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消費者行動論からみる,世界観の事前共有とアクセシビリティー(UI/UX)の重要性

AIDMAじゃない消費行動とプロモーションのポイント

少し前の「AIDMAは消費行動モデルではない」というエントリーでは,AIDMAはプロモーションを考えていくときには都合が良いが,消費者の行動は一つの方向に向かって進んでいくものではない,といったことを書きました。では,消費行動はどう考えておけば良いのでしょうか?​

消費行動の階層

実は「消費行動」と一概に語ろうとしても色々な見方があります。
そもそも「消費」ってなんなの?「消費者の行動」ってなんなの?という話を突き詰めると,例えば経済的活動として家計からの支出を全て消費として捉えてしまう(ライフスタイルに合わせて何かを買う,投資をする,貯金だって未来の消費だと考えられる)というものもあれば,購買への意思の決定(「よし!〇〇を買おう!と決めるまでの行為)として捉えるとか,単純に買い物をするという行動(実際にお店に足を運んだり,ECサイトにアクセスしたり,そこにあるものを比較したりする行為)として考えてみたり,実際の使用・利用という行動(買った後に使う,誰かにあげる,保管する,お勧めする,捨てるなどの行為)に着目したりといった様々な階層に分類をすることができます。

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本気で消費行動を考えてくためには,これらを全て細かく考察していく必要があると思いますが,一般にマーケティングの一環として消費者の行動を捉えるためには「いつ何をどうやって選択し,購入しているのか」に着目をする方法が多く取られます。そこでよく使われるものが,購買意思決定の概念モデルというものです。これは,前半の知らず知らずのうちに情報が頭の中に蓄積されている段階(情報処理プロセス)いざ必要に迫られた時(モチベーションの発生と言います)に頭の中で意思決定を行う段階(意思決定プロセス)の2段階で消費者の心理変容や行動を考えていきます。

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購買意思決定プロセスとは

前半の情報処理プロセスは,消費者が普段見ている様々なメディアからの情報や街中での出来事,他人の行動や持ち物から,自分が気になったものを自分なりに理解して記憶にとどめるまでのプロセスです。この段階では,実は人は「いま見ている情報が消費に役立つ」だとか「今度参考にしてみよう」なんて思っちゃいません(もちろん思う時もありますが)し,「いいね!」と思ってもまず買いません。大体の場合,いいねと思っていてもよっぽどのことがない限り「いまは不要」ですし,「いいね」とその瞬間に思っても単に思っただだであとは何もしないのが普通です。さらには,いいねと思ったことすらすぐに忘れてしまっているということはよくあるかと思います。この段階では単にふと思ったり,覚えておこうと記憶に留めるだけですし,その記憶もあやふやですぐに忘れてしまうことも多くあります。このプロセスだけでは購買には結びつかないのです。

ところが,あることが起きます。それが問題の発生(モチベーションの発生)です。問題の発生とは,例えば電球が切れたとかサラダオイルがなくなったとか太ってジーンズが履けなくなったとか,もっとみじかなものだとお腹が空いたとかです。モチベーションの発生とは,問題は起きているいないにかかわらず,そうだ!あれしよう!という意思で,例えば新しいジーンズが欲しい,バイクを改造したい,もっといい楽器が欲しいといった欲求です。問題やモチベーションが発生するとその問題を解決するために意思決定プロセスが働き始めます。どうすればその問題が解決するのか,その解決方法を記憶の中から探そうとしたり,新たな情報を探し始めます。そしてその中から課題解決のための具体的な方法がいくつか出てき始め,その後,ある商品の購入が必要であると評価し,購入することを選択した場合に購買行動が発生すると考えられるのす。

購買意思決定プロセスと比較した場合のAIDMAの曖昧さ

ところで,仮にこの中にAIDMAのそれぞれの要素を入れ込んでみます。そうすると,AIDMAに沿ったプロモーションの検討と実施だけでは,どうしても途中で分断していたり,ステップが曖昧だったり,購入のための比較検討の過程を飛ばしていたりしていることがわかると思います。

