私は一体何をしたら良いんでしょう?」

「倉田さんはねぇ。ゆっくりしてれば良いんです。私は毎朝回診へ来ます。別に起きなくても良いんです。朝起きるのがキツイなら寝てて下さい。」

うつの症状には不眠がセットになる。夜眠れないのもあるが、妙に朝早く起きてしまうのもある。それを精神科では「早朝覚醒」という。

入院して数日だったか、早朝4時に目が覚めた。早朝覚醒である。二度寝する眠気が来ない。部屋でモゾモゾしていると病棟の廊下を、誰かがスーッと横切る気配が。同じ病棟に入院する初老の御婦人だった。入院する部屋の廊下の先にはホールがある。

「アンタも起きたんかい?」「はい 目が覚めちゃいました。」

ニヤッとした御婦人、「アンタのコップ、持っといで。」

部屋からコップを持ってくると、インスタントコーヒーの粉を御婦人は瓶ごと取り出して2人分、作り始めた。モーニングコーヒーである。

真っ暗なホールで2人でモーニングコーヒーを、気付かれないように飲み始めた。静かに話し始める。ベテラン?と言って良いか分からないが、入院も何度目かの方らしい。「体調が悪くなってね、また戻って来ちゃったよ。」

病棟内の「暗黙の了解」で「お互いの病気に関しては訊かない」というのがあった。だから御婦人がどんな症状なのかは分からない。でも有難くそのコーヒーを啜っていた。すると・・・

「倉田さん!●●さん!何やってるの!早く部屋に戻って休んで下さい!」

夜勤スタッフから怒号が。我々はソソクサと病室へ戻って行った。

その数時間後に主治医がスタッフを従えて、回診で病室へやって来た。

「倉田さん、おはようございます!よく眠れてます?あ、モーニングコーヒーは今はダメですよ!」

「はぁい」私はベッドシーツに隠れて、弱々しく返事するしか出来なかった。・・・当たり前だが、やっぱりバレていたか!と。

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