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3-3.現場と一体感のあるPMIを目指して

買収先会社全体としてのベクトルを上向きにしていけるか

総論として、管理体制整備はじめ取組み方法にかかる基本的な考え方としては、「2-4 役職員側から見たIPO準備のメリット」で記載の内容になると考えます。

大きな違いとしては、a)買われる側と買った側のプレイヤーの別があること、b)その上で最終的には事業面でのプラスの相乗効果をもたらす必要が本来はあること、になるかと思われます。

※1.買収時のDD等は別項で記載する予定にて、ここでは、適切に最善のDDがなされて買収がなされたもの、という前提にしたいと思います。
※2.また、買われる会社と買う側のレベルによってPMIのあり方も異なると考えますが、そこはいったん置いて、主に中小企業向けの一般論として述べたいと思います。

PMI前夜での心理的概況

昨今、M&Aは、仲介業者の積極的な営業・認知活動もあって一般的に受け入れられるものになっているかと思いますが、それでも一般的な中小企業としてはそう頻繁にはない機会かと思われます。

最近でこそ、PMIが大事という仲介業者の宣伝も見かけるようになってきましたが、事業戦略からM&Aを検討し始めた会社にとっては、買収候補先を見つけて検討し、接触・交渉・ディールクロージングまで済ませるだけでも一苦労で、そこでようやくやれやれとなってしまう会社が多数を占めるのが現実ではないでしょうか。

また買われる会社にとっても、オーナーサイドも基本的には最初で最後の一度きりの会社売却が通例になるかと思われ、ひいては、買われる会社の役職員の方々にとっても全く思いもよらぬことを、ディールクロージングのあたりで初めて知らされ、不安感も覚えて買収者を迎えることと思います。

ただ、双方の主要メンバーは、クロージングまでには顔合わせをしているでしょうし、適切なDDがなされてPMIを見据えた動きもできていれば、今後の課題や進め方についても主要なポイントは検討・調整の後、コンセンサスを得てクロージングを迎えるかと思われます。

クロージング後・PMIスタートにあたって

おそらくは、買われる側と買った側の主要役員も一同に会し、買われた会社の従業員も集められて、挨拶と概要説明がなされた上、主要メンバーには、今後の経営方針や体制、進め方の共有が図られてスタートされるものと思われます。

中小企業同士のM&Aであれば、当事者の規模によりますが基本的には買った側から買われた会社に常駐の役員と主要メンバーが営業部門と管理部門にそれぞれ送り込まれて、買われた会社での事業運営に携わっていくことが多いかと思われます。

そして、買収側が連邦経営を望まない限り、かつ、買われた会社のオーナー経営者も自分が指揮命令を受けることを許容しない限り、買われた会社のオーナー経営者は、買収時もしくは1~3年の引継ぎ後に退任されるのが中小企業同士のM&Aでは多いケースかと思われます。

その場合に大きな課題となるのは、①誰が買われた会社の次のリーダーシップを取るのか、という点になります。

また、同時に必要な課題設定として、①のリーダーシップの下で、②買収側および買われた会社は、営業面・管理面それぞれにおいて、どういった目標に向かっていくのか、という点です。望ましいM&Aのあり方では、この目標設定のための現状認識もかねたDDが行われ、この時点では双方が対等な立場でコンセンサスを得て設定された目標が、買われた会社のすみずみまでアナウンスされて行動に移していくような状況が望まれますが、残念ながらこうした状況を迎えるM&Aは多くはないかとも思われます。

そして、このクリアすべき2点の課題について、大きな影響を与えるのが買った会社と買われた会社のレベルの違いです。主には、営業や管理、財務状況といったすべての事業要素において"買った会社>買われた会社"という図式での買収が多いかと思われ、その場合には、新たな親会社が打ち出す方針とリーダーの下、買われた会社である子会社はそれに従って対応していく、というパターンとなり、ある意味、比較的分かりやすいPMIプロセスになると思われます。

また、もし、買収者がIPOを目指している場合には、管理体制としての目標水準がイメージしやすく、さらには買収者内の整備・熟成が進んでいる際には、それを買われた会社の人員体制や状況に応じて段階的に導入していけばよいので、比較的、PMIは進めやすい可能性が高まるでしょう。

営業面では、オーナー経営者の戦略策定能力やネットワークの引継ぎをできる限り意図して(基本的には継承は難しいと思われますが・・・)、買収前までの売上と収益の維持と更なる伸長を目指していくのに対し、管理面では、まず意思決定ルートの整備にはじまり、親会社への必要期限での適切な月次報告(予実管理含む)と定例会議の実施までの運用についての課題を一つ一つクリアしていくことになると考えます。

