ノンフィクション+ドキュメンタリー映画のコンボで歴史を紐解く!
とっておきの映画鑑賞方法をご紹介します。ノンフィクション映画とドキュメンタリー映画、このコンボです。扱われている人物・事件、有名・無名とそのジャンルは様々ですが、同じ題材について描いている2本の映画の組み合わせが、実は少なくありません。
ノンフィクション映画としてビジュアルイメージや物語を享受し、ドキュメンタリー映画で実際の映像や当事者の証言から情報を補完する。こんな贅沢な鑑賞方法はありません。
今回は、そんなノンフィクション映画+ドキュメンタリー映画でコンボを決めて、その人物・事件における歴史の理解を深めちゃおうぜ、という二石三鳥な組み合わせをご紹介いたします。
①アメリカ対テロ戦争
2001年のアメリカ同時多発テロ事件、その首謀者として知られる人物、ウサマ・ビン・ラディン暗殺作戦の舞台裏を描いた映画です。1つ目からもう重めですね…すみません。
『ゼロ・ダーク・サーティ』は、厳密に言うとノンフィクションではなく、「これは当事者の証言に基づく物語である」という案内から始まる通り、劇中で起きる事件の時系列や詳細についてはほぼ史実通りですが、登場人物はモデルこそいるものの、架空のキャラクターとなっています。
これは、ドキュメンタリーである『ビンラディン殺害計画の全貌』での証言者も、半数くらいが顔を隠していることからも分かるように、顔と実名を出すことが命の危険を伴う行為であるからだと考えられます。(まぁ、アメリカの軍事作戦の話なので、あくまで発表されている情報ベース、プロパガンダの香りもするし、オトナの事情の可能性も否定できません。)
そしてこの2作は、誰目線なのか、というのが大きく異なるポイント。『ゼロ・ダーク・サーティ』は、主人公がCIAパキスタン支局に勤める分析官、つまり現場の人間視点の作品なのに対して、『ビンラディン殺害計画の全貌』は、当時のオバマ大統領など政権中枢のメンバーの証言もあり、国家としてこのように作戦を遂行した、という風に見せる構成になっています。
どちらの映画も、ビンラディンが潜んでいると思われる屋敷を発見し、そこへの突入作戦が終盤のクライマックス。ドキュメンタリーでは外交的なリスクを発生させないために、どのヘリで、どんな作戦で、どんなチームで、有事の際のプランBなど、様々なケースに備えた準備を、オバマ元大統領の最終承認で事細かく決めていく様子が見られます。
『ゼロ・ダーク・サーティ』で上記の計画立案のくだりは描かれませんが、ドキュメンタリーを観た後で、作戦の様子を映像で体験すると、迫力と緊張感がケタ違いです。まさにコンボを決めるべきセットと言えるでしょう。
オススメ鑑賞順:ドキュメンタリー▶ノンフィクション
②セックス・ピストルズ
セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスを語る上で必ず話題に上がるのが「彼は本当に最愛の人であるナンシーを殺したのか?」という疑問。
当時の友人や関係者の証言から、その殺人事件における情報の整理+シドを回顧しているのが『SAD VACATION』、二人の馴れ初めから事件までをなぞった薬物過剰摂取系ラブストーリーが『シド・アンド・ナンシー』、後者は名優ゲイリー・オールドマンのデビュー作としても有名です。
このセットを選んだのは、同じ題材なのに、全く違うスタンスで描かれているのが興味深いと思ったからです。『シド・アンド・ナンシー』は、2人仲良く闇堕ちしていくのでどっちもどっちに見えますが、『SAD VACATION』では、もう、とにかく、ナンシーが悪者扱い。
「ナンシーのせいでシドは落ちぶれた」「シドにゃあ、”ヴィシャス(悪徳)”というあだ名は似合わねぇ」といった証言ばかりです。実際どうだったかはさておき、ドキュメンタリーで証言をしている当時の2人の取り巻きは(おそらくこの映画の製作者も含め)総じてシドの味方だったのでしょう。結果として、これらの映画のテイストは全く違うものになっています。
『SAD VACATION』は、ナンシーの死後、シドも亡くなり、その後のことにも触れているので、物語の「続き」を観られるという意味では、ドキュメンタリーを後に観るのがオススメです。
シドの遺灰をナンシーの墓にかけてやろうぜという事になって、仲間内でフィラデルフィアの墓地に向かう後日談がありますが、その道中、コカインみたくシドの遺灰を鼻から吸った輩もいるという、まさに80年代パンクな逸話です。
オススメ鑑賞順:ノンフィクション▶ドキュメンタリー
③フォックスキャッチャー事件
