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Sunano Radioの詩。
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2019年3月の記事一覧

団子柄のワンピース

団子柄のワンピース

昨日のこと。

随分前に別れた恋人と久しぶりに連絡をとり、ランチを一緒に食べるという約束をしたので待ち合わせの白金高輪駅にいた。

太陽が "ぷるぷる" と揺れていて、暖かく過ごしやすい日だった。太陽は地上からおよそ3メートルの高さに浮いていて、身長170センチのわたしでも頑張れば手が届きそうだった。くっきりとした緑色で、表面を金色のうぶ毛に覆われていた。太陽の下に立つと、ぽかぽかと顔のあたり

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真実

目が覚めてからもうずいぶん時間が経つのに、わたしはまだベッドで白い天井を見上げている。視力がよわいので、天井に付いている火災報知器がただの黒い点のように見える。でも、あれは火災報知器なのだ。
それは真実だ。もしあなたが疑うのならば、枕元にあるメガネをかけて確かめてもいい。もしあなたがそれを望むのならば。

“真実”

彼女の顔には、パーツがひとつとして付いていなかった。
目も、鼻も、口もなかった。

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インスタント



1.

起きたらまず、珈琲を飲む。
インスタントの珈琲だ。

美味しくはないけれど、珈琲には違いない。村上春樹がよく「新聞紙を煮詰めたような」とか「雑巾の絞り汁のような」と現すのでわたしは毎度、鍋でぐつぐつと煮詰められた新聞紙と、廊下の隅々まで拭き掃除してぼろぼろになった雑巾を想像しながら珈琲を飲む。

当然だけど、喫茶店のドリップコーヒーやカフェのフレンチプレスのような幸福感はない。でも

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茶日の詩



・・・

ふわり 茶日で
ふわり
くすんだ白のコンクリート壁
だれかの皮膚のように
触れると
手のひらにひたりと
馴染んだ木のテーブル

・海老とピスタチオのペンネ
・とっぷりとした珈琲

夕焼けを
ちいさなつぶに
閉じ込めて
均等に並べたような
暖かい照明

・ごろごろした優しい牛肉のポトフ
・黄金色のグラスビール

ふわり 茶日で
ふわり
特別な響で流れるいつもの音楽

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自己弁論



・・・

とうきょうの夜空にむけて意識をゆっくりと飛ばす。低気圧で頭が痛み、ずきずき と脈打つ音がする。生きているなぁ、などと思う。

あなたもいま、生きているのだろうか。

お互いの命を擦り減らしたあの日々が、あなたの宇宙でひとつでも優しい何かとして存在しているといい。

出会い頭であなたの白い指がわたしの冷たい指と交わるとき、わたしはほとんど泣いていた。

灰色のちぎれた雲が暗空に

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やがて消える



・・・

アルコールみたいに時間が経ったらあなたの記憶から流れて消えてほしい。そんな目で「おかえり」と言わないでほしい。きょうもあしたもこの場所に変わらず帰ってくるなどと決して思わないでほしい。行きの電車で読んで帰りの電車でストーリーを忘れてしまう短編小説みたいに朧気な存在がいい。

通り過ぎていく。きょうも誰かの脳を、胸を、風みたいに通り過ぎていく。あしたはひとりになる。透明になって死ん

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