しかし、昨今では、新規事業進出を目的としたM&Aが多い中では、買収した事業に関しては、買った会社>買われた会社という図式が成り立たないことも多いと考えられます。

さらに、大企業が中小企業を買収する場合には、機能分化された大企業と違って、中小企業では、各業務量は少ないものの営業から管理に至るまで、どの職掌においても多岐に渡った守備範囲が求められるため、買収者側から送り込まれる人財が買収先会社で迅速かつスムーズに機能していくのは難しいことも多いと思われます。また、意思決定のスピードも基本的には中小企業のオーナー経営者の即断即決に大企業は劣ることから、PMIひいては買われた会社での新たな経営体制での事業推進を軌道に乗せるのは一筋縄ではいかないと考えられます。

主要メンバーの当事者意識・熱量が必要不可欠

比較的分かりやすかったり、進めやすい可能性が高いと思われるケース、そして一筋縄ではいかないケースであっても、いずれにせよケースバイケースでの対応が必要となり、体当たりで事にあたっていくしかないと思われますが、必要不可欠な要素を1つだけ挙げろと言われれば、主要メンバーの当事者意識・熱量ではないかと私は考えます。

そのためには、繰り返しになりますが①誰が買われた会社の次のリーダーシップを取るのか、という点と、そのリーダーシップの下で、買収側および買われた会社は、②営業面・管理面それぞれにおいて、どういった目標に向かっていくのか、という点がクリアされていることが相互作用的に必要と考えます。また、そのリーダーシップの発揮が期待されるメンバーへの報償も適切に設定する必要があるとも考えます。

リーダー不在で、買われた会社の今後の目線を上げる目標も合理的・明確に設定されない中、かつ、給与等の待遇が頑張っても頑張らなくてもさほど変わらない中では、当事者意識や熱量だけ求められてもボランティア活動ではないのですから普通は能動的対応どころか、面従腹背や目に見えた反発が生まれてもおかしくないと思われます。

逆に、買収側および買われた会社の主要メンバーが、営業面・管理面それぞれにおいて、どういった目標に向かっていくのか、建設的・適切に議論を重ねていければ、その過程で今後リーダーシップの発揮が期待されるメンバーも自ずと明確になっていくでしょうから、その当事者たちの間で熱量は高まっていくことでしょう。

そして、もしそこに頑張った分への報償も設定されれば、当該リーダー達の熱量はさらに高まり、買われた会社内、そして買収者側の関連窓口にもその熱が広まり、結果として買収者含めてのグループとして、本来当該M&Aで得たかった効果を得られ、関係者皆がプラスになるというアウトカムがもたらされうるものと考えます。特に、オーナー経営者の代替わりの意味も含めての事業承継の必要があった会社では、当該企業にとっての望ましい解になるとも考えます。

もちろん、こうした理想的ケースはこれまで少ないと思われますが、利害関係者皆にマイナスはないのですから、それを志向しない手はないと思われます。

私はいろいろな会社でこうした状況での側面支援もさせていただくことがありますが、本来は、上記の条件が成立すれば当事者内で完結すべきと考えます。なぜなら、こうしたPMIは事業推進そのものに他ならないからです。

ただ、昨今、特に中小企業では人財不足であること、さらにはM&Aの経験値も高くないのが通常ですから、脱線してあらぬ方向に行かないように外部者の支援を仰いでなるべく順調に軌道に乗せるようにするのは選択肢として検討せざるを得ないとも思われます。

また、日本企業では、特に会議など表向きの場では意見をストレートにぶつけ合うことをなるべく避けて穏便に事を運んでいきたいという風潮が強いのが実状かとも思われます中、さらには、買われる側と買った側のプレイヤーの別が根底にはある中では、外部の第三者がその間を取り持っていくという点では利用価値・存在意義があるのかなとも感じております。

顧客企業のIPO準備の延長線上で、PMI的に関与させていただくことが多いため、「2.IPO準備について」で記載のプロセスで買収先に関わっていきますが、業務フローヒアリングや定例会議でのファシリテーションだけでなく、表からは見えないところでも触媒として、会社として望ましい方向になるよう関係者への働きかけを行えればと思い言動しております。
そして、関係者の一体感と熱量が高まってきて、その事業の方向性が上向く様子・ベクトルが感じられてくるようになりますと、伴走支援者としても1つの通過点をクリアしたような安心感を得られるものです。

PMIの参考図書

比較的良書であると私が思った「ポストM&A成功44の鉄則」をここで紹介させていただきます。
PMIに初めて直面される方にとって、現存するPMIについて書かれた書籍は、大企業向けの外資系コンサルの解説書や、表層的・技術的説明が中心で具体的な取組み方をイメージするのが難しいものが多いと思われますが、こちらは一歩踏み込んだ内容となっており、PMIのあり方について悩まれている方には比較的参考になるのではないかと思われます。