ナッジ4(インセンティブ設計):行動経済学とデザイン44
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ナッジ4(インセンティブ設計):行動経済学とデザイン44

ナッジは本人が気づかないくらい、自然に行動を促すことが理想です。でもユーザーが自覚して意思決定する場合には、インセンティブ(報酬)設計の考えが欠かせません。

0ベース思考

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スティーヴン・D・レヴィット、スティーヴン・J・ダブナー (著)
櫻井祐子(訳)
ダイヤモンド社 2015.02

人はインセンティブに反応する

この本のシリーズで一貫した信条は、インセンティブ(報酬)です。「ある特定の状況に関わる全当事者のインセンティブを理解することが問題解決の基本だ」といいます。

例えば、保険は、費用対効果が直接的なインセンティブですが、入らないことによる心理的不安や、他人と比較して自分が一番お得に感じるなど、交換条件にはユーザーの気持ちにも大きく関わってきます。

インセンティブ設計06

インセンティブの選択肢

インセンティブにはいろいろな種類があり、直接的で表裏のない意思(表明選好)あれば、口では言わなかったりや自分でも無意識である意思(顕示選好)もあります。大分類で代表的なのはこのようなもの。

1. 金銭的インセンティブ
2. 道徳的インセンティブ
3. 社会的インセンティブ
4. 群集心理インセンティブ(ハーディング効果

1に近いほど自身の直接的な満足度につながり、4にいくほど周囲との関係を意識するようになります。安易な(従来の経済学的な)考えだと全て1で解決しようとしがちですが、4がいいこともあります。

名著『影響力の武器』の著者である、チャルディーニが行なった実験があります。省エネに対して、群集心理で「多くの人がやってますよ」といっても反応は低かったけど、言葉を変えて「ご近所の皆さんと省エネを進めましょう」というと、1−3を圧倒して一番の効果を発揮したのだそうです。単にどれが適切かだけでなく、どう伝えるかをデザインすることも、効果には強く影響します。

インセンティブ設計02

インセンティブの設計のコツ

アメリカの靴の通販で知られるザッポスは、本採用前にオファーするか辞退するかを自身で選べる制度を取り入れました。研修を終えた時点で次の条件を提示します。

・給与1カ月分(2000ドル)をもらって辞める
・もらわずに仕事をする

これは、金銭的インセンティブと社会的インセンティブを天秤にかけたテストです。ザッポスは社内文化を重視しており、短期的な利益が強い動機になる人は望んでいません。なので、どちらの選択肢であっても、本人にも会社にも望ましい結果となります。

仕掛学でも書きましたが、提供者と利用者の思惑はそれぞれ異なるので、お互いのインセンティブを理解することが、設計の起点となります。

インセンティブ設計03

寄付だってインセンティブが効く

寄付は利他的な行為で、インセンティブと無縁と思うかもしれません。でも実は、すべてそうとは限りません。大きく3種類に分かれます。

1. 人は純粋に利他的で寄付する
2. 慈善団体に寄付することで満足感を得る(温情的利他主義)
3. 寄付を求められると社会的圧力を感じて仕方なく寄付する

スマイル・トレインという、口唇裂手術をサポートする団体は、3を使いつつも、ずっと社会的圧力を感じ続けさせない施策によって、多くの寄付を集めることに成功しました。

それは「これっきり戦略」と呼ばれる、「いますぐ寄付をお願いしてくれれば、2度と寄付は求めません」というものです。こう伝えたところ、寄付の割合は倍になり金額も増えました。(続けたい人は継続して寄付したし、これっきりの人は高い割合で払ってくれた)

これができてない寄付のサービスは多く見られます。代表例として、ウィキペディアの寄付は「これっきり」がありません。

他のサービスでも、ほとんど迷惑メールのようなお知らせがきますが、こういったインセンティブを使うことで両者によりよい関係性をつくることだってできます。

逆効果にはご用心

インセンティブが暴走して、かえってマイナスになる結果を生み出すこともあります。これを『コブラ効果』といいます。本書で紹介されている事例(超おもしろい)を抜粋して書くと

