タイトル_グランメゾン

『グランメゾン東京』:北風と太陽の演技法。

「おー!キムタクが帰ってきた!」

それが『グランメゾン東京』の第1話を観た時の最初の感想でした。以来毎週なんだか夢中で見てしまってます。
日本のドラマにしては登場人物同士の気持ちのやり取りがしっかり&さりげなく描かれてる。しかもそれが台詞とか脚本上の仕掛けではなく、目線や空気のやり取りとか・・・ちゃんと演技の方で。

そう、キムタクはこの「気持ちのやり取りの演技」の達人だったんですよねー。最近あまりやってくれてなかったんだけど、今回はひさびさにガッツリやってくれてる。
てゆーかこのドラマ、どの俳優さんもいつもの2割増くらいでイイと思うんですよね。 主要な登場人物の多くが日本のドラマにありがちな「自分の感情をぶつける~感情の演技」ではなく、「相手の気持ちをケアする~感覚の演技」で演じられている。
それがこのドラマの週刊漫画連載っぽい、ちょっと分かりやす過ぎる人物配置とストーリー展開に、膨らみをあたえてるんだと思います。

いや会話シーンの撮影・編集も素晴らしいんですけどね。とりあえず今回は演技ブログらしく、『グランメゾン東京』の第3話までを見ての演技についての感想を書きたいと思います。

テーマは「感情で演じるか/感覚で演じるか」です。

画像1

画像3

演技ワークショップをやる時、ボクはよくキムタクの演技を手本に「相手をケアする演技」を教えてました。ボクが好きなキムタクの演技ってある種の黄金パターンがあるんですよ。

それは「相手を見て、空気を読んで、でもその空気を飛び越える行動をする」です。

いろいろ思い当りますよねw?
原理としては「北風と太陽」なんです。 相手役の心を動かすシーンでの演技で、自分の感情をバンバン相手にぶつけて相手の心を動かそうとするのではなく、逆に相手の気持ちを汲み取って地味にケアする、すると勇気づけられた相手の心がぐらりと動く。
実際に相手役の俳優の心を開放するんですよね。そしてこれが同時に見ている視聴者の心も開放する。

そう、キムタクの料理してる演技が素晴しいのは、料理中の彼の目が本気で鍋の状態を観察しているから。そしてしかるべきタイミングでしかるべき手を加える・・・人間相手だけでなく料理相手にもこの「相手を見て、空気を読んで、でもその空気を飛び越える行動をする」をしているんです。

画像3

画像4

「感情(=アウトプット)」ではなく「感覚(=インプット)」を使って演じる演技法。

まず五感を総動員して相手を繊細に観察してその状況や心情を察する・・・つまり「感覚をつかう」演技です。 そして相手役の心の動きを繊細に観察しながら相手役の心にちょこっとだけ入り込んで、相手役の心を動かす言葉や行動を小さな小さなボリュームで伝える。それが相手役の心を大きく動かす。

すごく繊細で超優しい・・・そりゃあ尾花が登場人物みんなに「あいつは最低の人間だ!」って言われても、視聴者はいまいちピンとこなくもなりますよw。
だって相手の気持ちをしっかり「見て」、「察して」、で「行動して」ますからね。そんな最低の人間っていないでしょ(笑)。 現実世界の最低な人間って、相手のことをよく見ずに、相手の事情も察せずに空気も読まずに、自分の思う良し悪しで判断して相手を切り捨てる人間のことじゃないですか。真逆なんですよねー(笑)。

だってキムタクの演技には行動の前に、あきらかに空気読んでるリアクションが一回挟まってますからねー。倫子・京野・相沢たちと会話してる時は特に。相手になじられても、尾花は彼らの事をしっかり観察していて「彼らの事情を理解した表情」してますからねー。
なぜか平古(玉森裕太)との会話の時だけはそうでもないんですよねー。先輩風を吹かせて有無を言わさぬアドバイスしまくり(笑)・・・ようするに仲間思い。

まあこの演技がドラマ後半への伏線になるのかもしれませんが。 だってもうすでに第1話の段階で、仏官僚を殴ったのはじつは移民の仲間たちのことを思っての事だった!って描写ありましたしねー。
それはきっとこの『グランメゾン東京』がキムタク演じる尾花夏樹の成長の物語なのか、それとも尾花夏樹の真実が紐解かれてゆく物語なのか・・・どっちのドラマに脚本が展開してゆくかによるのでしょう。

