歴史はどこまで遡るべきか? パレスチナ問題を1本の記事から考えてみた
ganasが主催する根強いファンがいるプログラム「途上国ニュースの深読みゼミ」(11期)がきのうスタートしました。初回で取り上げた記事はこちら。
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「世界有数のユダヤ系社会に動揺 アルゼンチン、異論認めない雰囲気も」
いまのパレスチナ問題について上の1本の記事をもとに、みんなで「調べてわかったこと」「疑問に感じたこと」「考えたこと」の一部を殴り書きでご紹介します。わずか2時間で深掘りした内容です。ソースは割愛。
・アルゼンチンは、イスラエルを除き世界で5番目にユダヤ人が多く住む国(トップ4は米国、フランス、カナダ、英国の順)。ただ実は先住民のほうが多い。ちなみにアルゼンチンは、“新大陸”に渡った欧州人たちが先住民を大量虐殺した歴史をもつ国。国民の大半は白人(一部の欧州諸国よりも白人の比率が高いかもしれない)。
・「アルゼンチンのトランプ(極右)」といわれるミレイ新大統領(まだ就任していない)はすでに、駐イスラエル大使館をエルサレムに移すなど「イスラエル寄りの方針」を強く打ち出している。ただ左派の現政権はイスラエルを非難する声明を出した。これを批判するのが、アルゼンチンにあるユダヤ系団体「在アルゼンチン・イスラエル協会」(DAIA)。
・DAIAのSNSなどを見る限り、親イスラエル(反パレスチナ)運動はそこまで盛り上がっていないようだ。ただハマスについては「ハマスはイスラエル人を強姦する」といった過激な投稿も。だが「いいね」はあまりついておらず、またフォロワーも少ない。
・今回のハマスの攻撃で亡くなった外国人をみると、タイが39人と圧倒的に多い。その多くが出稼ぎ労働者。貧しいゆえに巻き添えをくってしまった(イスラム圏からイスラエルへは出稼ぎに行かない)。アルゼンチンも9人と上位。
・アルゼンチンはユダヤ人だけでなく、実はナチスの残党も多く受け入れている。その理由は、当時のペロン大統領(アルゼンチンの政界を牛耳るペロン党<正義党>の創設者)はファシズムの影響を強く受けていたこと、彼らがアルゼンチンの経済発展に寄与すると考えていたことの2つ。
・南米にはまた、パレスチナ人も相対的には多く移住している。その筆頭が、アルゼンチンの隣国であるチリ。チリは今回、駐イスラエル大使を召還させた。
・SNSの投稿を言語別にみると、ドイツ語のみ「親イスラエル」の投稿が「親パレスチナ」を上回っているという。ホロコーストの反省が表れているのだろうか。
・パレスチナの国土は76年前(1947年)に分割されて以来、その大部分を失った。このまますべてを失う運命にあるのか。本当にこれでいいのか。
・ただイスラエルの立場からすれば、2000年以上前にローマ帝国に占領(追放)された歴史をもつ。ユダヤ人はそれ以来、東欧や西欧などで差別を受けながら長年ひっそりと暮らしてきた。
・ユダヤ人が虐殺されたのはホロコーストだけではない。ロシアのポグロムもある。壮絶な過去をもつ彼らが「安住の地」を強く求める気持ちはわからなくもない。
・シオニズム(イスラエルにユダヤ人の国を作ろうというもの)とは明確に何を意味するのだろうか。現状のイスラエルでは不満なのか。国民の70%超がユダヤ人の国ではダメなのか(一昔前までの米国の白人比率とほぼ同じ数字)。イスラエルに残ったパレスチナ人を差別するのもシオニズムの一部なのか。
・パレスチナ人にとってみれば、イスラエルにとどまっても、ガザ地区やヨルダン川西岸地区に住んでも、どこに行っても地獄。どうしろ、というのか。ユダヤ人が過去にされてきたことを、今度はユダヤ人がパレスチナ人にしているように映る。ユダヤの国を滅ぼしたのはローマ帝国なのに。
・イスラエル側につくのは欧米諸国といった「強者」。少なくともここ70年でみると、イスラエルの横暴は明らか。けれどもイスラエルは経済制裁を受けない。ウクライナに攻め込んだロシアは強く批判される。世界に正義はあるのか。正義なくして、テロはなくなるのか、平和は訪れるのか。