植民地時代のインドでコブラが大量発生していることに頭を悩ませ、イギリス人領主は懸賞金を出すことにした。するとインド人は懸賞金目当てで、コブラを繁殖させ飼育するようになった。そして賞金が廃止されると、養殖者はコブラを逃した。(つまり以前よりもコブラが増えた)

もう、ほとんどギャグですが、いまでも環境問題で政府の施策には、このようなバッドエンドの事例はいっぱいあります。CO2排出規制や、森林保全とか。その原因は、だいたいがお互いのエゴのインセンティブだけで動いている関係だからです。

注意するべきは次の4点です。

・裏をかこうとする人(絶対出てくる)が束になるとかなわない
・行動を変えたい人は自分とは違う考えを持っている
・ルールが変わると行動も変わる(アンダーマイニング効果
・操られている感があると反発したくなる(心理的リアクタンス

なので、ユーザーを性善説で盲信してしまうのは危険です。特に道徳心理や社会心理にはたらきかけるときに関係してきます。

インセンティブ設計04

インセンティブ実践のヒント

本書の中では実践のためのコツも紹介されています。

1. 本当の関心を突き詰める(発言を鵜呑みにしない)
2. 相手は価値を感じて自分が安く提供できる方法を見つける
3. 相手の反応を参考にして別の方法も試してみる
4. 相手との関係を敵対的枠組みから協調的枠組みにシフトさせる
5. 何かが「正しい」なんて思ってはいけない
6. 仕組みを悪用しようとする人は必ず現れる

これをデザイナーが実践する場合に置き換えて整理してみようと思います。

1. 本当の関心を突き詰める(発言を鵜呑みにしない):これは、ユーザーインタビューで活用できます。発言の裏の意図を読み解くために、本音を引き出すことが大事です。特にインタビュー後半で、一歩踏み込み、「ぶっちゃけどうですか?」とか「正直どう思います?」といった切り出し方がユーザーの本当の関心につながります。

2. 相手は価値を感じて自分が安く提供できる方法を見つける:ユーザー価値とビジネス価値を、それぞれ並べることで整理できますが、大事なのは提供方法のアイデアです。お金で解決するのは費用対効果が悪い方法です。群集心理を使うなど、解決策に頭をひねらすのはデザイナーの腕の見せ所です。

3. 相手の反応を参考にして別の方法も試してみる:プロトタイプ思考です。考えるよりも手を動かす。エンダウト・プログレス効果が参考になります。

4. 相手との関係を敵対的枠組みから協調的枠組みにシフトさせる:前に紹介した『内集団と外集団』の考え方が参考になります。敵の敵は味方。

5. 何かが「正しい」なんて思ってはいけない+6. 仕組みを悪用しようとする人は必ず現れる:ユーザーの仮説を立てるために、ペルソナやジャーニーマップを書くとき、どうしてもキレイな人物像と行動を描きがちですが、リスクを伴う商品やサービスの場合は、ネガティブ要因も抽出してみましょう。楽観視しない心がけが大事です。

インセンティブ設計05

まとめ

以上、4回にかけてナッジを紹介しました。人にはたらきかけるアプローチはいろいろあり、対象や状況に応じて使い分けられることが、デザイナーにのスキルに結びついてきます。

1. ナッジとは何か
2. デフォルト設定
3. 仕掛学
4. インセンティブ設計

・・・・・

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

今年1年、行動経済学とデザインをテーマに取り上げてみて、自分にとっても勉強になりました。来年は少しテーマや更新のペースを変えようかと思ってますが、行動経済学はまだまだ奥深いので、来年も気になったらとりあげてみたいと思います。

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ジマタロ

デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。

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デザイン・ストラテジーについて日々かんがえています。本・イベント・体験したことなどから気づいたことをグラレコメモを交えて感想を書きます。2018年までのアーカイブはこちら( https://designstrategy-studyroom.blogspot.com/