画像5

画像6

尾花夏樹の「感覚」の演技とは対照的に、鈴木京香演ずる早見倫子は「感情」の演技で演じられていますね。

倫子の特殊能力は「食べた料理の素材と調理工程がわかる味覚の持ち主」なんですが(この特殊能力ってあたりがヒジョーに漫画原作っぽいw)、鈴木京香は「味を観察する」という「感覚(=インプット)」の演技をほとんどしていないんですよね。彼女が演じているのはいつも「おいし~!」っていう「感情(=アウトプット)」の演技です。

彼女が毎回全身を震わせて美味しさを表現するのが、倫子という女性の純粋さの描写でもあり、ウザさの描写にもなっていて・・・あ、こういう人いるな~っていう・・・魅力的ですよね(笑)。

画像7

画像8

沢村一樹さんは、いつもは比較的「キャラ」を意識した演技が多い俳優さんだとボクは思っているのですが、今回の『グランメゾン東京』では「キャラ」よりも「感覚(=インプット)」を優先して演じている感じがして、いつもより瑞々しく感じてます。

ギャルソンという観察とコミュニケーションが仕事の役だというコトもあるんですかね。人や状況を見ている瞳がとても魅力的です。

画像9

手塚とおるさんも同じですね。今回は(これでも)「キャラ」は控えめw。相手を魅力的に丸め込むことで操ろうとする人物を演じるには、やはり観察とコミュニケーションですからね。話しながら相手が自分のことをどれくらい信じているかをチェックするジトーッとした目が凄いですw。

あと今回みたいにキャラを抑えた演技をすることで逆に「あーこういう人いるいる」って感じに人物像が際立って見えるってことがあるんだなっていう、それが非常に興味深いです(笑)。

画像10

しかし尾花、このドラマ内でも第1回第2回第3回とどんどん目の表情が柔らかくなっていってますよねー。 俳優の目が緊張から自由になることで「見る」ことでインプットされる情報量が格段に増えて、役の人物の心の動きの表現が豊かになってゆくんですよ。

キムタクはここ数年、特に『BG〜身辺警護人〜』『検察側の罪人』あたりでは「感覚(=インプット)」よりも「感情(=アウトプット)」のほう中心で演じていたとボクは思います。役作りもあるんでしょうが相手に感情をぶつける演技が多かったし、それ以上に目の表情が険しかった。

それ以前のドラマや今回の『グランメゾン東京』で、相手の表情を観察してその心情を汲み取るために使われている時間が、自分の感情を大きく練り上げるために使われていた感じです。とくに『検察側の罪人』ではその時間の目線が相手ではなく中空を見ているんですね。これは自分の心の中の感情と向き合っている時の俳優の状態です。

もちろん中空を見て「感情で演じる」俳優さんは日本には多いし、それはまったく悪いことではないのですが・・・ボクは「感覚で演じている」彼のほうが好きでした。『北風と太陽』の太陽のように相手の心を優しくケアするような・・・そんな彼がまた見れるなんて嬉しいじゃないですか。

画像11

さてさて今後の『グランメゾン東京』は、尾花のフランス時代の恋人リンダ・真知子・リシャール(冨永愛)と尾花とのやりとりとかが楽しみですよねー。だってあの2人がお互いにどんなケアをするのか全く想像つかないですからねー(笑)。楽しみに見てゆきたいと思いまーす。

最後に俳優のみなさんに。

演技で相手とコミュニケーションするのって結構な苦戦をするとこじゃないですか。どんなに感情を込めてセリフを喋っても形だけの空虚な思いやりになってしまいがちです。

そんな時は相手をケアすべきだ、とボクはキムタクの演技から学びました。
相手をよく観察して、相手の事情を理解して、適切な距離感からちょっとだけ入り込んだ距離感で。 やってみると面白いですよ、相手の空気が変わりますから。 お試しあれ!

小林でび <でびノート☆彡>


<<<関連記事>>>

ブログ検察側の罪人


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?