・欧州諸国は、パレスチナ難民が欧州に押し寄せることを恐れている。ウクライナの件もそうだが、世界の出来事はつながっている。各国は、正義や平和よりも、自国の損得(国益)を優先的に考えているように見える。
・歴史はどこまで遡るべきか。それによって見方・考え方は変わる。たとえば大航海時代に、欧州諸国は“新大陸”の先住民を大量虐殺した。いま残る先住民は力が弱いためハマスのように攻撃できない。バックもいない。ハマスには、イスラエルと敵対するイランをはじめ、一部の中東諸国がつく。ただ近年は、イスラエルと国交を結ぶ中東の国が現れてきた。この動きがハマスを焦らせ、今回の攻撃につながったのではないか。
・ラテンアメリカではいまだ、メキシコのサパティスタ民族解放軍に代表されるように、先住民による抵抗運動が残っている。また、ラテンアメリカでは近年、コロンブスをはじめとする「侵略者」への評価がプラスからマイナスに変わりつつある。メキシコシティではコロンビアの銅像が撤去され、先住民の女性像が代わりに設置された。
・国をもたないとはどういうことか。たとえばトルコに多いクルド人。トルコ政府はクルド勢力をテロ組織と呼び、弾圧している。クルド勢力を支援してきたフィンランドとスウェーデンがNATOに加盟しようとしたら、トルコはずっと反対してきた。しょせん世界の政治は弱肉強食なのか。だとすれば、国際問題のすべての根っこはここにあるのかもしれない。
・イスラエルとパレスチナは1993年、イスラエルを国家として、PLOをパレスチナの自治政府として互いに承認する「オスロ合意」を結んだ。だが両国には「この歩み寄りは甘い」と批判する人たちが一定数いて、その後、イスラエルのラビン首相は暗殺された。パレスチナ側でもハマスがテロ行為を始め、支持を拡大していった。·
・平和のために歩み寄る(話し合う)と、国内で反発が起きてしまう。これが難しいところ。インドのガンジーが殺されたのも、「イスラム教徒に甘い」と考えた人たちがいたからだった。ただインドの歴史をたどると、英国に支配される前のムガール帝国はイスラム国家だった。
・分断する世界。分断の要因のひとつが「歴史」にあるとすれば、歴史は教えないほうがいいのか。教えるべきだとすれば、「事実」(見方によって何が「事実」かは難しそう)と「感情」を切り離す必要がある。大河ドラマは物語をおもしろくするために感情が入り込んでいるから、そこは問題といえるかもしれない。
・分断の文脈でいうと、第二次世界大戦の後、南北アメリカの日系社会では、戦争に「日本は勝った」「日本は負けた」という、いわゆる「勝ち組」「負け組」に分かれて激しい対立が起きた。移民した国で差別と闘ってきた日系人にとって心の拠り所は「日本」。ユダヤ人とシオニズムに通じるものを感じる。
・分断の理由のひとつが「宗教」だとすれば、もっと自由に改宗できればいいのかもしれない。ただ国によっては、宗教は文化・国民性に根付いている。宗教だけを分離させるのは現実的か。たとえばインドでは独立当初、カースト差別を明文化した憲法をつくったアンベードカル(ダリット出身)が、ダリットが差別から逃れられるようにと、仏教へ改宗しようという運動を展開した。ただ現代のインドを見る限り、効果はどうなのだろう。
・米国を目指すラテンアメリカの人たちを、エジプトから逃れたヘブライ人(ユダヤ人)のモーゼにたとえた歌がある。「モーゼの母たち」。歌い手はグアテマラの国民的歌手リカルド・アルホナ。
https://www.youtube.com/watch?v=XGqcpjuXaR8
・改めて最後に一言添えるならば、歴史はいつまで遡る(いつからみる)べきなのか。2000年前からみれば被害者はユダヤ人、70年前からみればパレスチナ人が被害者。歴史問題の根幹をわかりやすく突き付けているのがパレスチナとイスラエルの対立ではないか。
・ただ過去ばかりにとらわれていると解決できない。とはいえ現在は過去の積み重ね。建設的な解決策を考えるなら、過去を少し切り離して、突拍子もないアイデアを出すしか道はないのかもしれない。
ほかにもいろいろありましたが、ざっとこんな感じです。2時間でけっこう盛りだくさんですよね?
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