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第2回 なぜデジタルシフトの時代に「編集力」が必要なのか?(後編)

 Facebook、InstagramなどのSNS、キュレーションメディアやニュース配信メディアからオウンドメディアまで、デジタルメディアで個人、企業、組織、学校、地域・・・誰もが情報発信できる時代になったのは周知の事実。そんな時代にそれぞれが、「伝えたいコト、モノ」「伝えなければいけないコト、モノ」を発信するには、キチンと「見える化」「コンテンツ化」するための「編集力」が必要です・・・というのか、前回の連載でのおさらい。で、今回はその必要な「編集力とは何か?」の後編です。
 この連載では編集者として雑誌など既存のメディアをフィールドをデジタルシフトしている大久保清彦と、『sotokoto online』編集長としてデジタルメディアの活用法を実践している北野博俊が、「デジタルシフト時代の編集力」について経験や実践に基づいて、紐解きます。

はじめに/KPIではなくSDGsを追求する(大久保)

 今後企業や組織の事業、地域の活性化、発展はKPI(重要業績評価指標)といった数値を求めているだけでは成り立たくなっているのは周知の事実。KPIを立てて、その数値だけを追っていくと、一時的には利益が出たり、活性化、発展しているように見えるかもしれません。しかし、KPIという数字だけを追及しすぎると、周囲の誰かや環境が犠牲になっていくという側面があるのです。例えば24時間営業のコンビニ業界がPDCAを回してKPIを達成するために、一番重要なビジネスパートナーのフランチャイズのオーナーに負荷をかけて、結果、時短営業の店舗が出てきています。もちろん、KPIを立てること自体は必要なことです。でも、それにとどまらず、これからの社会で目指すべきは、誰も皆が一緒に幸せになりながら利益を上げていく持続的可能な社会・・・SDGsな社会になっていくのは周知の事実。ではどうやってSDGsな社会を目指していくのか。それを可能にするのが「編集力」なのです。(大久保)

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「編集力」は商品開発、店舗販促、地方創生、あらゆる場面で生きる(大久保)

 僕がセブン&アイグループ時代にデジタルシフトウェーブ鈴木社長から学んだのが、「紙だけの平面で編集するな!」「立体的な編集力を駆使せよ!」という姿勢です。例えば店舗の売り場も雑誌の誌面と同じで、限られたスペースをどうレイアウトするか=どう編集するかによって、店舗=コンテンツがガラリと変わります。あるいは商品1つにとっても、商品の背景を取材して、優れたビジュアルやキャッチコピーやキーワードをつけて、説明文をつけて「編集」すると、その商品自体の価値がグッとより魅力的なモノになります。
 編集力を駆使することで、そのモノの価値、その場所の価値、その店の価値を上げることができるのです。この価値を「見える化」することが「価値訴求」です。セブンイレブンを創られた元セブン&アイ鈴木会長が10年以上前から「大事なのは、価格訴求よりも価値訴求だ!」とよくおっしゃっていました。これぞ、現代のSDGsの軸のお言葉です。「価値訴求」こそ、本来「伝えたいこと」「伝えなければいけないこと」を見える化するための「編集力」が根底にあるのです。ひとつの成功例が、「金の〇〇」でおなじみの、セブンイレブンのセブンプレミアムゴールドシリーズです。多くのチェーンのプライベートブランドが安さを追求する中で、セブン&アイは品質にこだわった商品を開発し、その良さ、価値を強く訴求したことで、このシリーズは大ヒットしました。この方法なら、小売もメーカーも利益が出て、消費者にとっても満足度の高い買い物体験ができるわけです。これを可能にしたのが前述の「編集力」というわけです。それが前述の鈴木社長が当時おっしゃっていた「紙の平面だけの編集をしてはいけない!」なのです。
 逆に「価格訴求」、つまり安売りは、本来その商品が持っている特徴や良さが「見えなく」なってしまいます。「逆編集」です。スーパーマーケット業界が「こちらのほうが10円安い」とチラシで安さを競って利益が出せなくなって、店舗、メーカーなど周りの皆が疲弊しました。利益を確保できなくなるのはもちろん、安さの追及は真の顧客満足度につながらないようで、100円のものを80円に値下げしても、どこかで「だったら最初から80円で売れるのでは」と、その商品そのものの価値を下げてしまいます。まさに「平面だけの編集」です。
 テレビ、新聞、雑誌の広告だけでは、消費者の誰もが広告と気づいてしまう世の中で、あらゆる業界、あらゆる場でオールドメディアだけに頼るのではなく、デジタルにしっかりシフトして、自分たちの力で「価値訴求」をデジタル発信していく必要があります。そのために「編集力」が必要なのです。そのためには、アフィリエイト的に各個人個人で勝手にSNSで発信するのではなく、有名人やタレントだけの発信力に頼るだけでなく、企業、組織、地域できちんと発信できる「チーム」を組成していくことが大事です。(大久保)

