【連載:地域交通のカタチ】徳島のDNAを生かし、「地元企業」を貫く 〜阿波銀行 福永丈久氏 & 電脳交通 近藤洋祐〜
電脳交通は地域交通の維持・存続を目指し創業から7年以上経過、過去3度の資金調達を実施し、多くの企業と資本業務提携を締結しました。
わたしたちが向き合う地域交通を含めた地域経済全体やタクシー業界の課題と将来性などを株主の方々や提携企業の皆様はどう捉えているのか?弊社代表取締役社長・近藤洋祐との連載対談を通じて浮き彫りにする連載【地域交通のカタチ】
第7回は阿波銀行頭取の福永丈久(ふくなが・たけひさ)氏をお迎えしました。2020年に創業間もない電脳交通に対して銀行本体で出資するという珍しい形式での支援に至った経緯や、地元経済を支えるバンカーとしての思いについて語って頂きました。徳島における地域交通の現状や、電脳交通が徳島から本拠地を移さない背景などについても議論を深めました。
銀行本体での出資、将来性とビジネスモデルで判断
電脳交通 近藤(以下、近藤):最初に電脳交通を知って頂いた経緯について、お聞かせいただけますでしょうか。
阿波銀行 福永氏(以下、福永氏):近藤さんが会社を立ち上げて、配車アプリなどベンチャー的に事業を起こしているというお話は伺っており、株式上場を目指していることも知っていました。そういった中で、我々としてもご支援できる部分があれば、やっていこうという考えでした。
実際にお会いすると、好青年というか、非常に若くて真面目そうだなと(笑 それ以上にビジネスのプランやアイデアなど、発想が豊かで深く、経営者として非常に魅力のある方だなという印象を持っています。
近藤:ありがとうございます。初めてご挨拶をさせていただいたのが2015年でした。青年会議所の新年の挨拶回りだったと思いますが、その頃から電脳交通の構想もずっと練っていました。2015年12月に創業して以降、「スタートアップを最短で成功させるには東京に行ったほうがいい」といった声を聞いていたんですが、それにずっと違和感がありました。優れたビジネスモデルと、経営資源を集められるのであれば、場所はあんまり関係ないなと考えていたので。
自分の故郷である徳島を本拠地にしながら東京のスタートアップと肩を並べて、さらに実績で勝っていきたいと考えていましたが、正直、この事業計画は金融機関からするとなかなか受け入れられないだろうなと思っていました。
そんな状況の中で、2020年に阿波銀行本体からご出資いただいたのはとても嬉しかったです。あまり前例のないことだとお聞きしていますので、絶対成功しないといけないなと身が引き締まる思いでした。引き続きしっかりやっております。
福永氏:あの時は直接出資という形態でしたが、確かにIPOを目指していくようなアーリーステージの企業に銀行本体が出資するケースは一般的にあまりないかと思います。それでも、我々としては地元企業に発展して頂いてこそ、地域金融としての役割が果たせるという考えが根底にあります。そこでベストな方法として出資という形態を選択しました。地域交通、特にタクシー業界の実状は我々もよく見えていましたので、電脳交通のビジネスモデルや近藤さんご自身の経営者としてのお考えを聞いて、支援を決めました。
近藤:いまお話に出てきた地域交通の現状をどう見ていますか。
福永氏:地方における公共交通機関の現状は非常に厳しいです。例えばバスは赤字路線も多く、年々、維持が難しくなっています。それでも高齢者の移動手段などが必ず必要になりますから、タクシーを使った移動というのは徳島の実情に合う可能性があるのではないかと思います。
近藤:2010年から15年まで家業のタクシー会社の経営再建をしていたので、徳島というか地域経済の実態みたいなものは肌感覚で感じていました。徳島は47都道府県中でタクシーの取扱高が低い地域なので、その地域のタクシー会社に買える価格で設定すると日本中に展開できる可能性が生まれます。徳島で創業して、経営資源を集めていく初期の段階はすごく大変でしたけど、逆に今となってはそれが強みになっていると考えています。
地元企業のために適切なリスクを取る
福永氏:阿波銀行には「永代取引」という、世代を超えた息の永いお取引でお客さまも当行も永続的な発展を目指していこうという考え方があります。我々が伝統的に営業方針として実践してきたものです。地元企業を育て、それが大企業に成長していって、いろいろな事業展開をしていくときにお役に立っていく。それが我々にとって一番目的に合っているわけです。
