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生 放浪

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一番下の"あおぞら"から、時系列でつながっています。
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#エッセイ

遊び心と きみの声を

遊び心と きみの声を

《地下アイドルの記録-ラスト-》

卒業ライブは六本木beehiveでやってもらえた。
ここでデビューライブもしたし、私にとってはアイドルの始まりの場所だ。
ハリーポッターの談話室のような薄明るい楽屋でメンバーと化粧しながらお喋りしたり、"あんな曲やりたいな!!"と先輩アイドル達のライブを興奮気味に眺めたり、螺旋階段にもフロアにも、思い出が沢山つまっている。
だから、ここでやってもらえるというのは

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もう一度、はねっつの、ないよ ないね、YEAH

もう一度、はねっつの、ないよ ないね、YEAH

《地下アイドルの記録⑩-卒業までのカウントダウン-》

仲直りしてからの私たちは出逢い直したように、もう一度ありったけのエネルギーを持ちよって、一緒に過ごすようになった。

冬がやってきて、日が落ちるのが早くなっていた。カンペキに真っ暗な夜こそ本領発揮という感じで、ライブが続く日々を、モコモコと上着を着こんではじけるみたく歩いた。
表参道というオトナで綺麗な街でライブがあった時には、待ち時間に"小

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それでも僕は君のこといつだって思い出すだろう!

それでも僕は君のこといつだって思い出すだろう!

《地下アイドルの記録⑨-薄暗いステージ裏からもう一度-》

私が数ヶ月後に辞めることが決まり、メンバーの怒りは徹底的なものになった。
毎日のように笑い合ったり、ガストやコンビニに寄ったりして過ごしていたのが夢だったかのように、もう口をきくことも、一緒に移動することもまったくなくなった。
ただ卒業までの間は一緒にライブに出続けるから、どうしてもmcの分担や演る曲は共有されなくちゃいけなかった。私はと

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私の名前はかわい子ちゃん/おバカさん

私の名前はかわい子ちゃん/おバカさん

《地下アイドルの記録⑧-メンバーとの亀裂-》

グループを辞めさせてください、と社長にLINEした時、もちろんだけれどとても反対された。説得もされたしどうして辞めたいの?と聞かれたけれど、どうやったって明確な答えが返せなかった。ただ、"もう辞めなきゃなんだ"と確信してしまった。それをもっと色んな考え方で考え直すことがどうしてもできなかった。
まるで、それまで岸と船とを繋げていた糸がプツンと切られて

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三日月がゆらりついてくるよ

三日月がゆらりついてくるよ

《地下アイドルの記録⑦-ランナとハルカ、私のよわさ-》

とにかくいつも三人だった私たちだけど、あるグループとよくセットでライブを組んでもらうようになった。
私たちと同じ三人組で、思いきり足を開いたりするフリもあるような楽しい曲が多い原宿系のグループだ。
メンバーは、声が可愛いらしいけれどしっかりしたリーダーと、名前をあてるなら、美人でさばさばした"ランナ"、とにかく頑張り屋で太陽みたいに元気な"

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うちらがハイになってる時 どこにいたの

うちらがハイになってる時 どこにいたの

《地下アイドルの記録⑥-昼間の私、地下で出会ったファンの方々のこと-》

私たちはいつも三人で、都内のいろいろなライブハウスを回った。
ライブハウスは渋谷や秋葉原などのアイドルが集まる王道の場所もあったし、こんな機会じゃなくちゃ立てなかったような印象的なステージもいくつかあった。
駆け出しのお笑い芸人と一緒に出た、新宿の真っ暗な地下にあるお客さんとゼロ距離くらいの近さのステージ。私が好きだったヴィ

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風も光も味方にして

風も光も味方にして

《地下アイドルの記録⑤-ライブがある日の一日-》

私たちはみんな昼間は大学生だったから、それぞれ別の場所からやってきて、日が落ちる頃にライブハウスで集まった。
現場では時間に関係なく挨拶は「おはようございます」だと言われていたから、放課後にライブハウスに着いてこの挨拶をすると、昼間の大学でのことは夢みたいにきえてしまった。そして、もう一つの"今日"が始まるような感じがしたな。
そんな、ライブがあ

