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2.IPO準備について

2-1.IPO準備の全体像

これまで、様々な業種かつフェーズの中小ベンチャー企業様のIPO準備の仕事に携わってきましたが自分なりの全体像としては以下のようなイメージをもっております。

図のとおり、順番に、上に層が積み重なっていくイメージですが、家の建築工事のように、下の層のいわば基礎工事がきちんとできていないと、上の層は揺らぎ、申請書類の作成段階に至っても管理面の問題がクリアされず、そこから先にうまく進まない結果になってしまうと考えています。

時折、”上場準備を何年も監査法人とも契約して行っているのに業績や関連当事者以外の管理面の課題でずっと上場できない”と困られている会社さんを見かけますが、この管理体制整備の基礎工事に原因があることも少なくないのかなと思われます。

なお、①【会社設立、資本政策の立案と実施(事業計画策定、資金調達など含む)】は、これを間違えると後戻りできない意味で最も重要になることから基底の層として認識しておりますが、こちらの重要性および対策については、磯崎哲也氏など他の優れた方の著作もあることから、当方として①は割愛し、②以降について言及させていただきたいと思います。

また、いろんなIPO準備のパターンがあると思いますが、以下では一般的な中小企業がイチからIPOを目指す場合を想定して記載したいと思います。

IPO準備の全体像

a)管理体制整備

ここに含まれる、図の①~⑥の項目は、IPOを目指そうと目指すまいと、企業が成長発展していくためには必要不可欠となる内容と考えます。

②業務フローの整備・改善とその継続運用(状況によってはシステムの改善もしくは刷新整備)

これは文字通りの内容ですが、IPO準備やM&A後のPMIであっても、私の場合、管理面については、ここから手をつけていきます。非IT系企業のケースですと、基本的には販売・購買・在庫管理の3つの領域で、基幹業務システムの構想設計および後の内部統制対応にも活用できるくらい、結構細かめに業務ヒアリングを行って業務フローを書いていきます。

そこでは、業務の改善点の洗い出しも行うことができますが、これを行うことで対象会社の事業の細部、すなわち業務を理解できると共に、対象会社の役職員の方々とコミュニケーションを十分に図りながら、その事業体の課題も見えてくるので非常に有用と考えてます。

何より、業務上の課題棚卸とその解決に向けた取り組みでは、改善が進むと対象会社の方々に喜ばれると共に、そこで当方がようやく外部の人間ながらパートナーとして認められ、OneTeamとしてその先の事業課題に一緒にあたっていけるようになるのが一番、この仕事をやっていてやりがいを感じられる局面でもあります。

③組織・権限の明確化、決裁制度の導入、諸規程の整備とそれらの継続運用(主要な関係会社含む)

普通の中小企業では、規程関係では、定款や就業規則、給与規程あたりが備わっている程度が一般かと思います。
②の業務フローヒアリングがある程度、進んできた段階で、今後の組織のあり方を経営陣と議論し、組織関連規程の1次版を整備導入するところからのスタートが一般的かなと思われます。

④月次決算、原価計算制度の確立とその継続運用(連結含む)

監査法人が認める水準の決算を組むための準備としての月次決算を実施できるようにすることが、IPO準備をスタートした際の最初の大きな目標になるかと思われます。

⑤月次予算統制、月次取締役会開催の確立とそれらPDCAサイクルの継続運用(連結含む)

ここまでくれば、管理体制整備も一段落ですが、非IT企業ですと、役職員の方々のレベル・意識水準にもよりますが、2,3年はかかってもおかしくないかなと思われます。

⑥M&A、海外展開 ⇒M&A先、海外展開先での下記②~⑤の体制整備(PMI)

企業価値を高めてIPOすべく、上場前に他社を買収することもある場合には、基本的には当該子会社についても管理体制の整備が必要となる点で、ここまでで「管理体制整備」と総称したいと思います。

b)狭義の上場準備項目

この⑦以降の項目については、特にIPOを目指す場合に必要となる内容にて、狭義の上場準備項目と定義させていただきます。また、これらの項目については、IPO準備の一般的な解説書で記載されていることも多いため、ここでは一旦割愛させていただきます。

⑦関係会社、関連当事者取引の整備
⑧監査役監査、内部監査制度の導入とその継続運用
⑨J-SOX対応(説明責任資料の整備)
⑩監査法人による金融商品取引法に基づく正式な監査
⑪Ⅰの部、Ⅱの部など各種申請書類の作成(連結含む)
⑫期限内での四半期開示対応(連結含む)
⑬証券会社/取引所質問対応

そして、①から⑬までの全てが上場準備の内容となりますので、ここではそれら全体を広義の上場準備と称させていただきます。

2-2.IT系企業と非IT系企業による違い

在庫や有形固定資産が基本的になく、ほぼ完全にITデータで業務処理が完結できるような事業体をざっくりIT系企業と定義し、その逆で在庫や有形固定資産を有し、事業拠点と人員を多く抱えるような事業体をざっくり非IT系企業とした場合、管理体制整備の煩雑さは格段に違い、前者<後者と考えます。

以前、IPO準備中のIT系企業が、未上場のEC企業を買収する案件に売り手側で立ち会ったことがあるのですが、買い手のCFOがネットゲーム会社など、ずっとIT畑の方だったため、EC企業の買収後のIPO準備の大変さに気づかれてなかったようで、「監査対象期間にてこれから監査法人が入ってきたらPMIもかなり大変でしょう」と心配したところ、『さくっと半年くらいで監査意見出るように持っていきますよー』とおっしゃっていたのですが、買収されたEC企業はそれまで月次決算も税理士さんがチェックする程度の、いわゆる普通の中小企業だったため、たとえば在庫管理の精度について監査法人が求めるレベルなど想像もつかなかったはずで、関わられていた管理実務の方々のその後の苦労がしのばれることもありました。。。

2-3.いろんなIPO準備のパターンがありましたが・・・


最も取り組みやすいパターンは、資本政策について経営者と協議して決定し、上記のようにイチからスタートするケースです。

家の建築に例えますと、いわば、これから新築の家を建てるべく、土地の購入が決まり、これから設計して建築していく、というパターンです。
施主たる経営者の展望もうかがい、将来の展開に耐えうる基礎工事、すなわち管理体制整備を間違わないように行う重要性・必要性があります(途中から建築業者を変更する必要があって代役を務める場合に比べますと、格段に楽ともいえます)。

また、最近は以前ほどではなくなってきていると思いますが、特にVC勤務時代は、オーナー社長はVC投資営業マンとIPOを目指すということでにぎり、外部資本を受け入れIPO準備を進めていく、ということになるものの、実際にどういったことがこれから必要になるか、元々経営者の方は事業戦略や営業戦略を主眼にしてこられているのが通常ですから、管理実務でこれからどういったことが必要になるのか、実質ゼロ状態からスタートすることが大半でした。

そういった会社さんですと、一般的な中小企業と同様ですが、規模の小さい会社さんですと総務経理かねての担当者が1,2名いるのがせいぜいであり、経理も自計化できておらず、顧問税理士さんに領収書や請求書といった証憑類(昨今では、それらをクラウドでデータ共有でしょうか)を渡し、決算書を作ってもらう、というスタイルが通常です。

そこから、上記の図のように、上の層をいかに積んでいくか、、、それはそれでかなり大変ではあるのですが、ここでは一旦以上の内容で留めたいと思います。