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最初の段階で気を惹こうとして大量の情報を届けた場合,情報接触は起きるかもしれませんが,実際にその情報を理解し受容するのは消費者任せになってしまっています。情報の一部分にのみ接触した場合,誤解したまま記憶にとどめてしまうことすらあり得るでしょう。また,消費者は興味(Interest)を持ったらその段階で欲しい(Desire)と思うのでしょうか,それとも欲しいと思ったから覚えるのか(Memory)でしょうか,欲しいと思わなくても記憶に残ることはないのでしょうか? と,いった欲求(Desire)についてのプロセスがとても曖昧のままです。さらに,欲求というものは,実は問題やモチベーションが発生しないと起き得ないのでは?という疑問も生まれてきます。
さらには,AIDMAの最後のActionにおいても,概念モデルでは数多い心理変容や態度行動が想定されて,さらには購入にあたっては様々な要因に影響を受けている※のにも関わらずAIDMAでは行動を促すという簡略的な捉え方しかしていません。
※この影響の要因については,別エントリーで考察してみます。

プロモーションポイントの再整理ー情報処理プロセス

これらのことを考慮しながら,プロモーションのポイントを改めて整理してみましょう。まず,情報処理プロセスにおいては,消費者が接触する大量の情報に対してどのようなアプローチをするべきなのかという視点に始まり,接触した情報をもとにきちんと企業の商品やサービス(ブランド)を理解してもらうための施策が必要であることがわかります。つまり,単純なアテンンションを与えて興味を引くといった一時的な取り組みではなく,日常的に消費者と企業がどのような情報提供と情報接触をするのか,いわゆる日常的コミュニケーションのあり方が問われているのだと言えるでしょう。別の言い方をすれば,企業にとっていかに良い形で消費者の記憶にとどまる「世界感を事前に共有する」ことができるかどうかを目指すべきであるとも言えるでしょう。

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プロモーションポイントの再整理ー意思決定プロセス

また,後半の問題やモチベーションが発生した後の意思決定プロセスにおいては,問題が発生した時=消費者が自分の問題を解決すべき方法を探し始めた時に,真っ先に消費者の記憶の中から商品やサービス(ブランド)が蘇ることが大切です。これはブランドの純粋想起とも言いますが,そのためには事前に世界観が企業と消費者の間で共有されていることがものすごく大切であることがわかると思います。いわば,何か困った時に「そうそう,あれあれ!あれはどこだっけ?」と思い出してもらうわけです。さらに意思決定プロセスでは,消費者は購入に向けて競合他社の類似商品のことも同様に調査し検討を重ねます。そのため,検討時の商品情報へのアクセシビリティや購入段階におけるユーザーエクスペリエンスも非常に重要になってきています。もし,競合他社の商品の方が情報が多くユーザーインターフェイスも良くできていた場合,さらには試しに店舗に商品を見に行った時に楽しい体験をしてしまった場合,あっという間に競合商品に流れてしまうことも十分に考えられます。
一方,意思決定プロセスにそれほど時間をかけない商品(パルス型消費)であった場合にも同様に,意思決定プロセスをいかにストレスなく進められるかという点と,事前の情報処理プロセスにおいて「どれだけ世界観の共有ができているか」の点が重要になるでしょう。

まとめ

以上,AIDMAではない一般的な消費行動論をもとに情報処理プロセスと意思決定プロセスに合わせてプロモーションのポイントを整理してみました。AIDMAのステップごとに施策を検討していくのではなく,まずは消費者に対してのアプローチ戦略として事前の世界観の共有(ブランド)があり,さらにどれだけストレスなく消費者の購買意思決定をサポートするかの仕組みつくりの両輪を戦略として検討しておくことが大切なのです。

また,ここでは詳しく説明はしませんでしたが,情報処理プロセスから意思決定プロセスに移行するポイント,つまり「いかにモチベーションを喚起するのか」という視点も忘れることができないプロモーションの視点の一つです。

ちなみに,AIDMAの次に出てきたAISASモデル<Attention(注意)⇒Interest(興味)⇒Search(検索)⇒Action(行動)⇒Share(共有)>ではどうなんだよ,という意見もあると思います。その考察については,また別にエントリーをあげようかと思います。

※今回の参考書です。消費行動論の教科書としては色々なところで使われていると思います。私も色々なところで参考,引用させていただいています。



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