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【スペース対談 書き起こし】渡部陽一さんの新刊『晴れ、そしてミサイル』を語り尽くす!

こんにちは。

今回のnoteは、10/31に渡部陽一さんをお迎えしてX(旧Twitter)で行ったスペース配信の書き起こしです。

10月に発売された著書、『晴れ、そしてミサイル』についてお伺いしながら、戦場カメラマンの実情など、幅広い疑問について渡部さんご本人に答えていただきました。

当日リアルタイムでご参加されなかった方も、こちらのnoteで渡部さんのトークをお楽しみください!

※スペースの音声を編集したものになります。細かな表現には修正を加えておりますので、ご了承ください。


登壇者
伊東:『晴れ、そしてミサイル』編集担当
渡部陽一さん:
1972年、静岡県生まれ。明治学院大学法学部法律学科卒業。学生時代から世界の紛争地域を専門に取材を続ける。戦場の悲劇、そこで暮らす人々の生きた声に耳を傾け、極限の状況に立たされる家族の絆を見据える。イラク戦争では米軍従軍(EMBED)取材を経験。これまでの主な取材地はイラク戦争のほかルワンダ内戦、コソボ紛争、チェチェン紛争、ソマリア内戦、アフガニスタン紛争、コロンビア左翼ゲリラ解放戦線、スーダン・ダルフール紛争、パレスティナ紛争、ロシア・ウクライナ紛争など。


執筆のきっかけ

伊東
「今日はよろしくお願いします!
まず、渡部さんはさまざまなご活動をされていると思いますが、この書籍を執筆するに至ったきっかけや、この書籍を通して伝えたいことについて、お伺いできればと思います。」

渡部
「こちらこそよろしくお願いいたします!
僕は戦場カメラマンとして、世界中の紛争地の最前線に立った時、ひとつ驚いたことがあったんです。それは、激しい戦闘が続いている地域であっても、その前線で、家族や子供たちが、ひとつ屋根の下で普通に繰り返す日常を送っていたことです。

朝起きて、限られた食糧でお父さんやお母さんが子どもたちにご飯をつくったり、お父さんが仕事を探しに行ったり、子どもたちが地雷の埋まっている通学路を歩いたり。

紛争地に立たされた家族の日常というものは、日本の私たちの日常と、決して違わない。それが、前線に立った時に一番驚いたことなんです。

特に、子どもたちが両親に感じている思いや、両親が子どもたちに対して感じている温かい気持ちというものは、普段、日常の日本の中でよく目にするものと変わりませんでした。

日々発信される戦場の残虐な映像が際立ってしまうんですけれど、そうではない家族の日常が戦場の中でも普通に繰り返されていることを、僕はたくさんの人に知ってほしいという思いで、この度言葉の力を使ってお届けさせていただきました。」

伊東
「私も担当編集として関らせていただく中で、日常との地続き感というか、戦場の中でも日常があるというあたりはすごく印象的でした。」

渡部
「紛争地域…例えばパレスチナ自治区ガザの侵攻や、ウクライナ戦争。さらには戦争だけでなく、9月に起こったモロッコの大きな地震など、生活そのものの基盤が壊されてしまう環境の中で、幼い命が一日一日を生き伸びていけるのは、そこに家族や友人がいるからです。限られた食糧、限られた薬、限られた毛布を共有したり分け合ったりしています。

常に家族や友人や地域の人が『一緒に』いること。これが、戦場の中で繰り返される『生きていく一日一日』の大きな支えになっていました。

カメラマンとして悲しみの写真を撮ることもたくさんあります。その半面、戦場の日常というものも目に入ります。どんな家に住んでいるか、どんな服を着ているか、もし赤ちゃんが生まれたら、お湯やおむつはどのように用意しているのか、結婚式が行われた時には、その衣装を誰がどこから持ってきたのか…など。現地の方々の声から見えてくる生活の慣習というものを、今回は書籍の中で具体的にお伝えさせていただきました。」


イラク戦争の戦場で生まれた子ども

戦場での取材の方法と、必要な準備

渡部
「戦場カメラマンという仕事は、紛争地にひとりぼっちでたくさんのカメラをかつぎ、前線に降り立って写真を撮る危ない仕事。そういうイメージがあるかもしれません。

でも実は、戦場カメラマンが、『ひとりぼっちで前線に降り立ち、取材する』ことは絶対にないんです。

イラクでもシリアでもウクライナでも、もちろんパレスチナであっても。紛争地の取材をするときには、必ずガイドさんや通訳の方、もし何かあった時に守ってくれるセキュリティの方がついています。彼らにこれ以上行っては危険だと言われたら、必ずそれに従います。」

伊東
「渡部さんは取材に行くときに、どのような準備をされて向かわれるのでしょうか。」

渡部
「80%は危機管理に時間と資金を使っています。カメラ技術、インタビューの取り方などは残りの20%です。20代の駆け出しのころは、もっと激しい写真を撮りたいという気持ちが強くあり、危険な場所に率先して入っていったりしていました。カメラを没収されるなど、取材が形にならないこともあり、危機管理体制が整っていなかったですね。」