フォックスキャッチャー事件とは、財閥の相続人であるジョン・デュポンが、自身の設立したレスリングチーム”フォックスキャッチャー”において、コーチを務めていたレスリングの金メダリスト、デイヴ・シュルツを射殺した1996年の殺人事件です。
主要な登場人物は3人。ジョン・デュポン、殺害されたデイヴ・シュルツ、そしてデイヴの弟のマーク・シュルツです。『フォックスキャッチャー』は、マークの自伝からの引用も多くある為、”デュポン”にスカウトされた”マーク”に加え、後からチームに合流した偉大なる兄”デイヴ”という3人の関係性を、マークの視点から見るという構成になっています。
一方、ドキュメンタリーは「事件の裏側」というタイトルの通り、如何にしてデュポンが正気を失い殺人に至ったかという背景と、デイヴがいかに選手としても人間としても優れた存在だったかを語るに終始しており、弟のマークはほとんど登場しません。というか全く登場しません。
弟マークが製作にも携わった2014年公開のノンフィクション映画は、主役もマーク。にも関わらず、その2年後に公開されたドキュメンタリー映画には、殺害されたデイヴの奥さんがプロデューサーに名を連ね、その作品にはマークは出てこず、まるでいなかったかの様な扱い。
”弟”と”嫁”、その関係性については、どちらの映画でも多くは語られませんが、上記の事実が、映画で描かれている以外の事も示唆している気がしてなりません。
『フォックスキャッチャー』は物語性を重視しているので、若干ですが史実とは違う部分もあります。(例えば、ジョン・デュポンはデイヴに発砲した後、映画ではすぐに捕まりますが、実際には2日間も自宅に籠城していた、など。)そしてマークの心理変化は細かく描かれますが、デュポンの心理や犯行動機の部分は、深く追及されません。
なので大筋をノンフィクションで把握しておき、なぜ彼は犯行に走ったのか、という背景やより詳細な情報をドキュメンタリーで補う、という見方がより理解しやすいかもしれません。
オススメ鑑賞順:ノンフィクション▶ドキュメンタリー
④スティーブ・ジョブズ
話題に事欠かない人物という事もあり、ジョブズに関する作品は、伝記映画もドキュメンタリーも沢山あります。全部を…!と言いたいところですが、是非コンボを決めていただきたい作品をピックアップしました。
ドキュメンタリー『スティーブ・ジョブズ 知られざる男の正体』は、ボブ・ディランの音楽が流れ、ジョブズの訃報を受けて世界中が哀悼の意を捧げるシーンを背景に「なぜ彼の製品はこれ程までに愛されるのか?」という問いかけから始まります。
そして彼が仕事に情熱を注いだことでどれだけ多くの人を傷つけたか、それと引き換えに得られた栄光、世界にまで及ぼしたその影響について、良いところにも悪いところにも触れています。ある程度、網羅し整理するにはこの1本が最適です。
ノンフィクションとしては”ダニー・ボイル版”『スティーブ・ジョブズ』をオススメします。この映画は単に彼の生涯を追った伝記モノではなく、1984年のMacintosh、Appleを追放された後の1988年NeXT Cube、そしてAppleに復帰後1998年のiMac、この3つの新作発表会の舞台裏を通して彼の素顔を浮き彫りにしている作品です。
回想シーンで様々な場面には飛ぶものの、基本的にはずっと舞台裏。それでいて彼の物語と人間性を表現できるのは、もうとにかく脚本と編集が素晴らしいからです。
ドキュメンタリーで変遷を知り、ターニングポイントとなった3つの重要な新作発表会を、卓越した脚本と編集で物語として楽しむ。これだけでも激推しコンボなのですが…ジョブズについては更なる追加オプションのご紹介。
PIXAR <ピクサー> 世界一のアニメーション企業の今まで語られなかったお金の話
というのも、ジョブズがAppleを事実上追放されてから、復帰するまでの約10年間について触れたコンテンツというのが、実は多くありません。彼はその間に、ルーカスフィルムのCG部門を買収し、ピクサー・アニメーション・スタジオを設立しています。
まだ世に出る前の『トイ・ストーリー』開発、公開に向けたディズニーとの契約内容についての交渉、上場へ向けた主幹事会社との折衝、そしてディズニーよる買収。
この書籍は、そんなピクサーの黎明期から大成功を収めるまでジョブズと共に働いた、ピクサーの最高財務責任者ローレンス・レビーによって書かれたものです。
Appleにおけるよく知る部分の深掘りと、あまり知られていないPIXARにおける新発見。知的好奇心の痒い所に手が届く組み合わせです。
オススメ鑑賞順:ドキュメンタリー▶ノンフィクション▶書籍
⑤ダイアナ元妃
2022年10月現在、こちらの映画は2本とも絶賛劇場公開中です。ご都合が合う方は、是非とも映画館で…!
