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第1回 なぜデジタルシフトの時代に「編集力」が必要なのか?(前編)


はじめに・オールドメディアの「編集力」×デジタルメディアの「伝える力」について(大久保)

 僕はこれまで、ちょい不良(ワル)のキャッチコピーでヒットした雑誌『LEON』や『OCEAN』の創刊や、『ヨガジャーナル日本版』や『MADURO』のリニューアルなど、数々の雑誌の立ち上げやリニューアルの編集長、発行人として、またセブン&アイ出版の常務執行役員などを経て、多くの紙媒体に携わってきました。そして2018年、RRデジタルメディアを創業し、雑誌だけでなくオンラインメディアも活用した「立体的なコンテンツ化」を様々な地域や企業、組織と一緒に展開しているところです。そして、このオンラインメディアでの展開を一緒にがんばってくれているのが『sotokoto online』編集長の北野さんです。
 この連載では、デジタルシフトが進む中で、僕が雑誌というオールドメディアで培ってきた「編集力」「取材力」と、北野さんが得意とするデジタルメディアの「伝える力」「広げる力」を、どうかけあわせて「コンテンツ」を立体化し最大効果を発揮できるのか、僕と北野さんの2人で話していきます。(大久保)

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情報発信で大事な基本は「拡散力」ではなく「編集力」(大久保)

 デジタルシフトが進む中、誰もが簡単にオンライン上で情報発信できるようになりました。今や多くの人、そして企業や組織、地域が、Facebookやtwitter、Instagram、オウンドメディアなどを通じて「伝える」ことに懸命になっています。
 しかし、ここで注意すべきは、単純にデジタルを利用してオンラインで「拡散する」ことだけを目的化してはならないということです。PVなどの数値にとらわれて、伝える内容や伝え方を間違えると、ビジネスの根本やレピュテーション(評判・評価)が悪くなってしまって、今まで積み上げてきたものが壊れてしまうことにもなるのです。
 自分たちの「伝えたいこと」、企業や組織が「伝えなければならないこと」をきちんと消費者の方まで届けるには、まずは伝えたい内容を「見える化」「コンテンツ化」することが重要です。そして、この見える化、コンテンツ化をしていく作業こそが「編集力」なのです。
 その編集とは具体的に何をやるのかというと、例えば雑誌などの紙媒体では、まず肝となる伝えたい内容を洗い出し下調べをする→それをふまえて企画やテーマ決める→人や場所、物、事を取材する→写真を撮ったりイラストやデータを活用する→キーワードやタイトルを決める→文章をつける→レイアウトを当て込んで形にする→これでコンテンツ化が完成するわけで、この一連の流れが「編集」です。
 こうした編集をしていくという作業は、雑誌の編集者、新聞の記者、テレビ局のディレクターといった、既存のメディアに携わる人の仕事、というイメージがあるかもしれません。しかし、今やデジタルシフトによって個人や組織が自ら情報発信することが当たり前になっているわけですから、すべての人、組織、地域など、それぞれが伝える力=編集力=コンテンツ化、見える化する力を身につけていく必要があります。
 また、編集力は、メディアだけでなくあらゆる場面で応用可能です。僕がセブン&アイグループにいたころ、当時私の上長だったデジタルシフトウェーブ鈴木康弘社長は、「紙だけの平面だけの編集をしてはいけない!」とよくおっしゃっておりました。「雑誌の誌面だけでなく、オンラインはもちろん、商品や売り場、イベント、ECも全て含めて立体的に編集しなければいけない!」とおっしゃるわけです。セブンプレミアムなどのセブン&アイグループの商品開発能力や数々のヒット商品や展開はその思想が実を結んだものと言えるでしょう。編集力やコンテンツ化は、地域のプロモーションや商品企画、イベント、小売りの店舗の売り場構成、ECなどあらゆる場面で活用でき、その編集力やコンテンツ化があってこそ、伝えたいことがブレることなく一気通貫し、あらゆるチャネルで展開できるのです。それが、はるか10年以上前から鈴木社長が提唱していた「オムニチャネル」な展開なのです。
 セブン&アイ時代に、リアルとネットが行ったり来たりする「オムニチャネル」を最大化するために、この「編集力」を駆使して「立体的にコンテンツ化」して、「見える化」をしてまいりました。はるか10年以上前からずっとデジタルシフトの時代に必要なのは「編集力」だと、鈴木社長から教えられてきました。(大久保)

デジタルメディアに欠如しがちな「編集力」(北野)

 私は今、『sotokoto online』というWEBメディアを通じて、素材とデジタルをかけあわせることで効果を最大化することに取り組んでいます。雑誌『ソトコト』上で展開している各ローカルプレイヤーの取り組み、SDGsなどを始めとした『ソトコト』の世界観を、あらゆる方法で多くの人に伝えようとしているところです。