戦場で暮らす人々との交流

渡部
「取材の間、現地では、チームの方々とそのご家族が、外国人である僕をオープンに迎え入れてくれます。ひとつ屋根の下で生活していると、日常の姿をむき出しで見せてくれるんです。

笑うこともある。喜ぶこともある。そして激しく喧嘩することもある。その地域の生活慣習がどんなものであるかが、生活を共にすることではっきり体感できる。これがぼくにとって最大の支えになってきたんです。」

伊東
「取材で訪れる国で、現地の人々と関係を築いていくときに、意識していることはありますか?」

渡部
「必ずリスペクトを持って接するようにしています。敬意を払い、相手のルール、慣習、文化、考え方に寄り添いながら自分の思いを届けることを意識しています。

カメラマン以前に、人間として。温かい気持ちを持ってその地域の人に接していきたいというのが、僕の柱です。」


フェイクニュースとの正しい向き合い方

伊東
「戦争に関するフェイクニュースの多い昨今ですが、フェイクニュースやSNSについてはどのように考えられますか?」

渡部
「兵士と兵士がにらみ合う肉弾戦の戦争というのは今ではほぼなくなってきており、ドローンやAIなど、情報を管理した側が戦争において有利に立つことができます。『情報の戦争』は全世界で見られています

フェイクニュースについては、僕自身は、『自分が心地よくなる情報と出会ったとき、一歩引く』ように気をつけています。自分が心地よくなる情報に囲まれると、他のさまざまな意見が見えなくなってしまいます。

特に、極端にストーリー性やインパクトが強い写真、映像、メッセージには気を付ける必要があります。ウクライナ戦争の時も、まるで戦争映画のような映像が拡散されましたが、それはフェイクニュースでした。『気持ちのいい情報には要注意』です。

危険を感じたら、いったんパソコンを閉じてみたり、外に出てみたりしてみるといいかもしれません。」


なぜ、戦争は起こってしまうのか。また、私たちが普段から平和のためにできることとは?

伊東
「日本に住んでいると、画面上で戦争の映像を見てもどこか遠い世界の出来事のように思えてしまうのですが、戦争が起こってしまうのはどうしてなのか、渡部さんのご意見をいただければと思います。」

渡部
「誰も戦争を望んでいないのに、戦争が起こってしまう原因の一つは、『貧困』です。貧困の中に地域や人々が飲み込まれてしまうと、そこでは武力を使った管理が行われます。そこでは限られた者が武力でものを奪い、奪われた者は貧困を打破するために闘わざるをえなくなります。

また、自分の大切な人が目の前で命を奪われたとき、人間は普段の自分の感覚を失って、そこに落ちている銃で敵に弾を打ち込んでしまうことがあります。そのような『報復』が繰り返されてしまうことも、戦争が終わらない原因の一つです。

それでも、世界中で今も戦いが続いていく中で、少しだけでも相手のことを知ってみる。背景や状況を知ってみる。そうすれば、途端に感情が和らいだり、緊張していた気持ちが温かくなったりすることがあります。

日本でも、日常の暮らしの中で世界とつながっていくことはできると感じています。ガザでもミャンマーでも香港でもウクライナでもニジェールでもブルキナファソでも、自分自身興味があったり、何か触れてみたことがあったりしたら、ジャンルを問わずそこを入口としてみることで、その地域の現状や、考え方や暮らしに触れることができると思います。

激しい映像や写真を見るとどうしても苦しくなってしまいます。その中で自分の好きなことから幅広い情報に触れていくことができるのは、情報社会の良い点だと思います。」

伊東
「平和について考えなきゃいけないというよりも、自分の好きなことが世界に繋がっていく一歩になるということでしょうか?」

渡部
「はい。例えば私は、趣味が魚釣りなんですけど。釣りがあまりに大好きなので、その国の釣り文化に触れることによって、釣りに関わっている人と繋がり、輪が広がっていくことがありました。肩の力を抜いて、リラックスして繋がりを見つけていくことが大切ではないかと思います。」

伊東
「戦争というとなんだか距離があるように感じていたのですが、自分の手の届く範囲の問題であるように思えてきました。渡部さんのお言葉遣いとお声のおかげもあり、とてもリラックスできます。」

渡部
「ありがとうございます。このようなライブで、まるで面と向き合っているかのようにお話ができるのも、デジタル化が進んだおかげですね。僕は昔はフィルムカメラで写真を撮っていましたが、今はデジタルカメラやスマートフォンです。『これは現代的すぎて自分にはできそうもない』と思ったことにこそ、これからも積極的に挑戦してみようと思っています!

皆様、今日は聴いていただき本当にありがとうございます~!」


いかがだったでしょうか。

Xでのライブ配信が初めてだったという渡部さんですが、質問に対してとても丁寧に、分かりやすくお答えいただきました。

今回のnoteでは割愛しましたが、リスナーさんからの質問コーナーもございましたので、気になる方はぜひXにてスペースの録音をお聴きください。


渡部さんが熱意を込めて執筆された新刊、『晴れ、そしてミサイル』の詳細については、こちらから!

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