『プリンセス・ダイアナ』は、ドキュメンタリーには珍しいナレーションが全く無い映画で、当時のメディアの映像や一般の方々が撮影したものなどをパズルのように組み合わせて、ダイアナ元妃がチャールズ皇太子(現国王)と結婚してから亡くなるまでを描いています。
当時のダイアナ元妃は19歳。どれだけ絶大な人気だったか、今改めて映像で見ると衝撃的です。夫婦で歩いていても、子供たちはチャールズ皇太子の前を素通りしダイアナ元妃に近寄る始末。そのあまりの人気ぶりと、過剰に加熱するメディア、そして味方であるはずのロイヤルファミリーとの確執を、当時の実際の映像で確認できます。
そして『スペンサー ダイアナの決意』も、厳密に言うとノンフィクション映画ではありません。1991年のクリスマスに、ファミリーでエリザベス女王の私邸に集まった3日間で、ついにチャールズ皇太子との離婚を決意するまでを描いた劇映画です。当時のシェフや衣装担当にインタビューし、所々のエピソードや元妃の様子は分かっているものの、基本的に王室内で何が起きていたかは門外不出。「おそらくこうだったであろう」を描いた作品です。
ただ「本当にこんな感じだったんだろうな」と思わせる力が、この映画にはあります。宮殿内の美しい装飾や、衣装協力したシャネルのドレスなど、視覚的な魅力に加えて、方言指導者の協力によって今まで使ったことのない筋肉を使い発音できるようになったという、主演クリステン・スチュワートのイギリス訛り。
英語に疎い私でも、ドキュメンタリーでダイアナ元妃の喋りをたくさん観ていたおかげもあって、話し方が本人にかなり似ているという事を認識できました。これぞコンボで観る醍醐味です。
『スペンサー』でのダイアナ元妃は、観ていてつらいシーンも多々ありますが、それこそ劇中の彼女の心情をイメージするのに、やはりどれほどのストレスが彼女にかかっていたのかを少しでも知っておく事が役に立ちます。
オススメ鑑賞順:ドキュメンタリー▶ノンフィクション
ダイアナ元妃の事故後に、なかなか公の場で発言のなかったエリザベス女王に対し、当時のブレア英首相がダイアナ元妃の死を悼む言葉の発表をするよう助言をし、女王がそれに納得するまでを描いた『クィーン』という映画もあります。町山智浩さんのオススメ。ちなみに私は未見ですし観たい。ああ、忙しい忙しい…
おわりに
今回ご紹介した映画は、公開中のダイアナ元妃の2作以外は、Amazon prime(有料レンタル含む)やNetflixで観られるものをピックアップしています。それぞれの画像の下にある映画タイトルがテキストリンクになっていますので、興味を持たれた方はぜひ鑑賞してみて下さい。
ホントはもっと紹介したかったのですが、すでに字数がめっちゃ多いのと、5セットでキリが良かったので以上としました。最後まで入れるか悩んでた「スノーデン」関連の2作も画像だけ貼っておきます。せっかくコラージュしたし。
最後まで読んでいただきありがとうございました。他にノンフィクションとドキュメンタリーの面白いコンボをご存知の方がいましたら、ぜひコメント欄で教えていただけると嬉しいです!ではまた次回!
最後までお読みいただき本当にありがとうございます。面白い記事が書けるよう精進します。 最後まで読んだついでに「スキ」お願いします!