見出し画像

2-4.役職員サイドから見たIPO準備のメリット

会社全体としてのベクトルを上向きにしていけるか

IPO準備のプロセスにおいて、役職員の方々と打ち合わせや作業を行っていく中でしばしば聞かれる声として、「うちの会社、実態はかなりワンマン経営ですけどIPOできる見込みがあるのですか?」、「IPOしてもメリットがあるのは社長だけですよね。IPO準備の大変さ・負担は我々従業員に押し付けられるのに。」、「今の日常業務を回すだけでも手一杯なのに、大変と聞いているIPO準備の作業を新たに行う余裕はありませんよ」といったものが典型例として挙げられます。

近頃の一見キラキラしたIT系スタートアップ企業では、会社設立時からIPOもしくはM&AでのEXITを目標に掲げて株式インセンティブも含めてスタッフを集めるでしょうから、そうした声を聞くことはそんなにないのかもしれませんが・・・

特に非IT系の中小企業で、創業オーナー経営者もしくは創業家代々の経営者の才覚で業容を伸ばしてこられた会社では、当初IPOを目指すつもりがなかったものの、様々な理由からIPOを目指されることになる場合、冒頭のような声が聞こえ、なかなかIPO準備・経営体質改善が進まないことがあるかと思われます。

IPO準備の進め方についての概要は、『2-1 IPO準備の全体像』で記載した内容プラス対象会社にカスタマイズした想定プランを当初は経営者の方だけ、もしくは主要経営陣の方々だけに対して提案してご説明して受注しますので、受注後、IPO準備プロジェクトがキックオフされた際には、実務メンバーの方々にも、IPO準備の全体像を示して、自分の言葉でお伝えするようにしてます。

そのときには、経営者の方々向けのお話とは少し角度を変えて、従業員の方々にとってのメリットについてお話することが多いのですが、従業員の方々からすると、基本的にプライベートカンパニーはオーナー経営者の強力なリーダーシップがあってはじめて様々な苦難を乗り越えて業容拡大してきているので、ワンマン経営としか映らないともいえます。

しかしながら逆に経営者の側に立てば、先の先を考えられる人間は従業員の中には少ないか皆無であり、できるだけ先読みしながら即断即決で経営を取り廻すのは従業員の雇用を守っていく側面も少なからずあるのに、彼らは目の前のことに囚われて不平不満を言いがちで困るという声もよく聞くことです。客観的には親心子知らずかな、とも思われる状況ですが、おそらく一般的によく見られる光景ではないかとは思います。

とはいえ、経営者がすべての細かいことを把握して進めることは当然に不可能なので従業員の方々の協力が自発的に行われるような環境整備が必要になってきますし、従業員の方々としても意識を変えていかれないと今までやってきてないことを新たに取り組むモチベーション・能動性も出てきません。

そのあたりの会社全体としてのベクトルを上向きにしていけるかどうかがプロジェクトの進行のカギとなりますし、言い換えますと会社をより良くしていくカギでもあるのではないか、と考えております。

現場従業員にとってのメリット

現場従業員の方々から業務のヒアリングをさせていただく中で、上記の状況把握をさせていただき、経営者が本当に最低人数かつ高くない給料で業務を回させることを現場に強いているのか、はたまた、従業員サイドの不平不満を言いがち度合が強いのかをある程度見定めた上で、お話させていただくのが、『IPOを目指すのは確かに大変な部分もあるけど、皆さんにとって非常にラッキーであるともいえますよ』ということです。

第一に言えるのが、IPOを目指すということは、パブリックカンパニーになっていく必要があるため、経営者はワンマン経営を脱却していかざるを得ないこと、これは非常に大きいメリットではないかと客観的には思います。そうでなければ、その会社では退職しない限り、ワンマン経営者の下で言いたいことも言えず、言われたことを黙々とこなすしかない日常を送らざるを得ないのが通常かと思われます。

しかし、”IPOを目指す”という錦の御旗があれば、経営者の方々にも意識改革していただく必要があるのが通常です。すなわち、IPO準備をきちんと行えば、基本的な会社運営ルールの設定とそれに基づく日々の業務運用、そしてそこから自然にタイムリーに上がってくる情報に基づく組織的な経営判断ができるようになるので、そうした体制を前提として従業員の方々をより信頼できるようになっていただきたい。そうすれば、経営者におかれては先々の経営戦略と重要な経営判断、環境整備に重点を置いた姿を目指していかれるのが望ましいあり方かと思われます。

そうしますと、従業員サイドからも、会社のためにこうした方がいいのでは、という進言をしやすくなっていきますし、逆にそうしたものがどんどん出てくる必要があるとも思います。つまり、IPOを目指してきちんとしたIPO準備を行う場合には、会社のために良い取組みをしようとすることについて妨げるものはなくなり、その観点で自分達の業務環境を改善していくことができるのではないか、と考えます。

