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Sunano Radioの詩。
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でも、さようなら

でも、さようなら

哀しみはさっきよりはっきりと増していて、嫌な思い出を辿るときみたいに足どりはずっしりと重たくなる。返事に窮するときの喉の痛みはとても子供じみていると思う。だからわたしは余計に悔しくて哀しくなる。

"男"がわたしを呼ぶ声がする。
よく聴き馴染んだ、懐かしくて好きだった声。
ドンドン、とドアを叩く音も聴こえる。

涙がでたときの瞬きは熱い。
眼球の痛みも喉の痛みも"男"にはおそらく伝わらない。言葉は

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おやすみ

おやすみ

わたしが味方するのは
今日のような夜に「おやすみ」が
欲しいからかもしれない
くびれよりも乳輪よりも頬よりも
優しい「おやすみ」が癖になっている

あなたのあごを触る仕草が愛おしい
あなたの髪を整える仕草が愛おしい

あなたの不在は身体の芯から安心できて
          消えてしまいたくなる

「愛してる」を言うのは難しい
わたしはその感覚をまだ知らない
依存の低い関わりを深めてい

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老犬のまなざし

老犬のまなざし

あすにも
消えてしまいそうな
老犬の
小さな手に
まだまだ生きるつもりの
わたしの
手を添える

老犬は
穏やかなまなざしで
わたしの
存在を
感じている

不揃いなふたりの呼吸と
頬をかすめる12月の冷気が
朧げな不安を誘う

「いつでもおいで」

老犬は
耳だけをわずかに
ぴくっと動かす
「自由になったらわたしの中に
いつでも遊びにおいで」

老犬はひっそりと笑う
全てを見

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明日が消えてなくなるまで

明日が消えてなくなるまで

呼吸を整える。

知らない誰かの知らない音楽を聴いていたらいつのまにか窓から朝日が刺していた。少しだけ悩んでから手のひらに光を当てる。異様なまでに美しい光をわたしはいつも恐れてしまう。暗い優しい夜がもっとずっと続けばいいのに。

明日が消えて亡くなるまで。
あなたを認識できなくなる日まで。

お湯みたいに柔らかい肌を思いだしたら呼吸を止めて泣きたくなる。インターネットのように冷たい指先を自分の

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どうもありがとう

どうもありがとう

まっすぐ眼を見て
話してくれるから好きだ
犬みたいに黒目がちな眼球が愛おしい
えぐりとって冷凍庫で保存したいくらい
ぼくのどうしようもないことを
受けとめようとしてくれて
いつも神妙な顔を作ってくれて
どうもありがとう
#詩

透明な女

透明な女

冷たい石のような悲しみが弾けて飛んで、わたしは宇宙になる。透明な女は「返して」と言う。なにを返してほしいのかわからず黙っていると「黙っているのはずるい」と言う。
_______ わたしはこの場を乗り切れる、いちばん"ずるく"見えない手段と言葉を探す。透明な女は悔しそうに唇を噛んでいる。

_______ ワインが飲みたい。ワインも言葉も喉の奥々まで飲み込んでどこに逃げるつもりなのか。______

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この星の小さな砂として

この星の小さな砂として

"時は流れて
誰もが空気に帰って
残業も不倫も蕁麻疹も消えて

砕かれた白骨だけが
この星の小さな砂として
しばらく残ります"

この未来を
保証してあげる
#詩

青い血

青い血

左の手首を搔き毟るのは、決まって朝の4時を過ぎたあたりだ。窓の外が少しずつ白んで、小さな鳥がさえずる声が聴こえる。

いつも半分夢の中にいる。ごりごり地鳴りのような響きに恐る恐る目を開くと、血まみれの左手がそこにある。からだは小刻みに痙攣していて、呼吸は荒い。憎き右の5つの爪は、まだ左の手首を攻撃している。痛みと快楽と苛立ちで脳は混乱し尽くしている。シーツはところどころ赤や黒に染まり、濃い鉄の匂い

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ぷっくり太ったさんまと「Yokozuna_A5」

ぷっくり太ったさんまと「Yokozuna_A5」

<午前7時30分>

昨日だらだらしていて夕食を食べていなかったので、夕食分のご飯を朝に食べる。お腹は空いているけれど頭はまだ半分寝ている。ぷっくり太ったさんまの身を箸でほぐしながら、いつか人間も巨大生物に捕食されることになるかもしれないと想像する。

・・・・・

彼らはきっとゴジラくらい大きくて、知能が人間の5000000000倍くらい発達している。あっという間に人間が創ってきた文明は乗っ取ら

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団子柄のワンピース

団子柄のワンピース

昨日のこと。

随分前に別れた恋人と久しぶりに連絡をとり、ランチを一緒に食べるという約束をしたので待ち合わせの白金高輪駅にいた。

太陽が "ぷるぷる" と揺れていて、暖かく過ごしやすい日だった。太陽は地上からおよそ3メートルの高さに浮いていて、身長170センチのわたしでも頑張れば手が届きそうだった。くっきりとした緑色で、表面を金色のうぶ毛に覆われていた。太陽の下に立つと、ぽかぽかと顔のあたり

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やさしさとは

やさしさとは

こんばんは。Sunano Radioです。

今日は起きてから、きのう書いた詩(砂を飲む)の手直しをしただけで、ずっと、ぼーっとしてました。こんなにぼーっとするのなら乃木坂46の7thバースデーライブの生配信を観ればよかったのだけど、ぼーっとしすぎてその発想にすら至らなかった。

・・・

「砂を飲む」ですが、たまにこういう危険な人間性のひとが主人公の詩を書いてしまいます。自分の性格の中の、

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詩と写真と 2

詩と写真と 2

昨日上のように書いたのだけど、やっぱり写真は好きです。「一瞬を切り取る」という意味で、写真と詩は性質がよく似ています。だから私は写真詩に魅力を感じるのだと思う。

・・

写真詩には難しいところもあります。donorをやってみて気づいたことは「写真は写真だけで世界が完結している」という当たり前のことでした。完結しているということは、そこに詩を加えることが「蛇足」になってしまう可能性があるわけで

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詩と写真と

詩と写真と

私は写真詩が好きです。
絵本みたいで。ページをめくるのが楽しい。
ちいさな物語詩だとより楽しい。

以前、donor(ドナー)という写真詩のプロジェクトをやったことがあって、私は今でもdonorで書いた写真詩をわりと気に入っているのだけど、また写真と詩で何かやりたいなぁ、とぼんやり考えています。

でも、いくつか問題があって、いちばん大きいのは「自分で詩に相応しい写真を撮れない」というところです

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【詩】夜の優しさ - リマスター

【詩】夜の優しさ - リマスター

夜が朝に消されていく。
彼女は悲しさを簡単に手放したりはしない。夜が終わって朝が来ることを、毎朝しっかりと悲しむのだ。彼女は毛布にくるまって、テレビの天気予報を見ている。"今日はお昼頃までは不安定な天候です" なるほど、いま降っていなければ傘を持つ必要はない。彼女はベッドから起きあがり、カーテンと窓をそれぞれ15cmだけ開ける。夜の空気が外に漏れないように。朝日で部屋が埋め尽くされないように。窓か

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