アテンションとフィルター(演習解説)『才能をひらく編集工学』【無料公開#22】
8月28日発売の『才能をひらく編集工学』より、本文の一部を無料公開します。「編集工学」とはなにか、「編集工学」におけるものの見方・考え方を知ることができる第1章「編集工学とは?」と第2章「世界と自分を結びなおすアプローチ」、第3章「才能をひらく「編集思考」10のメソッド」より一部公開予定です。今回は第3章メソッド01「思考のクセに気づく アテンションとフィルター」より一部を公開いたします。今回は昨日の演習の解説です。ぜひ演習に取り組んでから読んでみてください。
(昨日の演習はこちらから)
演習1 アテンションとフィルター 解説
「あなたの部屋にあるもの」、どれだけ集めてこれましたか?
記憶の中の情報を収集する間、頭の中では何が起こっていたでしょうか?
その動きをトレースしてみることも、編集力を鍛える上では非常にいいトレーニングになります。
入り口から順番にたどっていった人、ランダムにあちこちカーソルが向いた人、上から俯瞰するようにいっぺんに眺めた人、アプローチはいろいろだと思います。
日頃意識しない思考のクセが、こういうところにも現れます。
表面の映像を追えば目に入る場所にあるものだけでなく、引き出しやクローゼットにしまってある隠れたものにも注意のカーソルは向いたでしょうか。
窓から差し込む日差し、音や匂い、思い出や時の流れといった形のない情報も、「あなたの部屋にあるもの」ですね。
視覚だけではない五感からの情報を、自在に意識できたら素晴らしい。
慣れ親しんだ場所の風景を思い出すだけなのに、なかなか疲れる作業だったのではないでしょうか。
自分の思考に自覚的になるというのは、それだけでエネルギーを使うものです。
いかに日頃、無自覚に情報を流し込んでいるか、ということにも気がつくでしょう。
「好きなもの」「いらないもの」のフィルターをかけ替えると、ラジオの周波数を変えるように入ってくる情報が変わることを体感できましたか?
「いらないもの」と一言でいっても、どの観点からの「いらないもの」なのか。そのフィルターの選択も迫られたのではないでしょうか。
何かしらのフィルターがなければ、情報を選び取ってくることはできません。
「フィルター」自体には善し悪しはなく、情報選択を司るひとつの認知機能です。
そのため、このフィルターが「色眼鏡」となることもあれば、「自分軸」として重要な決断を支えてくれることもあります。
アテンションとフィルターは、世の中をどう見ているかという、その人のものの見方を形作っているものでもあります。
いかにフィルターを自在に持ち出せるかが、情報収集の重要なポイントです。
発想力が豊かな人は、このフィルターの切り替えが上手な人とも言えます。
まずは、アテンションとフィルターを自覚的に取り扱うだけでも、思考の質は大きく変わります。
第2章アプローチ01からのヒント
散らかった部屋を片付けるところから、第2章は始まります。(無料公開#5)。
さて、どこから手を付けようか。
のっぺらぼうの情報に楔を打ち込むことで、物事は動き出す。
「ややこしい〝情報の海〞に句読点を打ってみること。」という言葉が、本書における編集の出発点でしたね。
ここに、ひとつ疑問が残ります。
「では、どこに句読点を打てばいいのか」。
この最初の一歩を決めるところに、アテンションやフィルターが関わっているのです。
AIには未だ十分でなく、人間には本来備わっている能力の最たるもの、「分節化(アーティキュレーション)」する力も、「注意のカーソル」の先導によって引き出されていくものです。
そして、その分節化をよりインパクトのある方向に新しい価値を創造しようとするのであれば、通り一遍の注意では足りません。ここからが、編集力の勝負です。
情報の差異や異質に気が付き、無数にある大小様々な情報の突起から、しかるべきフィルターを通してユニークな区切りを選択する。研ぎ澄まされたアテンションが、創造的な編集力を引き出すトリガーになるのです。
ともすれば、自分の思考のクセとして張り付いているアテンションとフィルターは、持ち方によっては混沌とした世界に分け入る武器になります。
「わけるとわかる、わかるとかわる」は、何かに「気が付くこと(アテンション)」から始まります。
著者プロフィール
安藤昭子(あんどうあきこ)
編集工学研究所・専務取締役。出版社で書籍編集や事業開発に従事した後、「イシス編集学校」にて松岡正剛に師事、「編集」の意味を大幅に捉え直す。これがきっかけとなり、2010年に編集工学研究所に入社。企業の人材開発や理念・ヴィジョン設計、教育プログラム開発や大学図書館改編など、多領域にわたる課題解決や価値創造の方法を「編集工学」を用いて開発・支援している。2020年には「編集工学」に基づく読書メソッド「探究型読書」を開発し、共創型組織開発支援プログラム「Quest Link」のコアメソッドとして企業や学校に展開中。次世代リーダー育成塾「Hyper-Editing Platform[AIDA]」プロデューサー。共著に『探究型読書』(クロスメディア・パブリッシング、2020)など。
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