翔んで埼玉、見たよ

『廃藩置県の際、武蔵国から都市機能の集まった地域（東京）、港のある地域（神奈川）が独立し、残った余りものこそが埼玉なのである！』のナレーションから始まる、トンデモ設定を勢いで押し切るタイプの映画。

あらすじ

作中の埼玉県はアフリカめいた未開の地であり、東京には"バブル期のヴェルサイユ宮殿"とでも言うべき貴族がいる（……実際のアフリカは私のイメージほど未開ではないと思うけど）。そして埼玉県人が東京都へ渡るには通行手形が必要で、持っていない者は特殊警察によって逮捕・送還される。

東京貴族のための学校で生徒会長（美少年系のイケメン）が編入生（上品だけど威迫があるイケメン）に恋をするのだが、実は編入生は埼玉からの刺客で……、結局そのことがバレて、彼らは千葉と茨城を経由して埼玉へ一時撤退することになる。（作中では千葉も茨城もおぞましい未開の地だ）

果たして二人の運命やいかに……！

BL要素（キスまで）があるので、苦手な人は注意。

感想（とても面白かった）

これが地域差別を扱ったエンタメだということに、鑑賞者のどのくらいが気づけているんだろうか。とても気になる。

「特定の地域の出身者は首都に入ることすら許されない」といった設定もさることながら、作中で"文化レベルの低さ"を誇張して描いていることや、地域差別を笑いの種にするコンセプトで映画全体が作られていること自体まで含めて、原理的な話をするなら「これがヘイトスピーチでなければ何なんだ？」ってくらいの作品だ。

「埼玉には何もないけど、誇りだけは持っていよう！」という作中の言葉も、これがエンタメ映画だということと相性が悪い。
これを見て無邪気に「あ～面白かった」と言えるのは誇りがない埼玉県民の証左に他ならないし、メッセージに共感するなら「東京都民の首を刎ねろ！！」と叫ばなければならない。（……平然と"都民ファースト"を掲げるのは、どう考えても46道府県をコケにしすぎているし、もしこれが"白人ファースト"とか"〇〇族ファースト"とかなら政治家の暗殺もやむなしでしょ）

◆ここから先は邪推◆
この映画に埼玉県民が怒らないのは、それは東京に近い自分達は他の地域よりも上位だと自認しているからじゃないのか？　作中の神奈川県（東京と組んでる悪いヤツだ）と同レベルじゃない？
◆ここまで邪推◆

泉南生まれ京都住みの私がこれほど憎悪と葛藤してるのに、関東民が無邪気にこの映画を見ているのだとしたら、やっぱり腹が立つな……。

（映画はとても面白かった）