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「分節化」という素晴らしい能力『才能をひらく編集工学』【無料公開#7】

8月28日発売の『才能をひらく編集工学』より、本文の一部を無料公開します。「編集工学」とはなにか、「編集工学」におけるものの見方・考え方を知ることができる第1章「編集工学とは?」と第2章「世界と自分を結びなおすアプローチ」を公開予定です。今回は第2章アプローチ01より一部を公開いたします。

「分節化」という素晴らしい能力

この「分節化」という能力によって、どれだけ人間の可能性が開かれているかということは、機械に当てはめて考えてみるとよくわかります。

「分ける」ことひとつをとっても、機械にとっては途方もない難問なのです。

たとえば、お手伝いロボットに「ケーキを食べさせて」とお願いしたとします。

ロボットに「ケーキはお皿に乗っているもの」という知識や経験の土台がないと、お皿ごと、ともすればテーブルごと、口につっこまれることになる。

今しようとしている事柄に「関係のあることだけを選び出す」、つまりは適切に「分ける」ことそのものが、機械にとっては相当に難しいのです。

言葉や概念の定義のみならず、それがどのような意味のフレームを持っていて、どういった関係性の中に置かれているかということを一度に処理できなければ、ケーキとお皿を分けて考えることはできません。

いわゆる「フレーム問題」や「シンボル・グラウンディング問題」と呼ばれるもので、人工知能の難問とされています。

人間はこの「分ける」能力を起点にしながら、周囲を絶え間なく流れる大量の情報をいい塩梅に編集して秩序を保ってきました。

こうしてわたしたちは、分節化した情報をある程度のかたまりにして理解しています。

心理学者のジョージ・ミラー(1920-2012)は、それを「チャンク」と名付けました。

ある認知の「まとまり」のことを言います。

語学学習で単語ではなく、必要最小限の単語のかたまりで覚えることを「チャンクで覚える」などと言いますが、あの「意味のまとまり」のことです。

たとえば電話番号は3〜4桁で区切るし、住所なら丁目や番地や号といった情報クラスターを持っています。

このチャンクを自在に区切り直すことが、編集力を発動していく最初の一歩になります。

上述の「タスクの細分化」は、仕事におけるチャンクを自分の手元で自在に編集する、ということなのです。

見渡してみれば、世の中はすでに誰かが区切った跡の組み合わせでつくられています。

会社の部署、商品の分類ラベル、国語・算数・理科・社会といった科目、バラエティやニュースといったジャンル。

そこに違う見方を持ち込むことで、新たな区切りや意味のまとまりが生まれていきます。

わけるとわかる編集力は、与えられた世界を取り扱うためだけのものではありません。

新しい世界を目前に立ち上げる生成の道具でもあるのです。

まずは、分節化する自由はいつでも自分の側にあるということを思い出すことから、編集の冒険を始めましょう。


著者プロフィール

安藤昭子(あんどうあきこ)

編集工学研究所・専務取締役。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、「イシス編集学校」にて松岡正剛に師事、「編集」の意味を大幅に捉え直す。これがきっかけとなり、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、共創型組織開発支援プログラム「Quest Link」のコアメソッドとして企業や学校に展開中。次世代リーダー育成塾「Hyper-Editing Platform[AIDA]」プロデューサー。共著に『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング、2020)など。

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