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【「はじめに」公開】エマ・ヘップバーン著『心の容量が増えるメンタルの取扱説明書』

どうして気持ちがいっぱいいっぱいになってしまうんだろう?
自分の心を理解し、うまく付き合うための20の心を整える方法。

心を守るための考え方から、ストレスへの対処法まで。
心が疲れたあなたにきっと役立つ、「メンタルを整える道具」をまとめています。
このnoteでは、本書の冒頭「はじめに」を公開します

はじめに ストレス社会を生き抜くには「心のケア」が不可欠

 現代に生きる忙しい私たち。みんながみんな「仕事とプライベートの両立」という無謀な試みをしています。
 他人の幸せを気づかうと同時に自分の幸せを探り、お金をやりくりし、子どもの世話をし、自分の思い通りにならない体形に葛藤し、やることリストをこなしながら、ゆとり時間も取り入れようと心がける―その結果、スケジュール管理やメール対応、SNSの更新、やることリストの処理に追われる日々。

 しかも、時間の節約になるはずなのに、実際には手間を増やしがちなテクノロジーがひっきりなしに音を立て、やれ「メッセージを受信した」「Facebookが更新された」「Instagramが更新された」と知らせてきます。
 朝から晩までピロリン、ピロリン! 通知音だらけのこの世界では、あの人もこの人も、自分よりうまくやっているように見えるものです。

 でも現実は、誰もが曲芸師のように生きています。球を落としたり、不意に飛んできた変化球をキャッチしたりしながら、人生をジャグリングしているのです。つねに完璧に球を回せる人なんているはずもなく、「人生を操っている」感覚と「人生に操られている」感覚の間を絶えず揺れ動いている人ばかり。

 この本を読めば「何もかも思い通りに操れるようになる」とはお約束できませんが、少なくとも、人生においてきわめて重要な「心」の扱い方に気づいてもらえるのではないかと思います。

疲れた心をケアできる「メンタルを整える道具箱」を持っておこう

 あなたの人生はあなたの心を中心に回っています。あなたは心を通じてものを見て、計画し、反応し、記憶し、発展させ、交流し、創造しながら、人生を進んでいきます。心のケアが人生のすべてとは言い切れないにしても、あなたの心の状態によって人生の軌道は変わるので、心はしっかり育てなければいけません。

 この本では、あなた専用の「メンタルを整える道具箱」をつくるお手伝いをします。心をケアするために知っておきたいさまざまな考え方や、ストレスを感じたときの対処法、私たちを不安にさせる原因まで、あらゆるヒントをまとめています。自分に合うと感じる考え方や方法を、ぜひ選んでいってください。
 あなたが自分の世界を、人生を、そして現代社会でぶつかるあらゆる困難を切りひらいていくために、この道具箱はきっと役に立つはずです。

誰もが心を病む可能性がある

 はじめに、必ず押さえておきたいのは、メンタルのケアは万人の課題だということです。「私は大丈夫」「自分には関係ない」「悪化してから考えればいい」というとらえ方を変えましょう。心の健康は、自分を含めすべての人に関係のあるテーマです。そして、悪化する前に向き合い、対処すべきものなのです。
 心の健康状態は生きている限りつねに変化するものですし、何かのきっかけですぐに揺らいでしまうかもしれません。状況と人の組み合わせしだいで、心を病んでしまうことは誰にでもありうるのです。

 体の健康と同じように、心の健康は改善することができます。心の不調をおかしいことだと考えるのはやめて、メンタルに影響を与える要因を理解し、改善するための方法やサポートの求め方を学びましょう。

 大事なのは、心の健康は心だけの問題ではないと気づくこと。実は、心の不調の要因は多岐に渡ります。心の健康は、脳はもちろん、体や環境とも根本的につながっています。心と脳、体、環境の関係性はのちほどくわしく説明していきます。

自分の心の容量(キャパ)を「ジャム瓶」でイメージしてみよう

 私たちはみんな心のジャム瓶を持っていて、その中にはストレスに対する弱さ(イチゴ)と、ストレスの原因(ラズベリー)が詰まっています。
 ストレスに対して弱ければ弱いほどイチゴの量は増え、ストレスの原因が多いとラズベリーの量が増えます。その弱さは人によって異なり、ストレスの原因はその時々で変わります。
 このジャム瓶の比喩は、ストレスに対する遺伝的な弱さを説明するために、教授であり遺伝カウンセラーの肩書きも持つジェアニー・オースティンが提唱したものです。

