インスタント

1.

起きたらまず、珈琲を飲む。
インスタントの珈琲だ。

美味しくはないけれど、珈琲には違いない。村上春樹がよく「新聞紙を煮詰めたような」とか「雑巾の絞り汁のような」と現すのでわたしは毎度、鍋でぐつぐつと煮詰められた新聞紙と、廊下の隅々まで拭き掃除してぼろぼろになった雑巾を想像しながら珈琲を飲む。

当然だけど、喫茶店のドリップコーヒーやカフェのフレンチプレスのような幸福感はない。でも、同時にわたしはこの不味い珈琲を愛している。生きているという感じがする。

- 愛している
- インスタントの珈琲
- 味は新聞紙、あるいは雑巾
- 生きているという感じ

どうして生きているのだろう。


2.

着替えたら、音楽を聴く。
イヤホンで聴く。

いつも違和感は突然にやってくる。
まず左耳に違和感。カッティングが聴こえない気がする。わたしはイヤホンを外して耳をぽんぽんと叩いてみる。期待した通りに、ぽんぽんと鳴る。ということはイヤホンに問題があるのだ。線をこねくりまわしてみたら、一瞬だけ聴こえた。
そう、この曲はカッティングが肝なのだ。
しばらくしたらまた消える。

イヤホンを外してテーブルに乗せて眺めてみる。あんなに親密だったのに、もう他人のようだ。わたしは今日にでも電器屋で新しいイヤホンを買うだろう。イヤホンは「燃えないゴミ」になる。以前も調べたから知っている。死んでいるという感じがする。

最後にもう一度だけ耳に入れてみる。
もうどちらの耳からも聴こえない。

- あんなに親密だった
- どちらの耳からも聴こえない
- 「燃えないゴミ」
- 死んでいるという感じ

どうして死んでしまうのだろう。
どうして死んでしまうのだろう。



#詩 #Poem

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