つまらない人生が変わると思った時の話
本当は夢なんて無かった。
小6のときクラスメイトの前で自分が作ったコントをやってみんなが笑ってくれてからというもの、ずっとお笑い芸人になることが夢だと思っていた。
高校の時にも友達と漫才をやったし、ネタもよく書いていた。
だけど、やっぱり一歩は踏み出せずお笑い芸人になることが夢であったことも忘れ、ふつうに大学に通っていた。
映画館でバイトをしていたある日、1人の小綺麗なおじさんが話しかけてきた。
「君のおすすめの映画を教えてくれないか?」
「めんどいな。」と思った。
何を見るか決めてから映画館に来いよと。
ただ、時給が発生していたので上映中の映画をいくつか紹介することにした。
おじさんは楽しそうに僕の説明を聞いた。
「うんうん、それ面白そう。君、説明上手いね!観たくなってきたよ!」
「それはよかったです。どの映画になさいますか?」
「ごめんね。実は今日は時間がなくて、、、今度観にくるよ。」
殴っていいですか?と言いそうになった。
まじで何で聞いたんだよ。
てか、無料で情報獲得するとか失礼すぎんだろ。情報乞食かよ。
心の中で暴言を吐いているとおじさんはジャケットの内ポケットから名刺を取り出した。
「君の説明すごくよかったから、ぜひ名刺だけでも渡したくて。よかったら連絡してね。」
そう言って僕に名刺を渡した。
そして名刺を見ると「劇団四季」という文字があった。
え?情報乞食じゃなくてすごい人?と思った。
夢も希望もなかった僕にはその名刺が光り輝いて見えた。
この人は劇団四季の偉い人。
認められた僕。
もしかしてこれは人生の転機か?
劇団四季。
学校の行事で観に行ったくらいの知識しかないけど、エンターテイメント業界にはとても興味がある。
よくわかんないけど演出の仕事とかすごい楽しそうだ。連絡したら稽古とか見せてもらえたりするのかな?
僕の妄想は頭の中で飽和するくらい広がって脳みそが結露した。
「ぜひ連絡します!またお越しください!」
僕は幸せな気持ちでおじさんを見送った。
こんなこともあるんだなと思っていると休憩時間になった。
タバコに火をつける。
いつもよりゆっくり煙を吐き出した。
こんな形で夢が見つかるなんてな、、、
早速先程のおじさんに連絡してみようと思った。
もらった名刺を取り出す。
ん?
ん???
劇団四季、、、
ん?????
は?????
Driver??
ド、 ド、 ドライバー???
そう、さっきのジジイは
劇団四季が好きなだけのドライバーだったのだ。
色を塗って隠したところには
●● CLUBと書かれていた。
僕が劇団四季の偉い人だと思った人は
キャバ嬢を家まで送るドライバーじじいだったのだ。
そしてよく見るとやかましすぎる謎のメッセージがいくつも書いてあった。
何が、Feeling 未来だよ。
未来なんか感じてないで、ちゃんと周り見て運転しろよと思った。
クソジジイにもほどがある。
珍しく頭に血がのぼった。
しかし、怒りが落ち着くと僕は自分を恥じた。思い返すとじじいは何も言っていない。さりげなくキャバクラの勧誘をしてきただけだったのだ。
悪いのは全部僕だ。勝手に脳みそを結露させたのだ。
当たり前だが、そんな簡単に夢は掴めない。たくさん努力して夢は叶う。そんな当たり前のことを僕は忘れていたのだ。
この出来事は人生で最大の汚点となった。
劇団四季に謝れ 情報乞食くそじじい
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