【感想】「あのプロ野球選手の少年時代」
みんな小学生時代から化け物だったわけじゃない!(鈴木誠也は除きます)
日本を代表する6選手、秋山翔吾、前田健太、柳田悠岐、菅野智之、山崎康晃、鈴木誠也の小・中学時代はどんな野球少年だったのか? 当時の監督、コーチ、チームメイトなどから証言を集めた1冊が『あのプロ野球選手の少年時代』(花田雪/宝島社)だ。ちなみに証言だけでなく秋山、柳田、山崎の本人インタビューも収録されています。
年俸を合わせるとおそらく30億円を超えるであろう、今をときめく6選手。さぞや小学生時代から「化け物」と呼ばれ地元でも評判の存在だったのだろうと思っていましたが、それに該当するのは鈴木誠也くらいでした。秋山はソフトボールチームでキャッチャーを務め、柳田は今の体躯に成長する姿が想像もつかないような小柄な先頭打者、山崎はボールがバックネットに突き刺さるほどのノーコンだったそうです。
そんな選手たちが後にドラフト指名され、球界を代表する選手になるのですから、子どもの持つポテンシャルは分からないものです。
個人的に一番オススメしたいエピソードがあります。それは秋山のインタビューの章で語られているお父さんに買ってもらった重たいバットの話です。小学生の男の子のがお父さんとの約束を守れず、父を欺いたことを後悔し、自分の弱さと向き合い、それを糧として前に進むというとてもいい話しです。これは秋山翔吾版『君たちはどう生きるか』だと思いました。ぜひ『翔吾くんと重たいバット」というタイトルで絵本にして全国の野球少年たちに読んでもらいたいくらいです。このエピソードを読むだけでも1500円払ってこの本を読む価値があると思います。
柳田のインタビューも多くの少年野球関係者に読んでもらいたい内容でした。
「体は自然に大きくなってきて技術も身につくようになる。好きで続けていけば勝手に上手くなる」
「少年野球で一番大切なのは、子ども達を笑顔にすること。いかに楽しめる環境を大人が作るか。教えるよりサポートするくらいの方が少年野球には合っていると思う」
「野球が楽しければ自然と上手くなりたくなる。そうすれば勝手にいろいろ聞いてくると思う。教えるのはその時でいい」
インタビューの内容がそのまま「柳田流・少年野球指導論」として書籍化して全国の少年野球指導者たちに配布してもいいくらいです。言い方はぶっきら棒ながら現在の少年野球指導における課題、問題点の本質をついており、野球人口の低下という問題に柳田なりにしっかりと向き合っているように思えました。グラウンドで見せる野性味とは別の一面に店主の心は鷲掴みされました。
鈴木誠也の章は2019年の野球書店大賞受賞作である『止めたバットでツーベース』(村瀬秀信/双葉社)という野球短編集の中の一つ、『町屋の誠也』と合わせて読むと面白さが倍増します。
「リトル時代はとにかく楽しかったです。シニアでは石墳さん(←恩師)に鉄パイプで殴られた記憶しかありません(笑)」という、後輩たちの卒団式での挨拶には笑ってしまいました。
6選手のファンはもちろん、お子さんが少年野球をやっているお父さん、お母さん、そして少年野球の指導者の皆さんにもぜひ読んでもらいたいです。読み物としても少年野球の指導論として読んでも面白い一冊です。
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