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心理的リアクタンス(やっちゃだめの反動):行動経済学とデザイン22

「押すなよ、ぜったい押すなよ!」

とダチョウ倶楽部のリーダーが言えば、押さずにはいられない

この作用を行動経済学では『カリギュラ効果』といいますが、これについてあまり深く書かれた本が見つからなかったので、心理学者の本から勉強してみました。

シロクマ

シロクマのことだけは考えるな!
植木恵理
マガジンハウス 2008.08

カリギュラ効果という名称は、1980年に上映された「カリギュラ」という映画が過激な内容のため、アメリカのボストンで上映禁止令を出したところ、人々はかえって興味を示して映画館に殺到したことから由来します。

より包括した言葉だと『心理的リアクタンス』となります。リアクタンスとは『抵抗』の意味で、電気抵抗などに使われる単語です。

ストーリーに効くリアクタンス

ダチョウ倶楽部の例にもれず、誰だって反抗した経験はあるはずです。

・立入禁止エリアを歩いてみた
・開けちゃだめと言われた箱の中を見てみた
・マナー講師に悪態をついてみた(機会あったらやってみたい)

リアクタンスは時代に関係なく人の根本的な行動心理で、昔から物語の定番の仕組みにもよく使われてます。

・旧約聖書:禁断の実を食べるアダムとイヴ
・鶴の恩返し:決して覗くなってあれほど言ったのに
・浦島太郎:だから玉手箱を開けちゃだめって言ってるでしょ...
・ロミオとジュリエット:禁断の恋だからこそ燃える、って...
・千と千尋の神隠し:お父さん、お母さん... !!

実生活でもリアクタンスが作用した例はたくさんあります。例えば「一人限定2つまで」とか「品切れ」なほど、あの手この手で入手しようとするし、映画のキャッチコピーでは「絶対に観てはいけない」とか。

心理的リアクタンス01

香川県のネット・ゲーム規制条例で本当に効果が出るのか、ぜひ調査してもらいたいものです。(単年調査でなく20年くらいの期間で調べて、成人してから反動が出ないか、まで)

なんで反抗したくなるのか

リアクタンスは誰もが生まれつき持っているもののようです。冒頭の本によると、3〜5歳の子どもを対象としたオモチャを選ばせる実験では、数あるなかで禁じられたオモチャが一番人気という結果になりました。

なぜ、そんな行動をするのか。その理由は

自己効力感=自分のことは自分で決めたい

という本能から来ているそうです。他人からダメといわれ続けると、自己効力感を脅かされてストレスとなります。それに抗うためには意思を示して命令に屈しない態度を示すため、命令と逆の反応が出るということです。

心理的リアクタンス02

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さて実用について、ネットで「カリギュラ効果」や「心理的リアクタンス」を検索すると、ずるいマーケティングのテクニックがいっぱい出てきますが、こればかりが多用される社会は不健全だと思います。

なので、本来の ”自己効力感を肯定するもの" という意味に立ち返って、デザインの立場から、まずは事例をもとに考えてみます。

事例1. Don’t Buy This Jacket

パタゴニアは環境への配慮を重視している会社です。その取り組みを象徴する事例として、同社はかつて「この商品を買わないでください」という広告を出しました。

エコへの意識が高い人は、こう思ったに違いありません。

「じゃあ、これは買うのをやめよう。でも何も買わないのはしゃくだから、環境に配慮された商品があるなら買うぞ」

反抗精神を自社関心に向けさせて、自社の商品を検討させ導線につなげるながれは、よく考えられた仕掛けだと思います。

事例2.女は大学に行くな

このコピーは反抗精神をあおりながらも、本人への否定や禁止よりも、本人を奮い立たせるメッセージだと感じるはずです。

ネットには不毛な煽り文句がたくさんありますが、特定の誰かを対象にするのではなく(選挙とか)、慣習や制度などに対して、みんなの心を奮い立たせる煽りは、人々の行動をうながすきっかけになります。

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ここまで広告の紹介でしたが、次にデザインの仕事をするときの応用も2つほど考えてみました。

応用1.ルール違反できる範囲を見極める

デザインを考えるうえでは何かしらの制約がありますが、条件を少し変えることでそれ以上の魅力が生まれるなら、ルール違反は時としてありです。むしろクライアントが考えもしなかった解決策として、高い満足度につながることもあるし、デザインする本人にも闘志が沸き立ちます。無理といわれていることを乗り越えてみようじゃないかと。

ただし、やってはいけないルール違反はNGです。これまでの設計者の努力を水の泡にするとか、もう既に会社として決まっている方針とか。

どこまでが変更してよいか見極めのスキルは、デザイナーの経験値によるところが多いと思います。

応用2. プレゼンで業界の否定から入る

あえてクライアントの業界全体における否定から入ると、提案内容をより魅力的に見せることができます。代表例はご存知、スティーブ・ジョブズですが、プレゼンを見返してみると面白いくらい否定ばっかです。

・PC(windows)の否定 → Mac (OS X)
・Blackberryの否定 → iPhone
・スタイラスの否定 → タッチインターフェイス
・ネットブックの否定 → iPad

そうすると受け手は「じゃあ、君は何をしてくれるのか?」と心理的リアクタンスが高まります。そこですかさず、その期待に応える製品やサービスを紹介する、それもシンプルで明確な解決策で。これができれば完璧です。(ただ、そんな提案ができるデザイン案はそうそうないと思うので、使い方は要注意)

話を切り出すとき、クライアントの製品やサービスの否定は危険なので、業界全体で「みんな実はそう思っていた」(実は規定概念を壊したい)ということに焦点を当てるのが良いかと思います。

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まとめ

ここまで書いてみると、心理的リアクタンスはあらためて、自己効力感にはたらきかけるためのトリガーだと思いました。むやみに煽ったり禁止したりするのではなく、相手の意思を尊重することが大事ではないかと考えます。これをひとことでいうと、

ハートに火をつけろ

ということに尽きるかなと思いましたので、最後にDoorsのLight My Fireの動画を貼っておきます。


デザインとビジネスをつなぐストラテジーをお絵描きしながら楽しく勉強していきたいと思っています。興味もっていただいてとても嬉しく思っています。