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ソーセージ世界について 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』

指がソーセージ?

みなさんは、ソーセージ・バースについてどう思いましたか? マルチバースを表現するために無理やり突飛な世界をぶち込んだにしては、些か下ネタすぎます。指がソーセージはやりすぎでしょ。
映画全体がそうですが、下品すぎますよね。ぼくが日本人だからでしょうか?


〇〇?「エブエブは下品だから価値のある作品なんだ!」
えぇ、それはさすがに違うでしょ。そんな感想言ってたら逆に作品の評価が下がっちゃうよ。
レビューを見ていると、やっぱり下品だったり、意味がわからないという意見がちらほらしてる。絶賛している人でも、あのソーセージ世界はよくわからない!といった感想を目にします。
実際、一緒に観たうちの母親も「あの手がソーセージになるシーン、気持ち悪いし、意味がわからなかった」と言っていました笑

そして、ぼくの感想はどうだったかというと…
(指がソーセージの世界は…)


いろんなマルチバースの中で一番ウルッときました!

いやほんとに、皮肉とか逆張りではなくマジで泣きかけました。(そのシーンを観た時に感動を覚えた自分に驚いたんだよね。)
まさかの1番好きな世界です。(もちろん、二番目は石になる世界)
泣ける理由については後で説明しますが、とりわけ、ぼくはピアノに弱くて、あそこで「月の光」なんて弾かれたら感極まっちゃうわけです。

あんな馬鹿げた世界のどこに泣けたの? 下ネタが好きなの? 他の人とは違う自慢ですか? エブエブを絶賛するため無理やり感動してるんじゃない?

そう思うかもしれませんが、ぼくは率直に下心なく感動しました。その理由について後付ですが解説してみますのでちょっと聞いてみてください。

ぼくはよく「もし」の世界を妄想します。もし目がない世界だったら、もし手がなかったら、もし女性しかいない世界だったら。色のない世界
まあフィクションですよね。そういう作品もたくさんあります。嘘のない世界とか、宇宙人になったりとか、ドラえもんの石ころ帽子とか。
そういう世界に自分を置いて、どう感じるか想像しちゃいます。
フィクションに限らず、人間の美的感覚がどう変化するのかにも興味があります。時代や文化によって美的感覚は違いますよね。首が長かったり足が小さい(纏足)のほうが美しいとか、昔の時代だったら自分はイケメンなんじゃないか?とか、まあ脳内バースジャンプをするわけです笑

でも、指がソーセージの世界は考えたことがありませんでした!まあ日頃からそういう妄想をしていたのですんなり受け入れられたというか、むしろ感情移入してしまったんですが。

考えてみてください。わたしたち世界から観ると非常識ですが、あちらの世界では常識であたりまえだということを。

もし、あなたのパートナーから
「なんで指が5本なの!?気持ち悪い!!」
なんて急に言われて、拒絶されたら?

あの世界ではエブリンとディアドラはカップルで、バースジャンプしてきたエブリンにいきなり拒絶され、あの世界では「もっとも侮辱的なジェスチャー」をされた。

とぼくには観えて、その理不尽な拒絶を受けたディアドラの気持ちにとても感化されてしまいました。

つまり、あの世界はカフカの「変身」なんですよ。

グレゴール・ザムザ

そしてあのソーセージバースを否定されてしまうと、ぼくはグレゴール(虫になってしまった「変身」の主人公)みたいにとても悲しい気持ちになってしまいます。

「変身」は人間が虫になる外見の恐怖感や気持ち悪さを通じて、人間の内面に潜む本能的な忌避感や疎外感を表現しています。

ソーセージ世界のすごいところは、下品を通じてそれを表現しているところです。

虫になったり、宇宙人になったり、両親が豚になったりと、そういう表現はたくさんありますが、まさか下ネタでそれを表現するとは正直脱帽しました。現代の過剰なポリコレ意識を逆手に取っています。

ソーセージ世界をこれだけ沢山の人(特に日本人)に忌避感を抱かせているのは、表現的に成功ではあるんですが作品全体の評価にも影響してしまいます。

なんで下ネタなのか?虫でもよかったんじゃないか?

監督が下ネタ好きなだけかもしれないけど、忌避感の許容値がちょうどよかったのかもしれない。好きな人もいれば嫌いな人もいる。

下品で気持ち悪いと思った皆さんへ
その感覚はまったく正しいです。虫を気持ち悪いと思うように。

でも、もしかしたら、この作品を「変身」の現代版として捉えると、評価が変わるのではないでしょうか?





あとがき

まさかこんな結論になるなんて書いてる自分がびっくりしました。ぼくもこれを書くまでは、最高に面白いけど下品すぎるという評価だったんですが、改めてこの作品を評価せざる負えないです。
結局、肯定的な感想になってしまいましたが、ぼくみたいに「面白いけど、下品でもったいないな」と感じていた人には良い考察ではないでしょうか?

映画ってファーストインプレッションがやっぱり大事で、否定的な感想にとやかく言うつもりはないけれど、ただ下品ってだけで否定できる作品ではないのかもしれない。
それは「変身」を虫がキモいからダメってことになっちゃう。あれはキモいから価値のある作品なんだ。

エブエブは下品だから価値のある作品なんだ!
こんなレビュー見たら、ドン引きなんだけど。正直こんな結論にしたくない

でもそう言わざる負えない

ちなみに、エブリンとディアドラの演者さんたちは親友同士で、「もし監督に変なことやらされたら一緒に逃げよう」なんて言っていたらしいです。それをあんな泣ける演技にするなんて…

蛇足ですが、この記事を書いている最中、漫画「pupa」やゲーム「沙耶の唄」が思い浮かびました。あとは「新世界より」と「皆勤の徒
どれも面白くてオススメです!


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