リモートワーク、副業など…柔軟な働き方をどのように提供するか?『図解 人的資本経営』
生産性向上のためにリモートワークは週何日がベストか?
皆さんは、リモートワークをしたことがありますか?
週1回以上リモートワークをしている人の80.3%が「継続的に行いたい」と思っているようです。また米国の調査ですが、「リモートワークができない場合、転職を検討する」人の割合は、何と47%にのぼります。従業員エンゲージメントを高め離職者を防ぐには、リモートワーク導入は避けては通れなくなってきています。
一方で会社側としては「生産性が下がってしまうのでは」「管理が大変」といったことが頭をよぎり、なかなか悩ましい問題ではないでしょうか。実際、リモートワークの導入によって生じるのが「5つのC問題」です。
ある調査によると、リモートワークが週10〜30時間以下のケースで幸福度と労働生産性が上昇したという分析結果があります。そのため現状は、ハイブリッドワーク(週数日は出社、残りは在宅勤務)という形に落ち着き始めています。しかし、すべての仕事や職場でこれが最適解というわけではありません。
こうした悩ましさは、働く「時間」の柔軟性に関しても同様です。実際、働きたい時間帯や時間数、スケジュール形態について、ニーズが多様化しています。
そうすると、働く時間についても、「どの程度柔軟さを認めていくか」を考えていかなければなりません。
時間・場所の柔軟性は2つの前提+「と・き・め・き・き」で判断する
では、働く場所や時間の柔軟性について、どの程度認めていくべきなのでしょうか? 先行研究を整理した結果、2つの前提+「と・き・め・き・き」で働き方の柔軟性を判断することが良いと考えられます。
まず働く場所や時間の柔軟性を高めるためには、必ず満たすべき条件に以下の2つがあります。
<働く場所や時間の柔軟性を高めるための前提条件>
・作業や手続きのデジタル化・・・紙での作業やハンコの押印など、実物が必要だったり、その場にいる必要があったりする場合は難しい
・コミュニケーションのデジタル化・・・メールやチャット、オンライン会議ツールなど、適時やり取りができる環境がない場合は難しい
もちろん、実務的にはセキュリティ面や労働時間の管理面など考えるべきことはいろいろありますが、ここでは詳細は省きます。まずは大枠でこうした条件をクリアしたうえで、以下に挙げる「と・き・め・き・き」で判断していきます。
最初の2つは、「柔軟な働き方をすべきかどうか」の判断軸です。個人で集中することが重要ならばリモートやフレキシブルな働き方が向いており、協業・コラボレーションが重要ならば出社・固定的な働き方が向いています。また、仮にリモートで働ける環境でも、メンバーがそうしたくなければ、強制することは逆効果です。
後半の3つは、「柔軟な働き方ができるかどうか」の判断軸です。アウトプットの明確さやメンバーの自律性・成熟度のほか、帰属意識・熱量(エンゲージメントの高さ)も重要です。いくら自律的で成熟度が高いメンバーが揃っていても、会社への帰属意識や仕事の熱量が少ない場合はリスクがあります。これらを点数づけして、どういう働き方が望ましいかを簡易的に診断するマトリクスを用意しました。
こうした働き方の柔軟性は、会社全体で決めることもできますし、職場単位で決めることもできます。また、チームの状況によって、柔軟性を変えてもよいかもしれません。
例えば、浄水場などの施設設備を設計するメタウォーターでは、会社・ライン長が承認した社員は週休3日制を適用することができます。判断基準の詳細は明らかではありませんが、業務への影響度や、週休3日制の必要性(理由)から判断しているものと想定されます。
なお同社の週休3日制は、他社で導入されている「給与減少型」ではありません。労働日数の減少に伴い給与を減らしていないということです。ただし業務量自体も減らしておらず、生産性の向上が求められることとなります。同社ではこうした制度導入と併せて、デジタルツールの充実やサテライトスペースの設置といった施策も行うことで、制度の定着・活用を図っています。
「副業」や「業務委託」で働き方の自由度を高める
時間や場所といった観点以外にも、「多様な働き方」の類型として挙げられるのが「副業(複業)」や「社員の業務委託化」です。例えば、副業の効果としては、視野の拡大やチャレンジ意識の向上などが挙げられています。
社員の業務委託化については、ヘルス機器メーカーのタニタの事例が有名です。
タニタでは希望する社員がいれば、雇用契約を終了させ、業務委託の関係性に切り替えることが可能です。3年間は仕事を提供することを約束し、報酬も会社員時代の残業込みの年収をベースに決定されます。追加的な業務を委託することになれば、その分の報酬を「成果報酬」として支払います。
こうした働き方は、個人側にもメリットがあります。例えば、「頑張りに見合った報酬を得られる」「仕事の量自体の増減も含めた柔軟な働き方ができる」「主体的なキャリア形成ができる」「成長意欲が高まる」などです(図2-4)。
一方でこうした手法は、「人員削減(リストラ)や、人件費・残業代の抑制のためではないか?」という批判を受けがちです。社員の業務委託化を進めている会社の中には、そういった意図がある会社も存在するかもしれません。しかし、本人の希望に基づいて行っており、会社からも一定のサポートを行っている限りは、推奨されるべき取り組みだと考えられます。
日本の会社の平均寿命は23.3年と人間の寿命より短くなっている中、今後は自律的に生きていく力が個人に求められてきます。その力を完全に身につけるまでの助走をサポートしているという意味では、「厳しく見えて実は優しい制度」なのかもしれません。そして、こうして退職した人材とつながっておくことで、また力を貸してもらうこともできるでしょう。
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