IPO準備や内部統制整備、経営会議などの定例会議にオブザーバー参加させていただくことも多いですが、そうした発言や活動報告を求めるようなファシリテーションを私は行います。誰か主要な窓口担当者とだけ話を進めるのではなく、特に業務やPDCAサイクルにつながるテーマでは現場の皆さんに参加意識を持ってもらう必要があると思ってます。

業務ヒアリング後、業務フローの改善を行う必要があるのが通常ですが、だいたいは会社組織全体で見た場合の二度手間、三度手間の業務重複があったり、現場管理者の確認チェックが不十分なために、その下流工程で業務やり直しがしばしば生じて業務時間が増加しているために、重要ポイントでの確認チェックの徹底、といったあたりを手当できて、その改善後の業務運用が定着してきますと、現場管理者の業務キャパが確保できるようになります。

そのあたりでようやく、現場の方々に目に見えたIPO準備のメリットを実感いただけることが多いかなと思います。そこで再び、IPO準備の今後の進め方、目指していく目標を共有させていただき、次のステップを一緒に目指していくことになります。

現場管理責任者の意識醸成

しかし、次の大きなハードルとしては、現場管理責任者が確認する意味・目的を理解いただき、一定水準以上の世の中の会社と比べて、管理者としての必要水準を満たしているのか、ギャップがあれば、どういった対応が必要になるのか、を認識し、対応いただく必要が出てきます。

それが、管理体制整備にかかる基礎工事の根幹の1つでもあると認識しておりますが、どこの会社でもIPO準備をしようかというくらいの業容になられているところでは、基本的に業務現場の方々は真面目に日々取り組んでいらっしゃり、現場管理責任者の方々は現状の問題点や改善策も何となくでも認識されているのが通常です。

そして、IPO準備をするまでは、経営陣・上司の指示に従うだけで、定例会議体があってもほぼ報告会でしかなく、何か改善点について自発的に発言をして建設的に話し合うというものになっているのは残念ながら少ないですが、課長や部長といった現場管理責任者のそうした意見や取組みが求められる状況がつくられます。

この段階でも、「管理者は大変」だとか、「中小企業ではプレイングマネジャーであることが多いので日常業務も抱える中ではなかなかそうしたことを考える余裕がない」だとか、「管理者の責任を負いたくない」、といった声もしばしば耳にします。

しかし、こうしたときにお伝えしたいのが次のような内容です。
『他の世の中の一定水準以上の会社の管理職の方々は、そうしたことが出来ておられますし、その水準に達していけば、自分の付加価値を高めることにもなって経営者が放したくない人財と認識すれば給与も高まりますよ。もし待遇が改善されなければ、転職市場に出れば自分の付加価値に見合った、今よりも高給待遇の会社に移ればいい、そうしたことができる環境なのですよ』と。

換言すれば、企業価値向上のための個々人の価値向上

経営者の方々の言い分も、従業員の方々の言い分も理解できるのですが、ここまでの話を縮約して述べるならば、『企業価値の向上がIPOのためには必要であり、そのためには役職員一人一人の価値・パフォーマンスの向上が必要』なのだと思います。

IPOのためだけに限らないと思われるこの観点において、IPO準備の基礎工事(管理体制整備)がきちんとできれば、私見としましては、IPOは市場や事業戦略の動向を見据えて機をうかがいつつ、たとえ結果的にはIPOされなくとも、成長発展を続けていくことができる会社になられていると確信します。もちろん、IPOできるときにされるのでよいかと思いますが、個人的には市況や経済情勢が乱高下しているときには無理してIPOされなくてもよいのではないかとも思っています。

ラグビーと会社経営

余談的になりますが、個人的にはプレイしたことはないものの、ラグビーをTVなり会場なりで観戦するのがとても好きなのですが、ラグビーと会社経営は特に共通点が多いのではないかと感じてますがいかがでしょうか。

『One for all, all for one』という言葉からもうかがえますが、チームとしての勝利という目標に向かって、個々人のフィジカルや判断力も高めるべく各自その努力を厭わず継続して様々な準備を行う。そして試合の際には全体として規律も保ちながら動きを連動させて、周囲や相手含めた状況をみての一瞬のタイミングを逃さないプレーが求められ、それらをより高い次元で試合終了まで完遂できるチームが勝ち残っていくのだと思います。

これも理想論かもしれませんが、願わくば、会社もそうした姿が望ましいのではないかと考え、上記いろいろ申し上げた会社全体のベクトルを上向きにしていくにあたっての最終形イメージとしては強いラグビーチームの姿を抱いてます。

ラグビー日本代表チームのスローガンは、前回2019年ワールドカップでは『OneTeam』、今回の2023年ワールドカップでは『OurTeam』ですが、我々が関与させていただく会社でも、そうした姿が理想ではないかと勝手にイメージし、現場の方々と共有させていただきつつ、それが少しでも実現できるよう、微力ながら伴走支援させていただきたい、と日々奮闘しております。