当行のコアビジネスは中小企業向け取引です。中小企業のビジネスモデル上の特徴として、キャッシュフローの強化が課題であることが多いです。一方で成長していくためには先行投資も要る。しかし、そこで返済を伴う融資を受けるとまた資金繰りが厳しくなる、といった問題があります。
そういう状況で、以前から出資という形態で、企業の貸借対照表では資本に計上される取り組みを検討し続けてきました。2018年にはファンドを設立し、銀行本体による出資も含めて地元企業を支えるために適切なリスクを取りながら、銀行の収益力も強化しています。昨年、ファンドを運営するキャピタル会社を作ったのもそういう背景からです。
徳島県は人口減少が急速に進んでいます。人口が減れば事業所が減り、経済規模も縮小していきます。それは避けて通ることのできない現実ではありますが、少しでもそのペースを緩やかにしつつ、新しい企業や事業を起こしていく必要があると考えています。
徳島は、起業家精神が旺盛でそういうDNAをお持ちの方が多いと思います。実際に起業を検討している方も多く、あとはそれを我々がどう見極め、どういった形でご支援をしていくかということが課題となります。我々は銀行ですから、資金提供の方法としては融資のウエートがとても高いのですが、出資という手法についてもさらに拡大していく必要があると感じています。
「本拠地は徳島から変えません」
近藤:先日、御行の若手職員向けに講演する機会を頂きました。それが「大切なことは全て阿波銀行に学んだ」というタイトルでして(笑 創業からの8年間を振り返りながら、「このタイミングでこういう投資融資をしていただいた結果、成長率がこれぐらいになりました」といったストーリーをお伝えしました。
彼・彼女らもまた、起業を検討されているお客さまの支援を日々行っていると聞いています。電脳交通への本体出資に関しては、聞く話によるとあまり前例がなかったのでかなり担当者の方々が苦労されたという話を聞いていました。それを乗り越えて支援して頂いたということは、私たちからすると出資を受けたこと以上に嬉しかったんです。
一方、それは行内の皆様からすると、前例のなかったことを達成できたという物語になって、その結果この事業が成長したというところまでつながりますので、それを経営者自身から若い行員の方々にお伝えできたことはありがたい機会だと思いました。この良い流れの循環が、先ほど頭取のおっしゃった「永代取引」という考え方だと思っています。
福永氏:アーリーステージの企業に資金を出したことで、その企業が成長していったというストーリーに阿波銀行がかかわっていることが、我々として一つの誇りだと思います。
特に若い人は地域に貢献したい、地域を良くしたいという明確な意識をもって銀行へ入って来る方が多いんですよね。そういう中で、電脳交通のような実例を目の当たりにすると、これから自分が目指していく方向について、自信を持ってやっていくことにも繋がっていくと思います。
近藤:電脳交通としての次のチャレンジは、世界にどう打って出ていくかということで、実はもう既に海外の方でも情報収集をしています。中長期的にそういうことを考えていかないといけないと思うんですけど、その際に本拠地をどこにするのかはあまり考えない方がよいのではないかと思っています。
経営資源はそろってきていますし、我々は中央の経済界に近寄って行った方が良いような事業者ではないと思っているので、だったら徳島という故郷を徹底的に大事にしていきたいと考えています。ずっと徳島に本拠地を置いて、そこで大きな売上高と雇用を生み出していくというのが私のライフタイムミッションですし、その気持ちはずっと変わらないと思います。
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最後までお読み頂きありがとうございました。
引き続き本連載では各界のキーパーソンとの対談を軸に、未来の地域交通のカタチについて取り上げてまいります。
次回の記事も楽しみにお待ち下さい。
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