 しかし心理学者である私は、ストレスに対する弱さにはさまざまな種類があると考えるのがしっくりきます。たとえば生物学的なもの、社会的なもの、認知的なもの、環境的なもの、さらにはこれまでの人生経験によるものもあるでしょう。
 人によって限界はおのずと決まっているので、ストレスの原因がジャム瓶の容量を超えると、心の健康に支障が出ます。しかしまわりの人に助けてもらう、良質な睡眠をとる、運動するなどの適切なストレス対処法を学んで実践することで、ジャム瓶の容量、つまり心の容量は増やすことができます。

 心の健康をこのようにとらえると、いろいろなメリットがあります。第一に、心のケアと無縁の人はいないし、誰の心にも限界があるとわかります。第二に、置かれた状況しだいで、誰でも心を病む可能性があるとわかります。第三に、遺伝的な要素だけではなく個人の背景や体験も考慮に入れているため、心の病気のかかりやすさやストレスへの弱さに個人差があることも、説明がつきます。

 そして何より、希望があります。ストレスの原因を(可能であれば)管理し、適切な対処をとることで、ストレスに対する適応力を高められるのですから。この本では主に、ジャム瓶の容量を増やすとともに「ラズベリー」を管理することで心をケアする方法について、学んでいきます。

そもそも、心とはなにか?

 この疑問は、議論しても答えが出ないことが多いものです。ここでは私の解釈をお伝えしましょう。
 心は自分の内外の世界をとらえ、自分自身をとらえる場所です。私たち人間は、心によって自分の思考をとらえます。自分、まわりの世界、そしてその世界と自分との関係性を、心でとらえ、感じ、理解し、記憶し、眺めるのです。まわりの世界との交流も、心を通じて行われます。心をつくりだすのは脳ですが、「心=脳」かというと、そうではありません。

 心はいわば、脳、体、環境から成る3人組のバンドです。3人のみごとな調和により、人生は進み、さまざまなハーモニーに彩られます。人生という曲が終わるまで、誰ひとりミスは許されません。

 ですから、体と環境のことに触れずに脳のことだけを語るのは、バンドの3分の2を無視しているのと同じ。そんなの、ビヨンセしかいないデスティニーズ・チャイルドみたいなものです(もちろんビヨンセは―つまり脳は―すばらしいけど、他のメンバーがいなければデスティニーズ・チャイルドの曲にはなりません)。

脳と体はお互いに影響し合っている

 ここからは話を掘り下げて、今挙げた3つの要素によって心がつくられるしくみを見ていきましょう。
 脳は身体機能をコントロール・調整するとともに、世界を進むうえで必要な思考、記憶、計画、統合、注目、意思決定などの認知を司っています。感情の理解も脳で行われていて、これがうまくいかなければ多数の機能に支障が出ます。

 脳の中をのぞいてみると、数えきれないほどの神経細胞がつながり合い、高速道路を流れる車のような電気信号によって超高速で交信しています。この神経細胞のおかげで、脳は高度な交信を行い、あなたのまわりの世界と、それに対する反応の仕方を理解し、組み立てることができるのです。

 しかし、脳の交信は脳内だけにとどまりません。脳は体とも交信し、体からの反応も受け取っています。この双方向の高速道路では、体は脳と心に影響を及ぼしますし、その逆もまた然り、です。
 たとえば、考え方や気分しだいで、痛みの感じ方が変わります。薬の効果を信じているかどうかが、実際の効果に影響します。慢性的にストレスにさらされると、免疫が下がりさまざまな病気にかかりやすくなります。運動がメンタルの向上に効果的といえるのも、同じ理屈です。

環境を抜きにして、心のケアを考えることはできない

 そのうえ、脳と体は環境とも密接に関わり合っているのだから驚きです。環境は脳を、ひいては心を左右し、脳は環境の認識を左右します。脳は、これまでに学んだこと、すなわち体験に基づいて環境を認識するものなのです。
 私たち人間は社会的な生き物なので、脳は同じ環境にいる、まわりの人の影響も受けます。幼児期にどのように育てられたかで、環境への反応の仕方、思想、行動が変わります。私たち人間は日々の生活の中で、絶えずお互いの脳に影響を与え合っているのです―私たちの脳は、ほかの人の体験を想像し、それに反応します。人の痛みを想像することで、その痛みを感じます。環境は脳や体の機能と密接につながっているため、心を取り巻く環境を無視して心を語ることはできません。

 そこで、この本では心をケアする方法について、脳、体、環境の3つの側面から考えていきます。3つとも心をつくる一要素なので、心をケアするには3つをすべて整える必要があるのです。同じ理屈から、心の健康も脳(心)単体の問題ではなく、体も含めた複合的な問題として考えていきます。

「心が健康」ってどういうこと?

