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世界的に元気ばりばりの「毛髪ビジネス」を考えてみた! かつらを被って国際協力?

ganasがこの春開講するプログラムのひとつ「メディアのプロと一緒に学ぶ!『途上国ニュースの深読みゼミ』」がスタートしました。今回が第13期。全4回のオンラインプログラムのため、お手ごろだと好評です。

深読みゼミでは毎回、グローバルサウスにかかわる1本の記事(日本語)を取り上げます。2時間という制約のなかで、それぞれ気になったところを調べ、それをシェアし、記事について意見を言い合う、というのが内容。1本の記事を起点に思考を広げ、世界を俯瞰して見ることを目指します。

初日にみんなで深読みした記事のタイトルは「インドの毛髪産業、密輸急増で打撃」(4月2日付日経新聞)。

ご存知でしたか? 付け毛に使われる「毛髪(人毛)」はれっきとした産業になっていて、密輸まで行われていることを。この記事を出発点に、みんなで調べてわかったことを下に箇条書きにします(抜粋)。

・人毛は先が明るい市場! 人毛のグローバル市場規模は2023年で44億5000万ドル(約6800億円)。2032年には107億8000万ドル(約1兆6500億円)と向こう10年で2.4倍に増大するとの予測がある。

・市場の伸び率は年平均10.4%。これはインデックス型ファンドの利回りよりも良い。人毛は有望な投資先?

・人毛のグローバル市場規模をイメージしやすいよう比べるなら、ZOZOの2022年の取扱高(5443億円)より少し大きい感じ。人毛市場は決して小さくない。

・人毛の逆の業界といえば「脱毛」。脱毛のグローバル市場規模は2022年で11億4000万ドル(約1700億円)。意外にも、人毛市場の4分の1しかない。2032年の脱毛市場は18億9000万ドル(約2800億円)になるとの予測だが、伸び率も人毛に比べると低い。

・似たような業界だと「歯列矯正」がある。2022年のグローバル市場規模は169億ドル(約2兆5800億円)。こちらは人毛のおよそ4倍。2032年には537億ドル(約8兆2200億円)に達する見通し。市場の伸び率は年平均12.3%と人毛を上回る。

・美容にかかわる業界は、「経済成長」「人口増大」「高齢化」を追い風に今後も伸びそう。世界人口は2022年に80億人を突破したが、2058年ごろに100億人を超えるとの予測も。いわば“約束された市場”。

・人毛を最も輸出している国はどこか。2022年の輸出国トップは意外や意外、シンガポールだった。シェアは22.8%。2位は僅差でインド(同22.2%)。3位が中国で同13.2%。このアジア3カ国で全体の6割近くを占める。

・ちなみにシンガポールの人毛の輸出先の75%はオーストリア(!)、24.9%はインドネシアだった。インドの輸出先はミャンマーが72.6%、イタリアが18.7%。また、中国の輸出先の42.8%はシンガポール。これは、シンガポールは中国から人毛を輸入し、それを処理し、オーストリアに輸出していると読み取れる。

・驚いたのは、2022年の人毛の輸入国トップはオーストリアであること(シェアは23%。なぜかまでは2時間では調べきれなかった)。2位は僅差でミャンマー(同22.2%)。3位はイタリアの9.78%。欧州から2カ国がランクインした。

・欧州の男性は薄毛率が高い。アデランスが2009年に発表した「世界の成人男性薄毛率」によると、トップはチェコの42.79%。以下、スペイン(42.6%)、ドイツ(41.24%)、フランス(39.24%)、英国(39.23%)と欧州諸国が続く(オーストリアは調査対象に入っていないようだ)。アジアトップは日本(26.78%)。ちなみにタイ(バンコク)は23.53%。マレーシア(クアラルンプール)は22.76%、中国(上海)は19.04%と案外低かった。

・有望な市場は、男性をターゲットとする場合は欧州か。女性をターゲットとする場合は、付け毛(高価な人毛以外にも、安価な合成繊維がある)の利用が一般的なアフリカだろう。アフリカの人口は2050年までに世界人口の4分の1に、今世紀末には6割以上に達するといわれる。
 
・人毛の価格は高騰している。加工後の25センチメートルの人毛1キログラムの値段は7万5000~8万円ぐらい。ここ10年で1.5~2倍になったとのこと。
 
・薄毛人口は今後も、高齢化や食生活、ストレスなどの影響から増えるとの見方が濃厚。
 
・薄毛対策として一般的なのは、人毛を使う「付け毛」と「AGA治療」「植毛」の3つがある。

・AGA治療の費用は毎月1万5000円~2万5000円(年間だと18万~30万円)かかる。AGA治療には終わりがないため、ずっと続く。かつらの値段が20万円だとすれば、AGA治療の1年分に相当するので、経済的にはかつら(人毛)に軍配。

・植毛はどうか。世界屈指の植毛先進国といえばトルコ。メディカルツアーのひとつとして国を挙げて植毛ツーリズムを推進。いしだ壱成もトルコで植毛するなど、ツアーは人気。費用は55万円ぐらいから。この価格はAGA治療のおよそ2年分、かつらでいえば3つ分。経済的な優位性は、少なくとも短期ではかつら(人毛)にある。

・人毛は実はオンラインで普通に取引されている。英語のアマゾンのサイトをみると相場は1束26~28ドル(3900~4200円)。中国のアリババでは、いろんな国の人毛が選べる。マレーシア、ブラジル、インド、ペルー、モンゴルなど‥‥。

・人毛はいまや、その価値の高さから「黒いダイヤ」といわれる(最高級の本マグロと同じ異名をとる!)。アジアの人毛が欧州やアフリカへ。

・貧困層にとっては自分の毛髪を売ってお金を稼げるとしたら、それは良いことのような気がする。ただ強制されたり、髪が速く伸びる薬が出てきたりしたら問題が起きるかもしれない。倫理的にはどうなのだろう。

・ヒンズー教では、神への捧げものや輪廻転生の象徴などとして、自らの髪を寺院に寄進する習慣がある。寺院にとっては重要な収入源のひとつ。毛髪の密輸が急増すると宗教活動にも影響が出てくる。

・いまはインドやバングラデシュなどで革製品を作って日本市場で売るビジネスが「国際協力」としてもてはやされているが、将来は貧困家庭の出身者の人毛を付け毛に加工し、先進国で売るというソーシャルビジネスが誕生するかもしれない。かつらを被って国際協力。その人毛の持ち主(貧困家庭)を支援する形で、毎年届けてもらうといったサブスクによる国際協力も可能か。

深読みはこんな感じです。いかがでしたか? 読み方ひとつで、1本の記事から、想像以上にいろんなことがわかり、考えたりできるのです。これを毎週やります。

次回の開講は5月(14期)。一緒に深読みしてみませんか? リピーターも多いプログラム。グローバルサウスに関心のある方におススメ!

【〆切5/2】メディアのプロと一緒に学ぶ!「途上国ニュースの深読みゼミ」(4月、5月、6月、7月)受講者募集