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踊りましょう 夢の中へ

踊りましょう 夢の中へ

《地下アイドルの記録④-五人から三人へ-》

五人で走り出したグループだったけれど、デビューして一、二か月もたたないうちに、続けて二人のメンバーが抜けた。
セクシーなお姉さんと気の強い年下の子だ。
私は辞める寸前にBeehiveのソファでぐったりしているところや、下で社長と何か言い合いをしているのを見たきりで、なんか不穏な感じだなと思ううちに、いつのまにか抜けることが決まっていたらしい。
Twit

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長い夜が明けた 朝陽のように

長い夜が明けた 朝陽のように

《地下アイドルの記録③-デビューライブ-》

私たちのデビューライブは、六本木のBeehiveという地下ライブハウスだった。
Beehiveは、事務所が定期的にやっていた所属グループだけの主催ライブで使われていて、言うなればホームのような感じだ。
主催ライブには事務所を昔から知っている古参のファンが多く来てくれる。彼らにまずちゃんと知ってもらうためにも、私たちのグループはその主催ライブでのお披露目

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名前をつけてやる

名前をつけてやる

《地下アイドルの記録②-グループ結成、芸名をつける-》

正式に事務所に所属することが決まると、そこからすぐにデビューに向けての準備が始まった。

まずは、新しいグループで顔合わせ。
ということでメンバーと初めて会ったのは、渋谷桜丘の線路沿いの地下にひっそりとあった、事務所のスタジオだった。写真撮影会やレッスンで使われていた場所。
今はもう再開発でいっせいに建物が立退になってすっかり姿が変わってし

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風船ガム ぱちんって 弾けたら 出かけよう

風船ガム ぱちんって 弾けたら 出かけよう

《地下アイドルの記録①-オーディション-》

大学入学とほぼ同時に、私はライブアイドル、ううんもっと言うと、"地下アイドル"になった。少し前にはAKBやでんぱ組など地下のライブハウスからブレイクするアイドルが出てきたこともあり、大小いろいろの事務所や、SNSから発信で広まるアイドルが激増した《アイドル戦国時代》とも呼ばれる時代。
十八才は、その中に飛びこんだ。
前回の記事まででつらつらと書いた、ず

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思春期エイジ かきかえOK

思春期エイジ かきかえOK

高校一年生の途中から始まった私の〈自分磨き計画〉は、結果から言うと、ちゃんと実を結んだ。

明るくてポジティブで、見た目もパーフェクト。
掲げていたのはそんなちょっと完璧すぎるイメージだったけれど、そうなりたいと思ってうたがわない時、とても強いパワーで進んでいける。
毎日研究&反省会をくり返して、華のセブンティーンになる頃には、周りから「すごく変わったね」と言われるようになった。「明るくなった」「

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目の前にはいつもヒントがあり

目の前にはいつもヒントがあり

二〇一二年。日本列島の、東京、その片隅の、高校の校舎の三階の、手前から三番目のうすぐらいトイレの中。まけてばかりだった女子高生はひとしれず〈生まれ変わる〉決心をする。ぐにゃりとねじれよごれたイヤホンを通して、毎日毎日、ロックスターが、歌姫が、歌い続けたのだ。世界を変えたいなら自分が変わるんだぜ、と。

そうやってなんとか起きあがった私が、何より克服しなくちゃいけなかったのは、何より"自信のなさ"だ

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7 days war

7 days war

”mixiをやっていたから”。そんなつながりで結成された高校ではじめてのグループは、ふたを開けてみるととても気の強い子たちの集まりだった。

当時を振り返ってみても、一学年にさまざまな女の子グループがあった中で、私は身内だったからとかではなく一番くせのあるグループだったのではないかと思う。
彼女たちはクラスの中心的な存在で、とにかく人をばかにしてばかりいた。
見た目をけなしてあだ名をつけたり、気に

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