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編集力×デジタルメディアで地域を元気に(北野)

 編集力を発揮して価値訴求をおこなっていく。しかも、デジタルメディアとの掛け合わせで力強く推進していく。それを現在、地域を対象に取り組み、地方の価値の見える化を目指しているのが『sotokoto online』です。
地方に住む方々は、自分たちが住んでいる場所を「日常の場所」だと思っていて、その良さに気がつかなくなってしまっています。良さを自覚していないから、それを他の地域の人に伝えることもない。我々が目指しているのは、その良さを地域の内外に伝え、地域が元気になることに繋げることです。
 どうやって地方を元気にしていくのか。『sotokoto online』が目指しているのが、「観光以上・定住未満」の「関係人口」を増やしていくことです。日本全体の人口が減少していく中で、移住・定住で人を増やしていくには無理があります。そうではなく、その地域のファンを作って、地域に住民票を移すわけではないけれど、何かしら地域と関わっている「関係人口」を増やしていく。これが地域の活動を盛り上げるカギとなり、地域の課題を解決するビジネス(=ソーシャルビジネス)に繋がるのです。
 それには、地域の情報を単に紙やWEBで伝えるだけにとどまらない編集力が必要です。例えば島根県では、移住・定住が難しいなら、島根じゃないエリアの方で島根のことを応援してくれる人々を増やそうと、2012年から雑誌「ソトコト」とコラボして「しまコトアカデミー」という講座を開催してきました。講座を通じて、地域を学び、実際に出掛けて、自分のかかわり方を見つけてもらおうというものです。この講座に参加し、卒業した多くの方々がU・Iターンして、地域に関わる仕事に就いています。
 その地域の「ローカルプレイヤー」と言われる、現地でローカルビジネスを実践している方と東京を中心とした都心部の方々を引き合わせて、その地域のファンを生む試みなどは、まさに場の編集、地域の編集です。こうしたあらゆるチャンネルを駆使した試みを、島根県をはじめとして、これまで鹿児島や和歌山など各地で行っています。
この地域の情報発信について齟齬がなくしっかりと事実と未来を伝えるために、しっかりONE TEAMとしてチーム編集していくことが必要です。

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 ということで、次回は、デジタルシフトの世の中で「編集力」に必要な「チーム」の作り方・・・つまり、「編集力」を最大化するための「チーム力」についてのお話しをしていきたいと思います。

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第4回 領域を超えて編集チーム力を発揮するため、まず自己否定から始めてみよう
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大久保清彦(Kiyohiko Okubo)
雑誌LEON、OCEANSなどを企画創刊し創刊副編集長、創刊編集長を経て、セブン&アイ出版常務執行役員の後、独立。 現在は家族の幸せやSDGsなどをコンセプトに掲げるMADUROなどの雑誌とオンラインを率いるRRデジタルメディア代表取締役としてご活動中。 SNSやデジタルメディアを活用し、「地域、企業、組織の編集力」を高め、「伝える力」をつけるためのソリューションを追求中。
北野 博俊(Hirotoshi Kitano)
建築構造設計から教育系人材、不動産ベンチャーを経て株式会社ベーシックにてマーケティング部立ち上げを経験。現在、株式会社RRデジタルメディア執行役員、また、傘下の株式会社fluxusにて執行役員、株式会社sotokoto onlineにて取締役及びオンラインディレクター、グループ全体のデジタルシフト、新規事業推進を担当。
◆twitter: https://twitter.com/hirotoshikitano
◆note: https://note.com/kitano_h

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