 一般的には「心が健康=つねに幸せで、悲しみなどのネガティブな感情(正確には、ネガティブだと感じられる感情)と無縁であること」と考えられていますが、実際は違います。あとでくわしく触れますが、人生にはネガティブな感情が不可欠です。
 では私の定義はというと、「心が健康=自分で自分をケアすること、優しさと思いやりを込めて自分を丁寧に扱うこと」。そうすれば自分の感情を理解し、その感情に適切に反応することができます。日々のストレス要因を管理して、人生を最大限に有意義に過ごせるようになります。

「心が健康」の定義は、人によって違うかもしれません。
 一度自分の定義を考えてみるとよいでしょう。そうすれば、心が自分の思う「健康な心」の状態からずれたときや、ふだんより念入りなケアが必要になったとき、そのことに気づけるはずです。

「メンタルを整える道具箱」の使い方

 この本では、心の健康に役立つさまざまな道具、それも、根拠あるモデルにのっとった道具を紹介していきます。どれも私の豊富なカウンセリング経験に基づいて厳選したものばかり。相談者のみなさんによって、人生をうまく乗り越えるのに役立つと実証された、考え方やエクササイズなどを紹介していきます。

 この本を読みながら、自分に合った道具を見つけて、道具箱に入れていきましょう。似たような体験は存在しても、同じ人間は存在しない以上、自分専用の「メンタルを整える道具箱」をつくることが大切です。
 道具は随時入れ替えてかまいません。道具の一部に錆さびが出てきて更新が必要になることもあれば、人生の新しい局面を迎えて、道具を一新しないといけないこともあるかもしれません。

 この本のエクササイズには、質問の答えやあなたの感じていることを書きだすものもあります。これからの人生で困難に立ち向かうときに、自分の書いたものを見返せるよう、エクササイズの答えを記入する場所は1つにまとめておくと便利です。本のページに直接書き込んでもよいし、ノートを用意してもよいでしょう。
 前から順に読まなくても大丈夫。
 今あなたが必要としている部分を拾い読みしたっていいんです。そこで集めた道具だけでもよいので、あなた専用の「メンタルを整える道具箱」をつくってみてください。そして今後、ストレスフルな社会でさまざまな問題にぶつかったときの参考書として、ぜひこの本を活用してください。

目次

第1章 心の健康の基礎をつくる
TOOL1 基本のケアをおろそかにしない
TOOL2 心の健康を支える5本の柱を取り入れる
TOOL3 自分の価値観を知る

第2章 山あり谷ありの人生を乗り切る方法
TOOL4 感情のキャパシティを把握する
TOOL5 苦しい状況から自分を守る

第3章 感情の正体を知り、うまく付き合う
TOOL6 自分の感情を認識し、受け入れ、理解する
TOOL7 感情が思考や行動に影響するサイクルを知る
TOOL8 ネガティブな感情を持つのは、悪いことじゃない
TOOL9 不安が生まれるサイクルを分析する

第4章 嫌な気分の原因を理解する
TOOL10 感情の引き金に着目する
TOOL11 SNSとうまく付き合う
TOOL12 正しく比較するスキルを身につける
TOOL13 できる人ほどなりやすい「インポスター症候群」
TOOL14 失敗してもいい

第5章 心の容量を増やす――行動編
TOOL15 ポジティブな変化を起こすために目標を設定する
TOOL16 体への働きかけで気持ちをリラックスさせる

第6章 心の容量を増やす――思考編
TOOL17 自分の思考パターンに気づく
TOOL18 心の中にいる「いじめっ子」を追い出す
TOOL19 「~すべき」「~であるべき」に振り回されない
TOOL20 もうこの世の終わり?「破滅化」思考にご用心

「メンタルを整える道具箱」の総仕上げ

著者について

エマ・ヘップバーン
神経心理学を専門とする臨床心理士。15年以上の実務経験をもち、私的・公的の両面でメンタルヘルスの問題に取り組んでいる。絵を描くのも得意で、彼女のイラストは全米自殺防止財団やインド王立公衆衛生協会に使用されている。@thepsychologymumとしてインスタグラムも運営しており、2021年11月現在で12万人以上のフォロワーがいる。近年はそうしたオンライン活動が認められ、ラヴィー・アワードの銅賞、同アワードの一般投票賞を受賞した。

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かわいいイラストも特徴の本書。
こんな人におすすめです

・「やることリスト」に追われる日々で、ふとしたときに疲れ切っている自分に気づいた
・仕事で忙しいけれど、プライベートも充実させたくてゆっくり休める日がない
・スケジュールが立て込んでいるときは、食事や睡眠を削ることがある
・なんだかんだ、メンタルの不調は他人事だと思っている
・責任感が強く、自分の理想通りにことが進まないとストレスを感じる
・ささいなトラブルのはずなのに、なぜか怒りが爆発したり、泣きたくなったりすることがある
・ついSNSを見すぎてしまうし、友だちの楽しそうな投稿を見て気分が落ち込む











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