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 紙媒体と異なり、デジタルプラットフォームには多くの表現方法や届け方があります。スチール写真のような静止画だけではなく、動画も利用できます。届け方もウェブサイトを用いたものや、オンラインサロンのようにデジタル×リアルという手段もあります。紙媒体のデジタル化ではまだ難しいですが、他の場合ですと最近は音声を活用した表現も進化しています。また、個人でも発信できる場として昔はブログ、今はnote等、そして各ソーシャルメディアといったプラットフォーム(表現の場)も整ってきています。
 WEBメディアについては「そこにしっかりとしたプラットフォームがあるのなら、素材をそのまま流し込めばいいのでは」という印象を抱かれがちです。しかし、実はそうではありません。伝え方を検討することなく素材を流し込んだだけでは、良さを伝えきることができません。
 例を挙げるとすると、例えばtwitterやfacebookで流れてきたコンテンツをただ単にシェアされたものと、自身の言葉を組み合わせてシェアするのとでは、前者のほうがエンゲージメントが圧倒的に低いのと同じです。
 そして、素材を流し込んだだけのWEBメディアに対してSEO対策を施し、ただただトラフィックを集めることを目的化しても、自分たちが本当に伝えたい事は伝わりません。近年、そういった内容の薄い、でも数字だけは稼いでいるメディアが増えているのは残念なことです。
 誰もが手軽に発信できるデジタルの時代だからこそ、何を伝えたいかをブレさせず展開することが大切です。そこを見失うと、「PVがこれだけ出て、売上がこんなに立った、いいサイトじゃないか」だけのWEBメディアになってしまう。それは事業としては良いなのかもしれませんが、「そもそもそれは自分たちが伝えたいことだったのか?」という視点が抜け落ちてしまいます。
 ですから、自分たちが何を伝えたいか、伝えるべきかという編集方針を強く持ち、徹底していかないと、結果としてユーザーは離れていくことになり、リピートされないWEBメディアになってしまいます。
 よく「方針を立てましょう」という言い方をします。そうすると、多くはコーナーの話であったり、企画の話がでてくることが多いですが、そうではなく、抽象度を上げていって、「こういう世界を作りたかった」「解決したい世界ってこうだったんだ」といったビジョンを持つ。そしてそこにしっかりした編集力を組み込むことで、きちんと伝えたい世界を伝えるためにどの手法を用いてどういう内容を伝えるかを考えて、上位概念から施策までを行ったり来たりしながら決めることが大切だと思います。(北野)

本当の意味での「編集力」を持つためには?(大久保)

 僕のようなオールドメディア側で育った人間の課題というのは、編集的な実績はあるけれど、それをデジタルに応用できない、立体的な展開ビジョンを描けないという人が多いです。編集の経験値はあるけれども、培った編集力を紙以外、自社媒体以外で広げる術、活用する術を知らない。せっかくレピュテーションのいい編集力があるのに、それをデジタルシフトして立体的に活用できない。多くの人に届ける方法がわからない…これでは、編集力が大事なデジタル社会で、あまりにももったいない!
 一方、北野さんのようなデジタルメディア側で育った人間は、デジタルが持つ「人に伝える」活用術は熟知しているけれども、物事の価値や情報をしっかりコンテンツ化=見える化する「編集力」が足りない! 僕が今、北野さんによく言っていることは「どんなに忙しくても、しっかり現場に足を運んで、しっかり取材に行って、リアルを体験してほしい」と。おそらく今、『sotokoto online』の編集長として、日本各地に足を運び、取材をして、写真を撮り、タイトルを考え、原稿を書くことで、ネットで調べただけではわからないことをたくさん体験して、気づいていることと思います。その取材の実践の積み重ねこそが、根本の編集力を育てることにつながります。デジタルに精通している北野さんがその経験値を積んでいったら最強ですよ。
 エンドユーザーまでリーチしてしっかり思いを伝えることまでを含めて「編集力」とするならば、僕には「取材力」はあるけれどデジタルメディアのように「伝える力」が強くない。それでは、このデジタルシフトの時代では、本当の意味での「編集力」があるとは言えません。北野さんは「伝える力」はあっても、現状は「取材」の経験値が少ない。どちらも「編集力」が完全とはいえないわけです。どちらが良い悪いではなく、オールドメディアやデジタルメディアを俯瞰して見ると、それぞれがこうした課題を抱えているわけです。だからこそ、双方がタッグを組んでお互いを補いあう意味があると思います。(大久保)

(後編に続く)

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第2回 なぜデジタルシフト時代に「編集力」が必要なのか?(後編)

大久保清彦(Kiyohiko Okubo)
雑誌LEON、OCEANSなどを企画創刊し創刊副編集長、創刊編集長を経て、セブン&アイ出版常務執行役員の後、独立。 現在は家族の幸せやSDGsなどをコンセプトに掲げるMADUROなどの雑誌とオンラインを率いるRRデジタルメディア代表取締役としてご活動中。 SNSやデジタルメディアを活用し、「地域、企業、組織の編集力」を高め、「伝える力」をつけるためのソリューションを追求中。
北野 博俊(Hirotoshi Kitano)
建築構造設計から教育系人材、不動産ベンチャーを経て株式会社ベーシックにてマーケティング部立ち上げを経験。現在、株式会社RRデジタルメディア執行役員、また、傘下の株式会社fluxusにて執行役員、株式会社sotokoto onlineにて取締役及びオンラインディレクター、グループ全体のデジタルシフト、新規事業推進を担当。

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